第14話:金属の壁と、泥臭い試行錯誤
街から戻って数日。私は裏庭を自分の「工房」と決め、ひたすら青い石と向き合っていた。
(あの広場で掴んだ感覚を、今度は狙って再現する。土や石の成分を理解して、魔力で再構成するんだ……!)
まずは庭の土を手に取り、じっくりと魔力を流し込む。
指先から魔力を細く伸ばし、土の中の成分を探りながら、ぎゅっと密度を上げていく。
パキッ。
掌の中で、土の塊が歪に固まった。密度にムラがあり、少し力を入れただけでボロッと崩れてしまう。
(あ、ダメか。均等に魔力を流さないと結合が偏る。……もう一回!)
何度も土を握り直し、魔力の配分を微調整していく。集中しすぎて額から汗が流れた。
十数回目の挑戦で、ようやく大理石のように硬く、滑らかな黒い球体が掌の中に残った。
「ふぅ……。土でこれなら、金属はどうかしら」
私は裏庭の隅に転がっている、パパが昔使っていたという錆びた鉄のスコップに目を留めた。
これの不純物を抜いて、分子の結合を組み替えられたら、小さなナイフくらいは作れるかもしれない。
私はスコップに触れ、魔力を流し込もうとした。
――ガツン!
「いたっ……!?」
魔力を流した瞬間、お腹の奥に強烈な反動が返ってきて、私は思わず尻餅をついた。
鉄の結合は土の比ではないほど強固だ。私の未熟な魔力など、染み込むどころか表面で完全に弾き返されてしまったのだ。
(くっ……! 鉄ってこんなに硬いの!? 分子同士がガチガチにスクラムを組んでて、私の魔力が入り込む隙間が全然ない……!)
知識があっても、この世界の肉体と魔力の出力が追いつかない。
悔しくて、今度は買ってもらった青い石をスコップに押し当て、媒体として魔力をブーストさせてみる。
(入れ……入れ……!)
じりじりと魔力を流し込み、ようやく鉄の内部へアクセスできた――と思った瞬間だった。
パキィィン!!
「きゃっ!?」
鋭い金属音と共に、スコップの先端が粉々に弾け飛んだ。
無理に魔力をねじ込んだせいで鉄の構造が耐えきれず、歪みが生じて「自己崩壊」を起こしたのだ。破片が頬をかすめて冷や汗が出る。金属錬成の難易度は、土遊びとは次元が違った。
「お嬢様!? 大丈夫ですか!?」
物音を聞きつけたシアが、慌てて部屋から飛び出してきた。
粉々になったスコップの残骸と、泥と鉄サビで真っ黒になった私の顔を見て、シアは目を丸くしている。
「これ……お嬢様がやったのですか? 鉄を素手で砕くなんて……」
「ちがう、の。……失敗、しちゃった」
私はボロボロのスコップの柄を握りしめ、悔しさに唇を噛んだ。
一発で思い通りの形にするなんて、今の私にはまだ到底無理だ。鉄の硬さに負けない圧倒的な魔力のコントロールと、金属の構造を正確に解きほぐす手順を、もっと泥臭く研究しなきゃいけない。
「シア。……もっと、ぼろい鉄、あつめて」
「……かしこまりました。お嬢様の『研究用』に、使えそうな廃材を揃えておきますね」
シアは私の、2歳児らしからぬ真剣な眼差しに圧倒されたように、深く一礼した。
一筋縄ではいかないからこそ、職人としての、そして物質を支配したいという本能が激しく燃え上がる。
私はボロ鉄の破片を睨みつけながら、次なる実験の作戦を練り始めるのだった。




