(36)
「以前、私がこっちにきて、アキナと思念波で話したことがあったでしょ? 何かズレはあるのよね。距離がどう関係したのかはわからないんだけど」
亜夢はあごに指を置いてそう言った。
腰に手をあてて、アキナが返す。
「そうなのか。そんな違和感、わからなかったぞ」
「何かが見えなくなっているのよ。重要ななにか。きっとそれが、精神制御には重要なファクターなんだわ」
中谷と清川が、わざと亜夢の視線に入るように近づいてきた。
「お話し中すみませんが……」
「?」
中谷が説明を始めた。
「ここを出ないといけないんだ。このドームスタジアムを所有者に返さなきゃいけないしね」
亜夢たちは顔を見合わせた。
清川が気持ちを察したように言う。
「えっと、あなたたち、今日はヒカジョには帰れないわ。ヘリの手配はしてるけど、早くても明日の午後になりそうよ」
「じゃあ、今日は……」
「みんな一緒の部屋ってわけにはいかないけど、署のホテルに泊まってもらうわ」
亜夢は人差し指を立てて言った。
「私が泊まったあそこですか?」
「そうそう。あのホテル」
中谷が手を叩いた。
「はいはい。そういう話は車の中でしようか。さあ、駐車場へいこう」
亜夢たちは、バックネット近くの出入り口から入って、地下の駐車場へ向かう。
パトカーにつくと、中谷が助手席に回った。
美優の暗い表情に気付いたようだった。
「西園寺さん、苦しいかい?」
テロリストが仕掛けた機械が止まり、超能力干渉波が全開で働きだしているはずだった。
中谷が手を合わせて言う。
「キャンセラーなんだけど、二人の分で終わりなんだ」
「!」
亜夢はそれを聞いて、急に白いキャンセラーを外した。
「美優、私の使っていいよ」
「亜夢、だって」
亜夢は首を振った。
「きっと、美優は精神制御されているから、これをしていないとまた敵にに狙われるよ」
それを見ていた中谷が言った。
「キャンセラーをした子が両端に座って、してない子が真ん中にすわると、してなくても多少は楽になると思うよ」
「そうなんですか?」
「じゃ、亜夢先に入って、アキナはそっちから」
後部座席は運転席後ろにアキナ、真ん中に亜夢、助手席側に美優という順で座った。
清川が運転席に座ってエンジンをかけると、助手席に座った中谷が聞いた。
車は署に向かって出発した。
「どう乱橋くん?」
「多少…… は楽かも」
本当はひどくつらかった。
中谷は表情から気持ちを察した。
「二人とも、もっと頭を寄せてあげて」
美優もアキナも亜夢と体を前後させて、耳と耳がつくように頭を寄せてみた。
「どお?」
頭が痛いのは治らないけど、と亜夢は思った。別の部分がいろいろ触れられて、気持ちよくてうれしい。
ハンドルを握る清川が提案する。
「ね、ホテルのへや、ダブルベッドの部屋1つにする? 三人で川の字になって寝れば真ん中のひとも寝れるんじゃない?」
キャンセラーをつけている人が、着けていない人のことを考えて心を痛めないように、そうしてもらった方がいいのかもしれない。亜夢はそう思った。
「そ、そうですね。そういうことできますか?」
「中谷さん、ちょっとホテルに電話してみて」
中谷は不安げな顔をする。
「ダブルの部屋に3人の料金っていけるのかな」
清川が怒ったように言う。
「出来るかどうかかけてみてから言ってください」
「は、はい」
中谷がホテルに連絡を取ると部屋は空いていて、それでよければ構わないということだった。
二人で使う部屋を三人入るため、かなり狭くなることが予想された。
しかし、運転しながら清川が言う。
「いいなぁ」
中谷がつまらなそうに答える。
「何が」
「中谷さんのことじゃないです。女子三人でお泊りのことですよ。ねぇ?」
「……」
「あれ?」
清川がルームミラーを見ると、後ろの三人は寝てしまっていた。
ホテルに着くと、中谷がホテル側に事情を話す。家出少女とかではない、とか料金は警察署が持つからという話を一通り話した。そして、部屋のキーを亜夢に渡した。
「チェックアウトは10時らしいから、それまでに署に来て俺か、清川くんを呼んで。チェックアウトしたら、ヘリが用意できるまでは署で待機かな」
「はい」
亜夢の眉間にはしわが寄っていた。
中谷はそれに気づいたようだった。
「つらい」
「ちょっとキャンセラーに慣れ過ぎた、っていうのもあるかもしれません」
「もう少し作れるように署長に掛け合ってみるよ」
「ありがとうございます」
三人は手を振る中谷に頭を下げた。
キーホルダーに刻印してある部屋番号を目指した。
部屋のあるフロアでエレベータをおり、亜夢とアキナは荷物を抱えているのに、美優には何もなかった。
アキナが言う。
「あっ、今気づいた、美優の着替え……」
「着替えは大丈夫だよ」
美優は手を振ってそう答える。
「けど、下着は」
「……がまんするよ」
以前泊まった時のことを思い出し、亜夢がフロア案内図を指さして言った。
「ほら洗濯は出来るよ。乾燥機も使えるからすぐ乾くし。それとも、今から買いに行く?」
「店開いてるの?」
「開いてるんじゃない? お腹も減ったし」
亜夢はつらそうに頭に手を当てていたが、一方でお腹にも手を当て、言った。
「いってみるだけ行ってみようよ。高かったら買わなければいいだけだし」
「そうだね」
部屋に荷物を置くと、三人はそのまま部屋を出た。
「亜夢、部屋着はあれつかうの? 浴衣」
「美優も思った? 浴衣って、ちょっと、あれだね。なんつーか」
干渉波のせいか、二人の言っている意味がよく分からない亜夢は首をかしげた。




