第十話 罪刃の剣(ざいばのつるぎ)
「なんだか最近、任務がないわね」
「それほど、平和だということではないですか?」
「二人とものんきだね。また俺たちみたいなのが現れるかもしれないのに」
「その時になったら考えるから、大丈夫よ」
のんびりお茶をしているよしねたちに、月影はため息をついた。
「しかし、毎日任務があったのに、急になくなるのはおかしいですね」
「そうかしら。隼人も言っていたじゃない、平和って」
「そうですが、どうも引っかかるのです」
「もう、隼人は考えすぎなんだから」
「……俺ちょっと外に出てくるよ」
「えっ、月影どこか行くの?」
「夫婦漫才見ている気分じゃないからね」
月影に言われて、よしねは顔を赤くする。
それにまたため息をついた月影は、さっさと出ていった。
「まったく……気が抜けるにもほどがあるよ」
うんざりとした顔の月影のところに、いきなり矢が飛んできた。
「うわぁっ!」
幸いにも矢は柱に刺さり、月影に当たることはなかった。
「今の悲鳴はなに?」
戸を開けたよしねに、月影は抱きついた。
「よ、よしねーっ! いきなり矢が飛んできたよーっ!」
「大丈夫よ、月影。これはお館様の知らせだから」
「なら、もっといい方法があるでしょ?!」
「昔のやり方の方があっているのでしょう。それより、いつまでしがみついているんですか」
隼人は月影を離すため、肩をガシッと掴んだ。
「いいじゃん、俺は怖かったんだもん」
「それなら俺がなぐさめてあげましょうか?」
優しく隼人は言っているつもりだが、目は一切笑っていなかった。
月影もそれがわかったのか、よしねから渋々離れる。
それにため息をついた隼人は、刺さっている矢から紙を取って読む。
「よしね様、お館様から呼び出しのようです」
「えっ、任務とかじゃないの?」
「はい。今すぐ来るようにとのことです」
「あの人も急ね……」
「だったら、俺はここに残っているよ」
「月影はついてこないの?」
「だって敵の俺が、のこのこついていくわけにはいかないでしょ」
「そうですね。捕まってなにをされるかわかりませんし」
隼人に言われて、よしねは想像してみることにした。
その内容がすさまじかったのか、顔が青ざめていく。
「そ、それは大変だわ! じゃぁ月影、お留守番お願いね」
「……よしね、今なに想像したの」
「……なんでもないわ」
目線をそらしたよしねは、気まずそうに背を向ける。
「では行きましょうか、よしね様」
隼人に促されて、よしねは頷く。
「いってらっしゃーい!」
月影に見送られながら、よしねと隼人は出発したのだった。
★★★
お館様の屋敷に行く道中、前から背中に大剣を背負った長身の男が歩いてきた。
その男は前髪をあげ、額と左頬に傷があった。
「やっと見つけたぜ、嬢ちゃん」
男はにやりと笑ったが、よしねは首を傾げる。
「私に何か用なの?」
「なーに、ある人に嬢ちゃんの始末を依頼されたんだよ」
「貴様、何者だ!」
隼人はすぐよしねの前に出て、刀を抜いて構える。
「俺は罪刃の剣。ただの傭兵さ」
罪刃の剣は大剣を抜き、二人に向けて突きだす。
「もっとも、その傭兵に殺されるのが嬢ちゃんの末路だ!」
「いきなり会って、殺されてたまるもんですか!」
よしねも杖を取り出し構えた。
「それでいい。じゃぁ、こっちからいくぜ!」
罪刃の剣が大剣を振ると、風圧がよしねたちを襲う。
「くっ……」
「なんて力だ……よしね様、大丈夫ですか」
「私は平気。隼人、心配しないで」
「へへっ、いつまで強気でいられるかな?」
「なめるな! 風刃!」
よしねは風の刃をいくつも放つが、軽々と避けられてしまう。
「はっ、遅い遅い。あくびが出てくるねぇ」
「なっ、あれを全部避けるなんて!」
「今度はこっちからいくぜ!」
また大剣を振ると、先ほどより強い衝撃波が放たれた。
「しまった、避けきれない……」
「よしね様!」
すかさず、隼人がよしねを抱え、罪刃の剣と距離をとった。
「大丈夫ですか、よしね様」
「隼人、ありがとう」
隼人の乱入に、罪刃の剣は怒りを露わにする。
「おいおい、俺らの戦いに手出しすんじゃねぇぞ、眼帯野郎!」
よしねを下ろした隼人は、一歩前に出る。
「よしね様、俺が奴を引きつけます。そのすきに一撃を入れてください」
「わかった。お願いね、隼人」
「あぁ? もう話し合いは終わったのか?」
「あぁ、終わったとも。貴様を倒す作戦をな!」
地面を蹴った隼人は、勢いのまま飛びかかり刀を振り下ろす。
それを早く察知し、罪刃の剣は余裕で受け流した。
だが、隼人も背後をとり、攻撃を加える。
罪刃の剣は、大剣でそれを受け止めた。
「はっ、さっきの嬢ちゃんよりはやるじゃねぇか!」
「よしね様は殺させない!」
「いいねぇ! もっと俺を楽しませろ!」
罪刃の剣はにやりと笑い、狙いを隼人に変更した。
「今です、よしね様!」
「はあぁーっ!」
「なにぃ?!」
竜巻のような風が、罪刃の剣に向かってくる。
すぐ大剣で受け止めようとしたが、集中攻撃を受けてしまう。
隼人は距離をとり、巻きこまれずにすんでいた。




