(8)
亜夢がようやくバックからお菓子を探し出す。
ハツエが笑顔になって両手を伸ばすと、美優が亜夢からお菓子の箱を取り上げる。
「あっ!」
「ハツエちゃん。このお菓子あげるから、しばらくここで待ってて。おねぇさん達だけでお話したいの」
「あたしのお菓子!」
ハツエと名乗る少女が飛びついて取ろうとするのを、美優は箱を高く上げて阻止する。
「あげるから、お約束できる?」
ハツエと名乗る少女はうなずく。
美優は少し待ってから、箱を手渡す。
「(ちょっと、こっちにきて)」
美優に言われて、三人は道の曲がり角まできた。
ハツエはさっそく箱を開けてお菓子を食べている。
その様子を確認した美優が切り出す。
「みんな、あの子がハツエだと思うの?」
「えっ? だって本人がそう言ってるじゃん」
亜夢はそのハツエを名乗る少女を指をさしてそう言う。
美優はあきれたような顔をする。
「あんな小さい子が精神制御の対抗策を知っているとでも?」
「まあ、私達よりは若いわね」
「奈々。若いなんてもんじゃないでしょ? 幼稚園の年長さんか低学年の小学生ってところじゃない」
アキナが挙手をする。美優が指さす。
「はい、ハツエなんてシワシワネーム、お年寄りにしかつけないんじゃない?」
「だから……」
美優はうつむいてため息をつく。
顔を上げると、捲し立てるように言った。
「校長が頼りにするぐらいの人物が、あんな小さな子供だと思えない。だからあの子が自分をハツエと言っているのはウソで、あの子のお母さんとかおばあちゃんのことじゃないかってこと。私は、あの子にお願いしても直接精神制御対抗策を教えてくれるとは思えないの。だいたい、なんで皆はあの子が『ハツエ』だと思ってるの?」
「だって」
美優は亜夢に顔を近づける。
「だってなに?」
「本人が『ハツエ』って言っているじゃん」
美優は肩を落とし、うつむいた。
そしてゆっくりと声を出した。
「だぁ、かぁ、らぁ~ それ、不自然でしょ? あの子は自分が『ハツエ』だって、騙っているのよ」
「奈々、かたるってなんだ?」
「嘘をつくという意味よ」
美優はアキナと奈々のやり取りを聞き、自身のおでこを手で押さえた。
「じゃあ、誰も疑わないの?」
そう言ってから三人の顔を順番に見ていく。
亜夢は何も言わない。
アキナは腕組みをして首をかしげている。
奈々は…… 美優の方を見て…… 口を開いた。
「確かに変は変だよね」
「奈々、ありがと。良かったよ、私だけ頭おかしいのかと思った」
すると、アキナが同調した。
「冷静に考えればそうかもな」
「アキナ、私の言ったことが理解できたのね」
「バカにしないでよ」
そう言うと、ぷいっとそっぽを向いた。
「亜夢はどう?」
亜夢は『ハツエ』と言っている少女の方を見ていた。
少女は聞こえているのかいないのか、ニコニコ笑顔で、お菓子を食べながら亜夢に手を振っている。
「あの子が『ハツエ』さんだと思う。容姿はともかく」
「そんなわけないじゃん。あの子が、急に、『そうじゃの』とかババアみたいな話口調になるってこと?」
美優は肘をまげて手を上向きに広げ、ありえないわ、と言わんばかりのゼスチャーをする。
亜夢は美優に向かって言う。
「美優。『ハツエ』かどうかは、私にもわかんないよ。けど、美優を救ってくれるなら、どっちでもいいじゃん」
「亜夢……」
美優は感動して亜夢と見つめあう。
奈々が少女の方を向いて、言う。
「そこが大事だよね」
アキナが髪の毛をかき上げながら言う。
「もう一度本人に確かめればいいだろ」
四人は横並びに歩いてハツエを名乗る少女に近づいた。
立ち止まると、一拍おいて亜夢が前に出ると言った。
「『ハツエ』さん。精神制御に対抗する方法を教えてください」
美優が亜夢の手を引いて言う。
「(いきなりなに言ってんの)」
ハツエを名乗る少女の、お菓子を食べる手が止まった。
「おねぇちゃん達、あたしを『ハツエ』だとおもうの?」
全員がバラバラではあったがうなずいた。
「へぇ…… それなら、けいこしてあげてもいいよ」
「けいこ?」
ハツエはうなずくと、美優を指さして言う。
「このおねぇちゃん、くろい人影がみえるもん。けいこすれば、はらえるよ」
「なんの『けいこ』?」
亜夢が腰をかがめてハツエにたずねる。
「だって、おねぇちゃん達、みんなヒカジョでしょ。けいこっていうのはヒカジョのチカラのことよ」
亜夢が振りかえる。
「ヒカジョのチカラって?」
「非科学的潜在力のことでしょ」
奈々がそう答えると、ハツエは笑いながらうなずいた。
「そう、その、ひかがくてきせんざいりょくのこと」
「ハツエちゃん非科学的潜在力、使えるの?」
亜夢が聞くと、その場にいた全員に思念波が届く。
『使えるに決まっとるじゃろうが。これから、おまえらを指導するんじゃから』
ハツエは微笑んだままだった。
「えっ?」
美優と奈々は何が起こったか分からなかった。
亜夢がアキナと顔を見合わせ、
「じゃろうが、って言った」
「うん。漫画みたいな老人の語尾だった」
ハツエは四人に向かって歩きだしたと思うと、すり抜けて、坂上へ歩き出した。
「おねぇちゃん達、こっちよ。下にあるお家はハツエのお家じゃないの」
「ハツエさん。なんで子供言葉?」
亜夢が走ってハツエの前に回り込む。
「まさかハツエさん。あなたこの小さい子供の精神制御をしているんじゃないでしょうね」
美優と奈々は、なんのことを言っているのか、意味がわからないようだった。
『この心と体の関係は、後で説明する。美優がされたように、儂がこの体を乗っ取っている訳ではないぞ。この体は正真正銘儂のじゃよ』
「じゃあ、なぜ、口にするときは子供の言葉なんですか?」
ハツエは腕を組んで仁王立ちした。
『わからんやつじゃの』
「(亜夢とハツエちゃんは、なにやってるの?)」
二人の様子を見て、奈々がアキナに問いかける。




