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第九話 両親

 ガイアたちとの決闘が終わり数日後。

 ラキアと共にクエストに勤しんでいた。


 そういえば、最近家に帰っていなかった。

 とは言っても、勇者専用の家のことではなく、両親が住まう家だ。

 基本的には1週間に1回は顔を出すようにしていたが、ゴタゴタが続いて行っていない。


 丁度いい、ラキアにも紹介しよう。

 2年間、勇者パーティは険悪だったから、招待するなんてことはなかった。


「ラキア、今日うちでご飯食べないか?」


 ギルドから出たタイミングで声をかける。

 時間は夕刻。夜ご飯にはピッタリだ。


「いいんですか? あっ……でも……」

「遅くならないようにするし、余ったものは持って帰っていいからさ」

「……分かりました。じゃあ少しだけ甘えます」


 俺とラキアは王国の外れの居住区に行った。



 ◇



「あらあら、ハローエブリワン! ようこそようこそ!」


 天然パーマでぽっちゃり体型の母がエプロンで手を拭きながら玄関に顔を出した。

 木造建築の一軒家。年季の入った家だが、お気に入りだ。


「よく分からないテンションで出て来ないでくれ母さん」

「恥ずかしがらなくていいのよー? カイトがようやくガールフレンドを連れて来たって大盛り上がりなんだから」

「バッ……そんなんじゃ……!」


 なんてこというんだ母は……!

 これじゃあラキアも困るだろうに。


「失礼します、お母様。ラキアと言います。よろしくお願いします」


 火に油を注ぐなーーー!


「ラキアちゃん! お母様だなんて! かーわーいーいー! こんな()がカイトのガールフレンドだなんて夢みたいだわ!」

「……母さん、そんなに時間があるわけじゃないんだ。早く入らせてくれ」


 母を押し退けて家に入る。

 洗面台で手を洗う。先程のクエストでついたのか、キノコのような茶髪についた土を払う。


「早く早く! ご飯はもうできてるのよー!」


 リビングから母の声が聞こえる。

 茶色の具足や防具を取り外し、緑の皮の衣服でリビングへ赴く。


「今日は母さん、ちょっと頑張っちゃったわ!」


 テーブルの上にはクリームパスタにエビが入ったサラダ、チキンが並べられていた。


「確かに、いつもとは違うな」


 すでに着席していたラキアの隣に座る。

 ラキアは黙っていたものの、料理を見て目を輝かせていた。


「さあさあ食べて食べて!」


 全員でいただきますと言って食べ始める。

 感情表現の乏しいラキアが一口食べるたびに顔を紅潮させて美味しいと言う。

 

「母さん結構心配してたのよ。2年も勇者として活動してるのに、女の子の1人も連れて来ないから」

「そうだったんですね」

「そうそう! ラキアちゃんはカイトのどこに惚れたの?」

「あ……と、その……」


 明らかに狼狽(うろた)えているラキア。

 この母は本当に……!


「母さん、ラキアが困っているだろ。俺たちはただ一緒にクエストをしている仲間ってだけ」

「まあ母さんの前じゃ恥ずかしくて言えないか。けど父さんもきっと喜んでるよ」


 父さん。

 俺が小さい頃クエストで死んでしまった。

 今の俺からしても頼りになる、いい父親だった。

 

 悲しいといえば悲しい。

 けど――


「ラキアちゃんはご両親はどうしてるの?」

「私の両親は……どこかに行ってしまいました」


 食べる手を止めて話すラキア。

 そう。俺なんかより、よっぽどラキアのほうが辛いから。だから俺は悲しいなんて思えなくなった。


「どこかに……って?」

「分かりません。王国の外れの孤児院に預けられてそれっきりです。その孤児院も大人の方は高齢で亡くなっていって、私が子供たちを養わないといけなくて……」


 母は絶句してしまった。

 地雷を踏んでしまったという表情だ。

 気付いたのか、ラキアは笑顔で話を続ける。


「けど、今は本当に楽しいですよ! 勇者のお仕事でお金にはそこまで困らずに生きていけますし、それに……カイトさんもいてくれるから」


 ラキアは俺を見て微笑む。

 俺も、ラキアがいてくれるから、心優しいラキアがいたから戦えるんだ。


「の、のろけ!? ラキアちゃんのろけてるの!?」

「あ、いや、違います!」


 食い気味に訂正されてしまった。

 それはそれで少し悲しい。


 食事も終わり、余ったパスタはパックに詰めてラキアに持たせた。


「また来るんだよー! 時間できたら今度は母さんも孤児院に行っちゃうんだから!」


 大きく手を振って見送ってくれた。

 日は完全に暮れて、星の明かりを頼りに路地を歩いていく。


「いいお母様ですね」

「まあ、悪い人ではないよ」

「あのお母様あってのカイトさんです」

「それは褒めてるのか?」

「凄く……褒めてます」


 孤児院の入り口まで送り届ける。

 

 2年前、ラキアに出会えてから、俺は頑張れるようになった。

 元々そこまでなにかに打ち込むということはできなかったけれど、子供達のために戦うラキアに心打たれた。


 俺も、ラキアの手助けがしたい。


 そのためにももっと強くならなきゃな。

 最近出現したと噂されている魔王を倒さないと、この王国、子供たち、ラキアを守れなくなっちまう。


「明日もクエスト頑張るかあ」


 俺は1人決意新たに宿舎に帰った。

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