第9話 「始まりの雨」
夜の街に
静かな雨が降っていたーー
リントはビルの屋上に
立ち遠くを見つめる。
街の灯りの向こう。
雲の奥に――
黒い塔。
先日の戦いのあとーー
まるで世界に突き刺さるように現れた塔。
誰も近づけないーー
誰も正体を知らないーー
だが一つだけ確かなことがあった…
あれが現れてから
マリスが急激に増えている…
リントは小さく息を吐いた。
「……またか」
ポケットの端末が静かに震えるーー
画面に表示されたのは
【顕化反応】
場所は街の中心部。
リントは屋上から飛び降りた。
着地音は雨に紛れて消えるーー
路地裏。
男が一人壁にもたれていた。
肩で荒く息をしている。
その腕には
黒い模様のようなアザ。
男は震えていた。
「なんだよ……これ……」
アザから黒い霧が滲み出す。
「やめろ……」
霧は男の体を包み込んだ。
目が黒く染まるーー
声が変わる。
「……ああ」
「気持ちいい」
男はゆっくり笑った。
「全部壊したくなる」
その瞬間!
背後から声がした。
「そのくらいでやめとけ」
男が振り向くーー
そこに立っていたのは
リント。
男は笑う。
「お前誰だ?」
その言葉と同時にーー
黒い霧が体から吹き出し
男の姿が醜い化物へと変貌していく…
【完全顕化】
マリス。
「ジ…ジャ…マ…スル……ナ」
「コ…ゴ…ロス……」
そう言うとーー
マリスが超スピードで突進した。
普通の人間では反応できないーー
だが…
リントは動かなかった。
マリスの拳が振り下ろされるーー
その瞬間。
「顕化」ーー
リントの手が男の腕を掴んだーー
その手を伝い全身を黒い影が覆っていく……
マリスの目が見開く。
「な……」
リントは静かに言った。
「終わりだ」
次の瞬間!!
リントの拳が男の腹に突き刺さった。
衝撃波ーー
黒い霧が弾けマリスの
体が崩れていく…
マリスは膝から崩れ落ち
その身体から黒い霧が…
空へと消えていく。
その時…
霧の中に一瞬だけ
人の顔のような形が浮かんだ。
苦しそうな顔ーー
リントはそれを見つめ…
そして静かに言った。
「もう苦しまなくていい」
霧が揺れるーー
「よく頑張ったな」
次の瞬間。
霧は静かに消えた…
ほんの一瞬。
その顔が…
笑ったように見えた。
雨が強くなる中…
リントは目を閉じた。
その時!
背後から声が響いた。
「リントーーー!」
振り向くとーー
キリカが全力で走ってきていた。
後ろにはコトハ。
キリカは勢いよく止まりながら怒った表情で言う。
「もー!また一人で
先に行ってる!」
「私たちも呼べって
言ってるでしょ!」
コトハは落ち着いた声で言った。
「キリちゃん声大きいってば」
「顕化反応はこの街だけじゃないよ」
キリカが目を丸くする。
「え?」
コトハが端末を見せた。
画面には
【顕化反応 多発】
都市中に反応が広がっている。
リントの目が細くなる。
コトハが静かに言う。
「始まったみたいだね」
キリカはニヤッと笑った。
「へぇ…」
「じゃあ暴れ放題ってこと?」
コトハがため息をつく。
「キリちゃんは少し落ち着いて」
その時。
遠くの空でーー
黒い雷が走った。
三人は同時に見上げる。
街の向こう。
雲の奥。
そこにそびえる。
黒い塔。
リントの腕の紋章が――
微かに脈打つ。
まるで…
呼応するかのように。
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