(29)
指と指の間に輝く光が集まり始める。
亜夢はその光を見つめた。
「まさかあなたも光球を投げれ……」
『死ねぇ!』
手に収まらないほどの光球が形成され、放たれた。
亜夢の体に高速で向かってくる。
『やっぱり』
亜夢は光球を手のひらで叩いて落とした。
「光をつかって思念波世界とすり替えただけ。あなたの非科学的潜在力は実際に空間や物体に働きかけることはできないんだわ」
三崎はすこしうつむいて、上目で睨んだ。
「そんなこと…… ない…… マスター!」
さっきと同じように手首を付けて、手を開いたまま押し出した。
三崎の手の中に、ゆっくりと小さな光が集まってくる。先ほどの勢いとは全く別ものだ。
亜夢は、とっさに思念波世界を覗き見た。
同じ格好をした三崎の姿。
それをうしろから見ている闇と少しだけ見えている目があった。
闇の中の目は亜夢の事に気付かない。後ろからサポートしているだけだ。
『あなたがマスターね。そろそろ目以外も見せてもらえないかしら』
『!』
吸い込まれる煙のように闇が消え、必死に両手を突き出している三崎だけがそこに残った。
「あなたが光球をだせるなら、私だって出来る」
三崎は顔を歪めながら力をこめるが、反対に光球は小さくなっていく。
亜夢が同じように手首の内側を合わせてを開いた。
一度腰のあたりに引いて、押し出す。
「ほらっ!」
光る球状の物体が、亜夢の手から放たれる。それは片手に収まるほどの小さいものだったが、スピードを増しながら三崎の手の中に入った。
消えかかっていた三崎の光球と、亜夢の繰り出した光球がぶつかると、割れたように光が飛び散った。
両手が弾かれるとともに、三崎は仰向けに倒れてしまった。
「だ、大丈夫?」
亜夢が三崎に駆け寄る。肩で呼吸している三崎は、ただ天井を見つめていた。
「マスター……」
それを聞いて、亜夢は三崎の思念波世界に入った。
亜夢の身長を超える大きな正六面体が組み合うようにそこにあった。
六面体のひとつひとつの面から角のように円錐が張り出してきて、組み合っていた六面体が崩れ落ちた。
崩れ落ちると、今度は円錐が引っ込んでいき、また六面体の山が作られた。
『三崎さん?』
亜夢は声に出すが、それに答えてくるとは思っていない。
けれど呼ばないとこの場所で三崎を探すこともできない気がしていた。
『三崎さん!』
脈打つように円錐が飛び出しては引っ込む。山が崩れて、組み直る。
正六面体の山はどんどん低くなっていくが、領域を広げていく。
『三崎…… さん……』
とがった円錐が出てきて、亜夢の体を突き抜けるか、という瞬間、亜夢は空間に浮き上がっていた。
足元には針が出てはひっこむサイコロが眼下に広がっている。
奥の方で、吹き上がるように正六面体が飛び出てくる場所がある。
亜夢は、グッと足に力を入れると、空間を移動した。
真下の正六面体が吹き上がってくるところを真上からみると、そこは赤黒く、何かが違っていた。
亜夢はゆっくりと空間を移動しながらそこへ近づく。
『三崎さん。返事して?』
じっと下を見つめていると、突然すべての正六面体がなくなった。
『!』
目の前に、白いヘッドホンをした亜夢の姿があった。
『あなた、だれ?』
白いヘッドホン、おそらく中谷から借りた超能力キャンセラー、をした亜夢が、亜夢に向かってそう言った。
『三崎さんの持っている、私のイメージ?』
そっちの亜夢は、ヘッドホンの上から耳をおおった。
『うるさい! あんたは誰なんだよ!』
『私は乱橋亜夢だよ。三崎さん。あなたの姿を私に見せて』
ヘッドホンを押さえたまま、しゃがんで丸くなった。
体を震わせると、もう一人の亜夢はブロックノイズのようになって空間に溶け込んでいってしまった。
何もない空間……
『わかったよ……』
亜夢も体をブロックノイズのように分解させ、空間に溶けていった。
『見つけた』
何もない空間の何もない裏側で、息をひそめて立ち尽くしている三崎を見つけた。
亜夢は裏側の平たい空間を横歩きしながら近づいていって、そっと手をつないだ。
『大丈夫。心配ないから』
亜夢と三崎の間で、宮下加奈を救い出したことを共有した。
宮下が流す涙をみて、三崎も涙した。
『さようなら、マスター』
三崎がそういうと、遠くに小さな暗闇が出来た。そこにさらに小さく開いたところから、のぞき込む目があった。
『ふん。思念波世界ばかりで役に立たないお前なぞ、こちらからお断りだ』
その小さな闇からたくさんの、先のとがった円錐が突き出して来た。
『あっ…… だめっ…… 逃げれない』
『諦めないで!』
亜夢が三崎の背中に回り、三崎の手を取った。
手首の内側同士を付けて、指先を開く。
『大きな光球を作ってあの針をすべて飛ばすの』
三崎がうなずく。
亜夢も祈るように力を注ぐと、三崎の手の中にエネルギーが集まってくる。
円錐のとがった先が二人を貫こうとする瞬間、光球がその円錐を粉砕した。
広がっていく光球の光が、ずっと先にあった闇を消し、世界を広げ、すべてを明るく照らした。
光に包まれた世界で、三崎と亜夢は向き合っていた。
『ありがとう。これでマスターから解放されたわ』
亜夢はうなずいた。差し出される手をとり、握手をかわした。
『まだ先があるから』
亜夢は三崎に背を向けた。
『うん。気を付けてね』
思念波世界を出ると、三崎は目を開けていた。
亜夢が体を引き起こすと、三崎はすっと体を離した。
「もう大丈夫」
「場所……」
「わかるわ。亜夢の考えを読んでたから」
そう言って、三崎は一人で梯子を下り、去っていった。
梯子を下りて、亜夢は天井が高い通路を奥まで進んだ。
その間に、三崎に操られていた人質に何人か出会った。三崎のコントロールからは外れていたが、ここがどこなのか、なぜここにいるのかが分からない様子だった。亜夢は三塁側ベンチへの行き方を案内した。
「もうこれで三崎さんに操られた人質は全員かしら……」
そう言って周りを見渡し、シャッターで行き止まりになっている横の大きな扉を開いた。
先には重機がいくつかおいてあって、さっきまでより室温が下がった気がした。
角に非常口を示す灯りが光っていて、その下の扉から少し光が漏れていた。




