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非科学的潜在力女子2  作者: ゆずさくら
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「(テレパシーで言っていることと、口でしゃべれることが違うから、亜夢がハツエが少女の体を精神制御(マインドコントロール)しているんじゃないかと疑っているみたいだ)」

 ハツエは言った。

「亜夢ちゃん、そこの藪草を刈ってみて」

 亜夢は手をかざすと、言われた通り藪草を払った。

「う~んと、手で、こうやって」

 ハツエは左手で草を引っ張り、右手を刀のようにして刈る仕草をする。

 亜夢は藪草に近づくと、左手で束ねて持ち、右手を一閃した。

 そこからばっさりと草が切れて、亜夢は藪草を放り投げた。

『そのままじゃ』

 亜夢の手の、小指側の側面が、金属のように変質していた。

「?」

 アキナが美優と奈々の為に、ハツエの言ったことを同時に口にすることにした。

 アキナが説明し終わり、全員が理解したところでハツエが話を進めた。

『儂が小さくなったのは、この亜夢が見せた肉体を変質させた力と同じ』

「けど、若返ることなんてできないわ」

『これは若返っているのではないわい。肉体の密度を変え、形を変えただけじゃ。結果、子供に見えるがの』

「どういう意味?」

『老化するとどうなるか知っているか? 肌は皺だらけ、胸の脂肪は削ぎ落ちる。骨ですら中がスカスカになってくる』

 ハツエは声をだしていないが、アキナの声に合わせてパクパクするので、しゃべっているかのように見える。

『非科学的潜在力を使うにあたって、それは非常に都合が悪かったんじゃな。例えば風を起こして体を飛ばすにしても、骨や筋力が耐えられないからじゃ』

「で?」

『どうしても非科学的潜在力(ちょうのうりょく)を使わねばならん時に、こうやって体の密度を変え、自分のチカラにたえれるようにしとったんじゃが。ある時、長期間この体形をつづけた時後、元の体を忘れてしまっての。体を元にもどせなくなったんじゃ』

「長時間…… って、始めから忘れる気満々だったんじゃない?」

 亜夢はさっきまで金属のようだった自分の手を見つめた。

 確かに、元々の体のイメージが頭からなくなったら、この手も元に戻せないだろう。

『やんどころない事情が続いて、まあ、一か月はこの姿をしてたかのぅ』

「そんなに…… なにがあったんです?」

『超能力者の独立運動があったのは知っとるかの?』

 美優が手を上げる。

「あっ、知っています。二年くらい前でしたっけ」

『独立運動の一番激しい時、儂は運動の犠牲者を救う為に戦った』

「独立側として、ですか」

『いや、どちらでもない。運動の犠牲者となってしまう弱気者の為じゃ。つよい超能力者や、強力な兵器から子供や動けない人々を助ける仕事をしておった』

「子供の姿をしているのは分かったとして、なぜ子供が難しいことをしゃべれないの? 体が考えているんでしょう?」

『理由は儂もわかってないんじゃ。この子供の体でも、過去の記憶は思い出せる。じゃが、いざ話す時には、体の影響をうけているんじゃ。心と体は別物のようでありながら、別物ではない部分があるということかの』

「よくわかりません」

『体側から脳をアクセスするのに、体側が使いこなせる範囲までしか使いこなせない、という表現でわかるかの。思念波(テレパシー)なら体の制限を受けずにすべてにアクセスできるんじゃが』

 また美優が手を上げた。

「あ、なんとなくわかりました」

「おねえちゃんが一番頭いいのね」

「そんなことないと思うけど。ありがとハツエちゃん」

 ハツエはニコニコっと笑った。

「これでいい? じゃ、みんなハツエのおうちに行こう」

「はい」

 亜夢も奈々も笑顔でそう答え、歩きだした。

 アキナは黙って立って考えていたが、「まあいいいか」と独り言を言うと、先に行ってしまった四人を追いかけた。




 駅を越えて、少し山を登ると、少しだけ南に向いたゆるい傾斜があって、そこにログハウスが立っていた。

 ハツエが扉に手をかざすと、内側でロックが回る音がした。

「ほら、はいっていいよ」

 ハツエが靴を脱ぎ散らかして家に入っていく。

 パチパチと、飛び跳ねるようにスイッチをいれると、部屋の灯りがついた。

「広い」

「天井高い」

「いいでしょう、ハツエのお家」

 金髪の少女は両手を広げてそう言った。

 美優がソファーのあたりに立って、「ここに座ってもいい?」と訊くと、ハツエが「いいよ」と答える。

 大きくため息をついて美優がソファーに腰かける。

 奈々は窓の近くに行くと、カーテンを大きく開き、窓の外の景色を眺めた。

「海が見えるのね」

 ハツエは跳ねるようにして、奈々の方に行き、「反対側は山も見えるよ」と言ってそっちの窓まで連れていく。

「ほんとだ。こっちの景色は落ち着いていていい雰囲気ね」

 台所の方へ入り込んだアキナが言う。

「冷蔵庫開けてもいいか」

 ハツエが走って冷蔵庫に向かと、「いいよ、と言って観音開きの扉を一度に開く。

「おっ、ミルクもらってもいい?」というと、ハツエは「あたしも飲む」と言ってコップを二つ出した。

「他に飲みたい人いるか?」

 奈々は外を見るのに夢中、美優は疲れたのかソファーで目を閉じている。亜夢は部屋の真ん中で立って二人を見ていた。

「亜夢はいる?」

 亜夢は首を振る。

 透明なコップに白いミルクが並々と継がれる。もう一つのコップには半分ぐらい。

 ハツエは半分のミルクをグイッと飲み干し、流しにコップを置くと、亜夢のところに行った。

「おねぇちゃん、どうしたの?」

 亜夢は腰を落として、ハツエと目線を合わせた。

 ハツエの口に白い髭のようにミルクがついていて、亜夢はそっとハンカチでぬぐった。

「ハツエちゃん。精神制御されないような、何か良い方法はない?」

「おねえちゃん、ちょっとまじめすぎない?」

 ハツエはそう言ってから思念波(テレパシー)を使って、亜夢だけに付け加える。

『何事も、オンとオフが大事なんじゃぞ』

『それはわかります。けど、この連休しか時間が』

 ハツエはソファーで目を閉じている美優に目をやる。

『コントロールされとるのは、あの()じゃったの。あの娘と窓際の娘は、まず、自らの非科学的潜在力(ちから)を解放する必要がある』

 亜夢は美優と奈々の姿を見た。

『いままでできなかったことが突然できるようになるんでしょうか?』

『なる。だからここに連れてきたんじゃろうが?』

『校長が何か術を教えてくれるだろうということでした』

『素質があるからヒカジョに通っとるんじゃろ』

 ハツエは、馬跳びをするように亜夢の頭を飛び越えた。

 おどろく亜夢が振り返るまもなく、もう一度ジャンプして、亜夢の首を股に挟んだ。

「おねえちゃん、かたぐるまして」

 亜夢は、ふらつきながらそのまま立ち上がった。

 ハツエが指さす方に歩く。

「おねえちゃん」

 奈々は窓から海を見ている。

「海を見てるおねえちゃん」

 ハッとして奈々は振り返り、亜夢の上にいるハツエに驚いた表情を見せた。

「な、なに? ハツエちゃん」

「海で遊んできなよ」

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