意識を超えた決死戦
真澄はゴングと同時に一気呵成に前に出ていった。目を大きく見開いて一心不乱な表情をしていた。スポーツマン的な熱さとさわやかさと同時に獣のような獰猛性と後がない事への恐怖が見て取れた。戸田達が後に控えている事は考えず、自分が勝たなければと追い込み勝ちを急いでいた。それはセコンドにも伝わった。
「ああ、落ちついて!」
戸田は叫んだが真澄本人はこう思っていた。
(勝たないと!私が!日向君の負担を減らす!)
その切実な気持ちだけで目一杯だった。自分が負けたら勝利が試合をしなければならない。勝利を救う人間は他にいない、だから勝たないと。真澄は勝利の家庭問題に対しても同様に思っていた。
葛西はそのただならぬ雰囲気を感じた。正体はわからなかったが。
(何だこいつすごい気迫だ。)
葛西の勝負師としての感覚だった。真澄は必死に気持ちを相手の身体に叩きこむように数多くジャブを連打した。4ラウンドにしては明らかにしかけが早かった。当然スタミナもロスする。
「はっ、はっ!」
真澄は力のすべてをこめ短期決戦の様相で激しく連打した。しかし周りから見ると相手を近づけない牽制のようにも見えた。不器用ながむしゃらさと線の細さのためか、迫力があるかというとそうでもなかった。一発一発が軽いせいもあった。しかし目は必死そのものだった。葛西は真澄のラッシュを疑問視していた。
(牽制か?勝負を決める気か?)
真澄はかわされつつも鬼気迫る顔でジャブを放っていった。
(負けられない!)
戸田と明石は懸念した。
「仕掛けがはやい!ペースを見失ってる。」
「ペースを見失ってる上に我々の声が聞こえてない。」
「ペースを守るんだ!」
戸田の叫びに真澄ははっとした。自分を見失った事を確認した。
(戸田君のアドバイス、無駄には出来ない。)
真澄は自分の考えだけ突っ走り戸田の気持ちを無にした事を反省した。そして少し距離を取った。自分を取り戻そうとしていた。
(相手を疲れさせるんだ。)
しかし葛西はそれを感じた。
(その程度では俺は疲れないがな。)
真澄は戦い方を変えた。
(最小限の動きで近づき最小限の動きでよける。でないとこっちが疲れはてる。)
しかし葛西も攻める。ドンと真澄の顔にパンチが当たった。葛西は思った。
(思ったよりきいてないか。)
しかし真澄は苦しんでいた。
(効いた。)
それを戸田は察してアドバイスを送った。
「距離をとるんだ!」
真澄は再び防御を固めた。葛西はいくつかジャブを打ったが真澄はかわした。
(相変わらず防御がうまいな。)
真澄は思った。
(本当は勝ちに行きたいけど戸田君のアドバイスを聞こう。)
「少ない動きで攻めるんだ。」
「これで!」
真澄はまたパンチを出した。戸田はまずいと思った。
「また焦ってる。」
「はっはっ!」
汗かきで息を切らす真澄に戸田が激を飛ばす。
「焦るな相手をよく見ろ!」
2発真澄のパンチがブロックされた。葛西はあざわらった。
「何だその女みたいな弱いパンチは。」
葛西が疲れてない事に真澄は戸惑った。
「はあ、はあ、相手を疲れさせるつもりが…」
「スタミナには俺は自信があるんでね。」
葛西は前に出てきた。ガードを崩しにかかった。
「ぐわっ!」
真澄はのけぞった。さらに恐怖を感じた。しかしひるんだのを隠そうとした。
「これでっ!」
しかし決死の覚悟のパンチはブロックされた。しかし真澄はあきらめずさらに連打した。戸田は激を飛ばした。
「あせるな相手をよくみて少ない動きで攻めるんだ!」
葛西はあざわらった。
「へなへなだな!こっちはお前の攻撃をわざとくっているだけだ!」
その後、バスッと真澄のパンチは当たったが、葛西はわざとくってる感じだった。
「こんな軽いパンチ、男かこいつ…」
真澄は焦った。
(スタミナが斬れてきた。持久走に痛みが加わってるみたいだ…)
「ま、まだっ!」
真澄はカウンターをしかけた。しかし相手のパンチを食らった。戸田はまずいと思った。
「また食らった!」
さらに2発くってしまった。鼻に傷がついた。それが真澄をさらにあせらせた。
「こんな事で!」
真澄は恐怖を振り払い気持ちを振り絞った。葛西はそれを見て余裕を持ちにやりとした。
(結構タフだな。しかし苦しんでる。)
戸田は真澄の目付きに驚いた。
「すげえ目だ。」
真澄は怯えを隠すためすごい顔を作った。しかし今度は葛西のボディーを連続でくった。さらにフックも食った。真澄は相当効いていた。ふらつき手が下がりかけた。真澄は鼓舞しようとした。
「まだ負けられない!」
葛西はにやりとした。
「まだ俺は本気じゃない。」
真澄は体勢が崩れた。戸田はまずいと感じた。
「かなり効いてるぞ!」
真澄はパンチを打ったが葛西は先をよんであざわらった。
(そんな大振りなパンチに当たるか。)
葛西は隙を見て打ちかえし真澄のボディーに一発当たった。真澄は強がった。
(きいてない!)
「もう一発!」
葛西は再度ボディーを打った。
「くっ!」
真澄はひるんだ。




