(23)
アキナが返す。
「けど、協力するふりして、テロリストを殺さないようにすることもできたんじゃないかな」
亜夢は立ち止まって振り返る。
アキナも、亜夢が誰を見ているかに気付いて、振り返る。
視線の先の男は首を振る。
「アキナ、その場合は私達もターゲットにするって、そう言ってたじゃない」
「……」
再び階下方向に向き直り、亜夢はゆっくりと階段を下り始めた。
「あの人は、非科学的潜在力を持つ者としての共感をすてろ、って言ってた」
「そうだったね」
「同じ人としての共感はないんですか?」
亜夢はそう言って立ち止まり、またしんがりの男の顔を見た。
「ない。テロリストは人ではない」
亜夢は男の冷静な表情が気に入らなかった。
「……が、君たちが協力しないと、テロリストにも、我々にも、そして人質にもだ。余計な犠牲者が増えるのは間違いない。なぜ協力を拒否した? 短時間で制圧するためのベストな選択なのに」
亜夢は男を睨みつけていたが、男の言葉を考えているうちに視線をそらした。
「……誰も傷つけたくないのよ」
ゆっくりと階段を下りていく。
それを最後に誰も話さなくなり、しばらく靴音だけが響いた。
階段を下りきると、少し広がっているホールに出て、最初に通ったオートドアを出た。
亜夢達に気付いて、中谷と清川が車から出てくる。
「どうしたの? もう終わったの?」
清川に呼びかけられると、亜夢とアキナは小走りで近づいた。
「いえ…… そういうわけでは」
男はオートドア近くで立ち止まった。
中谷が険しい顔をして亜夢の胸倉をつかんだ。
「な、なにをするんですか?」
「じゃあ、なぜ君たちは帰ってきたんだ。ドームの中の人質をすくっていないのに!」
「……テロリストを殺す気で行動しろと。そうしなければ私やアキナも殺すと言われたから。そんなことできない、と思ったし、それに、私、誘拐された美優を探す為ににきたんだよ」
中谷は急に手をあげ、亜夢の頬をはたいた。
「痛い」
「馬鹿! すぐもどるんだ。作戦に参加しろ」
「だから私達、人殺しの為に学園から連れてこられたんじゃ……」
中谷は亜夢を突き飛ばした。
足がもつれ、よろよろと後ろにさがると、しりもちをついてしまう。
「何をするんですか」
「君たちは俺と清川がしたくてもできない能力を持っているんだ。持っている者として、責任を果たす義務がある」
「……欲しくてこの非科学的潜在力を持っているわけじゃない」
「俺らだってそうだ!」
中谷は亜夢たちに背を向けた。
鼻をするるような音が聞こえる。
清川が代わりに進み出て、オートドア付近に立っている男の方を指さす。
「早くいきなさい。人質を救うの」
亜夢は立ち上がって清川にくってかかる。
「私達は誰も殺したく」
「いいかげんにして!」
中谷とは反対側の頬を、パチン、と叩かれた。
「亜夢。テロリストに対抗できて、ドームの人質を救えるのはあなたたちだけなのよ」
亜夢は両目から涙があふれていた。
アキナは口を真一文字にむすんで、清川にうなずいた。
「行こう。亜夢」
エレベータ近くで立っていた男は清川にうなずいて、泣き叫ぶ亜夢とアキナを先導し、ホールへ入っていく。
「中谷さん。中谷さんは正しいことを言ったんです。泣かないでください」
「清川くん……」
中谷は清川の肩に手をかけた。
「ありがとう」
清川は笑った。
パイプスペースでは、亜夢達非科学的潜在力女子がいない想定で作戦を話し合っているところだった。
男に促されて、亜夢とアキナが入ると、中の連中は話すのを止め、一斉に二人の方を見つめた。
亜夢はふてくされたような顔をして、床に目線を落としている。
「私達も作戦に協力します。協力させてください。お願いします」
「亜夢、その言い方……」
再び、この集団のリーダーが亜夢のところにやってきて、言った。
「本当にやれるのか。半端な気持ちだと」
「やります」
「私もです」
亜夢とアキナはほぼ同時に答えた。
「よし」
リーダーが声をかけると、すぐに男たちが行動した。アキナと亜夢はそれぞれ別々の班に分けられ、おのおの作戦を説明された。
短い説明ではあったが、皆首を縦に振った。
男たちは銃を持ち、装備を確認した。
亜夢とアキナも、チョッキを着けるように言われた。
「それは外して」
確かに、キャンセラーを外すと、非科学的潜在力の外へ広がるような力が使えない。
二人は言われた通り、干渉波キャンセラーを外す。
「えっ?」
亜夢とアキナは顔を見合わせる。
「亜夢、ここ、都心じゃないの?」
「ここ干渉波がない」
「テロリストが非科学的潜在力をつかうのだから、そういう状況でも不思議はないな」
「……」
亜夢は一瞬、言うべきか、言わないべきか悩んだ。そしてそのまま考えた事を口にした。
「テロリストが何故干渉波をキャンセル出来るんですか? 政府に内通するものがいるんじゃないですか?」
「……それは今議論する内容ではない」
「しかし」
「人質の解放が先だ」
亜夢はうなずいた。アキナも目で合図した。
「いくぞ」
亜夢の班は、一度駐車場あたりまで下がってから、作業用通路を使ってテロリストが指令室として使っているだろうテレビ中継室の真下へと向かった。アキナの班はグランドの下を通って、人質を逃がすための大型搬入口の確保をすることになった。
腰をかがめながら素早く通路を通りテレビ中継室の真下に到着する。
亜夢は男たちから携帯端末でテロリストの画像を見せられる。
「このドームを占拠した連中だ」
最初の人物は、車椅子に乗っていた。
「宮下加奈」
「知っているのか。その通りだ。宮下は車椅子に乗っているが、油断できん。車椅子ごと宙に浮いたりする」
次の写真の女性の写真は、目元に見覚えがあった。
「よくアメリカンバイクに乗って行動している女だ。最近分かったんだが七瀬美月という名前だ。二年ほど前まで、都内の高校に通っていたらしい。その他の経歴はまだわからない」
いつもはフェイスマスクをしていて、顔全体の輪郭や口元をみるのはじめてだった。
亜夢は七瀬の写真を指さして言った。
「さっきまで私達の乗ったパトカーをつけていました」
「そうか。ならば、君たちと同時にドームに戻ってきているかもしれないな。残念ながら、顔がわれているのはこの二人だ」
亜夢は拍子抜けした。自分が把握している情報を上回っていないからだ。
「以前、署長の娘が精神制御されていたのは知っているな。我々の予想では、ああいう人物がまだたくさんいると予想している」




