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「そうじゃなきゃ、強力な超能力干渉波キャンセラーね。けど、このドームなら私達もキャンセラーなしのフルパワーだ」
「そもそも私が力を付けたとは思ってないんだな」
「こっちだって、修行してんだよ」
七瀬はそう言って構えたアキナを挑発する。
「ほら、パーマ。かかってきな」
クイっと指をまげて、呼び込むようなしぐさをする。
アキナはそのまま七瀬に向かって走り出してしまった。
「ダメよ。バラバラに戦ったら不利……」
亜夢が言うが、遅かった。
拳がぶつかり合い、ヒカジョの力比べが始まっていた。
大きな音がして、拳がぶつかる寸前で止まる。
互いの非科学的潜在力をそこに出し切る。
「フン」
七瀬は急に腕を引き、前のめりになったアキナを軸をずらしてかわす。
振りかぶった拳を、態勢を崩して突っ込んだアキナの顎に振り下ろす。
亜夢には、すべてがスローモーションのように見えた。
が、実際は一瞬だった。
アキナはスタジアムの人工芝の上に転がされた。
「アキナ!」
死んではいない。
思念波世界で覗き見る。アキナは気を失っているだけ、だけど、しばらく動けない。
「さて、あとはあんた一人だ」
『ちがうぞ。亜夢。思い出せ』
七瀬の後ろにハツエが見えた。
「私の本当のちからかどうか確かめるといい」
七瀬が走って亜夢へ向かってくる。単純に拳や肉体をアシストしただけでは負ける。亜夢はそう思った。
「ほら、どうした、手も足もでないのか!」
七瀬は言葉を発しながらも、左、右ストレート、左ローキック、右の回し蹴り、と連続で攻撃を仕掛ける。
亜夢は腕、足に非科学的潜在力で空気の層を作りながら、受け止める。それでも、ひとつひとつの打撃がおもく、反撃する隙がない。
「マスターのアシストなんて、はじめから……」
話しながら攻めつける。
亜夢は左右のフックをしゃがんで避けると七瀬の動きが鈍った。亜夢は立ち上がりざまにサマーソルトキックを狙う。
亜夢の蹴りが空を切ると、間合いを詰めてきていた七瀬もサマーソルトキックを放つ。
亜夢も、半身になって蹴りをかわす。
私が何か七瀬美月より優っているもの。そこで勝負をしないといけない、と亜夢は考えた。けれど、ハツエはそんな事が言いたかったのだろうか……
いやもしかして『あとはあんたひとり』に対して『違うぞ、亜夢。思い出せ』 と言ったのか?
「くらえっ!」
亜夢はもう一人いる超能力者の力を借りる。
次の瞬間、亜夢の指先から電荷が飛び出した。
雷。
一面白くなってしまうほど、まばゆい光が発せられた。
七瀬がもし避けきれなければ…… どうなる? やってしまっておきながら、亜夢は自身の行為に恐怖した。
主線となる稲妻を七瀬が避けると、スタジアムの人工芝へ落ちる。
しかし、枝葉の雷が七瀬の腕から入って、足先へ抜ける。
「!」
七瀬は目を見開いたまま、動きが止まった。
『乱橋亜夢!』
突然、声が聞こえると亜夢には現実世界が見えなくなった。
黒い布をまとい、目だけがこちらを睨んでいる。
『七瀬は返してもらう』
亜夢は必死に現実世界を見ようとするが、何も感じることが出来ない。
ただ目の前にいる布をまとった人物を見つめることしかできない。
『その力を、なぜ良いことに使わないんだ』
布の中に浮かぶ目が、細く疑うような目つきになる。
『では聞くが、お前の非科学的潜在力の使い道が良いことなのか、考えたことはあるのか』
『……』
布が波打ちながら、遠く、小さくなっていく。
『ま、待て!』
意識を切り替えていないのに、思念波世界が見えなくなっていく。
「あっ!」
バイクの轟音が聞こえてくる。
意識がなくなっていたかに見えた七瀬がバイクにまたがっている。
スタジアムのバックスクリーンにある大きな扉が開き、バイクはそこを走り抜けていった。
「まてっ」
まるで床に靴が接着しているかのように足が動かない。
「まてっ!」
バイクが通り過ぎると、扉はゆっくりと閉まっていった。
完全に扉がしまり、バイクの音も聞こえなくなると、足が急に上がった。
亜夢はどうしていいかわからず、ずっとバックスクリーンを見つめていた。
亜夢とアキナはSATに人質全員解放までの話を伝えた。
かなり長い拘束時間だった。すでに対テロ用情報統制(ICCT)は解けており、テロリスト側の超能力干渉波制御も崩壊していたため、二人は中谷の作ったキャンセラーをつけていた。
「ありがとう。これで報告書は作っておくよ」
「お世話になりました」
「誰も殺さずに済んで良かったよ」
「はい!」
亜夢は二番目にうれしい言葉をかけられ、笑顔でそう返事をした。
一番うれしいことは……
「乱橋くん」
中谷と清川がやってきた。
二人の後ろから、美優が言った。
「もうSATへの説明は終わったの?」
「美優!」
中谷と清川の間をすり抜け、亜夢は美優に駆け寄った。
精神制御され、ここまで連れてこられた美優を奪還した。亜夢はそれが一番うれしかった。
抱きしめて、跳ねるように何度もジャンプした。
「ちょっと、亜夢……」
「良かったよ。本当に良かった」
「あの敵の、一瞬の隙をつけたのは本当にすごいよ」
「SATの人が、通信機を切ってくれたおかげだよ」
美優は首を振る。
「スタジアムのカメラの映像は、ちょっとした補助にすぎないわ。あの一瞬の隙に取り返せるだけ、亜夢の力が上がったってことよ」
「そうなのかな」
アキナが近づいてきて、言った。
「さっき自分で言ってたじゃない。相手は七瀬をバイクごと回収したんでしょ? それぐらい精神制御が強いってことじゃない」
「そう考えると、たかがカメラの映像を切ったがぐらいで奪い返せたのはすごい疑問だわ」
アキナも美優も、真剣な顔をして黙ってしまった。
亜夢はしかたなしに考えて言葉をつないだ。
「もしかすると、遠いところから精神制御するってことに、根本的な問題があるのかも」
アキナが言う。
「思念波世界では距離がないんじゃんかったのか?」




