第九話 消失とくノ一
しばらくして、月影が捕まっていた場所に着こうとした時、隼人が何かを見つける。
「あれは、なんでしょう?」
全員が言われた方向を見ると、煙が上っていた。
「なんで煙が?」
「嫌な予感がしますね。早く行きましょう」
急いでその場所に行くと、屋敷が炎に包まれていた。
「なっ、なんでこんな早く燃えているの?!」
「もしかして、誰かが意図的に?」
月影は驚き、隼人は考えていたが、ふとよしねを見る。
「よしね様、どうかされましたか?」
「……あ、あぁ……っ」
よしねは炎を見て、十年前のことを思いだしていた。
ゆりねとの別れの時。炎がすべてを飲みこんだあの夜。
「姉上……姉上がまだあの中に?」
よしねは、おぼつかない足取りで屋敷に近づいていく。
「よしね、近づいたら危ないよ!」
月影が慌てて手を掴んだが、よしねは気づかない。
「姉上がまだ戦っている……私も行かなくちゃ……」
「よしね様、しっかりしてください。あそこにゆりね様はいないんですよ!」
「でも、姉上が……っ!」
取り乱すよしねを、隼人は抱きしめた。
「大丈夫です。ゆりね様はもう逃げられましたよ。だから大丈夫です……」
まるで子どもに言い聞かせるように、優しく囁く。
すると、よしねは安心したように気を失った。
「よ、よしね?!」
「大丈夫、気を失っただけだ」
「そっか……」
「しかし、行動が早すぎる。まるで、俺たちが来ることがわかっていたようだ」
「まさか、ゆりねって人が火を放ったの?」
「わからない。だが、君が調べようとしたものは一切なくなったということだ」
隼人はよしねを背負い、炎とは逆の方に歩きだす。
「おい、どこ行くんだよ」
「帰るんだよ。ここにはもう用はないからな」
「というか、口調変わってない?」
「君の前で、かしこまる必要はないだろ?」
「……なんか納得いかないなぁ」
そしてよしねたちは家に帰ることにした。
★★★
家に戻っても、よしねは気を失ったままだった。
「なかなか目を覚まさないね」
「月影、じっとしていないで手伝ったらどうだ」
「俺、炊事とかあまり得意じゃないんだけど……」
「じゃぁ、君だけ飯抜きだ」
「わ、わかった手伝うよ!」
月影は立ち上がり、隼人の元に行った。
その頃、よしねの部屋の天井で、身を潜めている人物がいた。
「あれが、よしねという女ね……」
それは彩であり、クナイを握りしめていた。
そして天井から飛び降り、クナイをよしねに突き刺した。
はずだったが、よしねは杖を構え防いでいた。
「くっ!」
「なっ、防いだ?!」
彩はすぐに間合いを取り、クナイを構える。
「あなた、寝ていたんじゃないの?」
「さっき目が覚めたのよ。あなた、何者?」
「私は彩。くノ一よ」
「確か、雪影と一緒にいたわね」
「そうよ。でも、あなたたちのせいで、雪影様は辛そうにしている」
怒りを露わにした彩の手に、力が入る。
「あなたさえ、いなければ!」
彩は持っていた、いくつものクナイを放つ。
「風刃!」
よしねも風の刃を放ち、応戦する。
しかし、彩の方が速く、間合いを詰めてきた。
「とった!」
「しまっ!」
よしねは杖を構えたが、痛みがくることはなかった。
騒ぎを聞きつけた月影が、彩の手を掴んでいたからである。
「離せ、離しなさいよーっ!」
「彩、もうやめるんだ!」
「うるさい、この裏切り者!」
彩は強く月影を睨みつけた。
その表情に月影は怯んだが、手を離すことはなかった。
「なんの騒ぎです!」
隼人も遅れて部屋を見ると、中は傷だらけだった。
「よしね様……起きられたのはいいんですが、部屋で暴れてはいけませんよ」
「えっ、いやいや、私のせいなの?!」
「そうだよ、隼人。これは彩がやったことなんだよ!」
「なら、二人で片づけてくださいね」
「いや、彩は侵入者だよ! そんな罰でいいの?」
「いいわけないでしょう。とりあえず片づけて、それから話を聞きます」
「……眼帯のお兄さん、ちょっとズレているわね」
「もう……変なところ真面目なんだからー……」
「でも私は捕まるわけにはいかないの!」
すると、彩は懐から煙玉を出し、床に叩きつけた。
部屋中に煙がこもり、周りが見えなくなる。
「ごほっ、ごほっ、これじゃ全然見えない!」
少しして煙がなくなると、彩の姿はどこにもなかった。
「しまった、逃げられた!」
「月影、なんで手を離したのよ!」
「ご、ごめんよしね……」
「これじゃ、私一人で片づけないといけないじゃない!」
「えっ、そこなの?!」
よしねも少しズレてるな、と月影は思ったのだった。