第5話 「それでも守る」
朝。
キッチン。
コトハがフライパンを振っている。
「キリちゃんパン焦げる!」
キリカがトースターの前で叫ぶ。
「今助ける!」
焦げた匂い。
そこへリントが入ってくる。
髪ボサボサ。
「あー腹減った」
コトハが睨む。
「寝坊した人に食べる権利はありません」
リントは椅子に座る。
「横暴だな」
キリカが笑う。
「働かざる者食うべからず!」
リントはパンを奪う。
「働いてるわ」
コトハが言う。
「何の仕事か知らないけど…」
リントは口をもぐもぐさせる。
「企業秘密」
キリカがニヤニヤする。
「絶対怪しい」
その時!
リントのスマホが鳴った。
画面。
【社長】
リントはふいに立ち上がり--
「ちょい外行ってくる」
家の前のベンチに座り電話に出る。
「どうした?」
社長の声は低い。
「リントくん」
「昨日誰かと戦ったね…」
リントは少し笑う。
「情報はぇーな…見てたのかよ」
社長は答える。
「いや」
「だが分かる」
少しの間沈黙した後…
「人工マリスだったんだろう…」
リントの目がーー
わずかに止まる。
「……知ってんのか」
社長は静かに言う。
「昔からある研究だ」
「人の悪意を兵器にする研究」
リントが言う。
「クソだな…」
社長は続ける。
「君の父親も」
「それを止めようとしていた」
リントの表情が変わる。
「……」
社長が言う。
「だが研究は消えていない!」
「むしろ…進んでいる……」
リントがため息をつく。
「ったく…面倒な話だな」
社長は小さく笑う。
「君は昔からそうだな…」
「彼と同じだ」
リントは黙る…
社長が聞く。
「リントくん」
「なぜ君は戦う?」
リントは少し考えるが…
「別に…」
「世界を救うとかじゃない…
ヒーローなんか柄でもないしな」
「ただ…」
家の窓を見ると…
キリカとコトハが笑って手を振っている。
そして…少し笑って答えた。
「守りたい奴らがいるだけ」
社長が静かに言う。
「……そうか」
一言そう言うと電話は切れた。
その日の放課後ーー
駅前。
男が怒鳴る。
「ふざけんな!!」
周囲の視線。
スマホで撮影する人間。
誰も止めない。
キリカが呟く。
「……空気何か濁ってる」
そう呟いた瞬間…
男の背中が歪む。
黒い影が蠢く。
だが今回はいつもと違う…
黒い結晶が最初から露出している。
鼓動のように脈打つ--
【人工マリス】
その目は理性を宿しているかのように見えた--
突如、暴れる――
が--
途中で止まりーー視線が動く。
その目はキリカとコトハの方を見る。
「……弱い」
標的変更。
一直線に二人へ!!
キリカが叫ぶ。
「コトちゃん逃げて!」
不用意に振り下ろされる腕ーー
逃げ遅れた二人に襲いかかる無情の一撃。
ドンッ!!
その瞬間!
振り下ろされた腕が止まり
地面が沈んだ。
「おいおい…女相手に大人げねぇな」
人工マリスの腕を掴むーー
リントの腕から全身に黒い影が走る!!
「顕化」
マリスが言う。
「確認」
「対象・リント」
リントの目が鋭く(するどく)なる。
「またお前らか…」
マリスの動きが速い。
フェイントーー
リントの横腹を掠める。
リントが舌打ち。
「チッ」
マリスが笑う。
「学習済み」
コトハが震える。
「リント…」
その声…一瞬
朝の光景がフラッシュバックした…
「守りたい奴らがいるだけ!」
速度が一段上がりーー
リントの踏み込みが変わる。
マリスが驚く。
「出力上昇--?」
リントが低く言う。
「当たり前だろーが!」
拳ーー
顕化エネルギーが一点に集中する!!
ドンッ!!
結晶に直撃!!
だが砕けない。
マリスが笑う。
「未完成ではない!」
「【D】がお前を欲しがっている」
その目が一瞬ーー
どこか遠くを見る。
まるで命令を受信するかのように。
リントの目が変わる…静かな怒り
「……そうか」
拳を握る!
「じゃあそいつに」
影を鋭く収束させ一歩踏み込む。
「ざけんな!って言っといてくれ!!」
一点突破ーー
結晶粉砕ーー
人工マリス崩壊。
リントは肩で息をするがまだ余裕はある。
コトハが駆け寄る。
「リント!」
リントは軽く笑いながらコトハの頭に手を置く。
「コト、ラーメン伸びるぞ」
遠くのビル。
暗室。
モニター。
影の声。
「出力予想以上」
「適合率、上昇」
奥の影が呟く。
「……面白い」
モニターに表示される。
【D】
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