ネコ会議
幽霊ネコたちが体育館に全員集合するのは初めてのことだった。まずは掃除から始まった。ネコたちのなかには男子生徒に変身する者もいて、メグは楽しそうにしている。
「よし! この手で行こう・・・。」
タケシは、掃除をするメグたちを見てつぶやいた。
掃除を終え、ネコたちはざわつきながらステージ前に集まってきた。
「タケシさん、整列する?」と誰かが叫ぶ。
タケシとユウはステージに上がった。メグは錆びたパイプ椅子に座り、膝の上にはシゲルが居眠りをしている。
「いや、学生じゃないから。全校朝会とか思い出すなあ。」
ネコたちは笑った。ジュンがピアノを弾く。
「ジュン、外に聞こえるぞ。」
タケシが言うと、ジュンはピアノの上に飛び上がり、「コマネチ!」「アイーン!」と古いギャグを飛ばしては、みんなを喜ばせた。
「ジュン、そのへんにしてくれ。今日は学芸会じゃないんだ。」
シロネコのジュンは、最後にもう一度コマネチをしたが、あんまり受けなかった。
「今日、ここに集まってもらったのは、みんなに相談したいことがあるからだ。」
タケシはそう言うと、体育館の天井を見上げた。
「いつものとおり、三年六組の教室でもよかったんだが、たまには、広いところでやってもいいと思ってな。」
ネコたちはタケシにならって天井を見上げる。茶色の鉄骨に、クモの巣が幾重にも重なり、二度と光ることのない水銀灯が無愛想にぶら下がっている。
「このまえ、『世直し』のことで話をしたが、実際、なにをどうしたらいいか、わからなかった。メグちゃんがいじめっ子を助けたいってことで、調べてみたら、その子は母親に虐待され、その母親も会社の上司にパワハラを受けていた。世の中、いじめだらけだ。弱い者がつらい思いをしている。そもそも俺たちは、いじめが原因でこうなったんだ。いじめって言葉を聞くと、人間だった頃を思い出して、気持ちが沈む。しかし、このへんで覚悟を決めて、向き合ってもいいんじゃないかと、俺はそう思ったんだ。」
メグの膝の上のシゲルが突然飛び降りて、ステージに登ると、二本足で立って拍手をした。それに倣い、他のネコたちも拍手をする。ネコたちのパフパフと、メグの拍手が体育館に響いた。
「メグちゃん、音、大きい。」とツトムが注意する。
メグが右手でごめんの仕草をすると、ネコたちは笑った。
「それで、具体的にはなにをするんだ?」
後方から誰かが言った。
「そこなんだ。」とタケシは言った。「とりあえず、これまでの調べでわかったことを聞いてくれ。」
タケシが言い終わると、ユウが前に一歩出た。そして、北条莉子とその母親のこと、今村沙也加の存在について説明した。
「今村沙也加、だっけ? あと会社の上司? 悪い奴をやっつければいいんだろ?」
ネコたちから出た意見にタケシが答える。
「もちろん、そうだ。懲らしめるのは簡単なんだ。ここでみんなで話し合う必要はない。問題は、悪い奴を懲らしめたところで、いじめがなくなるか、ということなんだ。」
「タケシさん、いじめは永遠になくならないよ。」
「そうだな、シンジ。根絶するのは、難しいだろう。しかし、少なくすることだったらできる。苦しむ人を、少しでもなくす、そんな考えでいいと思うんだ。暴力は新たな暴力を生む。懲らしめるんじゃなく、少し言いにくいが・・・。愛で、愛情で、人の心を変えることができると思っている。」
「愛情で問題を解決するって?」
ネコたちがざわついた。
「タケシさんは理想が高すぎるよ。」
「さっさと懲らしめればいいんじゃないの?」
ユウはタケシを見つめた。
「懲らしめるにしても、正当なやり方でいこうと思う。」
「正当なやり方?」
「俺たちは、ただの幽霊ネコだ。いくら悪い人間がいたって、俺たちに彼らを懲らしめる権限はない。そうじゃないか?」
ネコたちは黙る。その沈黙を、シゲルが破った。
「だから、ひなたぼっこでもして、のんびりするに限るって、俺は前タケシに言ったんだが・・・。確かに、俺たちはなんのためにここにいるのかわからない。俺もだんだん、俺たちにしかできないなにかがあるかもしれないと思うようになった。メグちゃんが来てからな。」
シゲルはそう言うと、メグの膝に再び収まった。
「シゲルはいいよ、メグちゃんと合体できてさ。」
ネコたちからシゲルにブーイングが上がる。それを見たタケシは、ここぞとばかりに叫んだ。
「みんな、メグちゃんとデートしたいか?」
タケシの突然の言葉に、笑い声とざわめきが入り交じる。
「デート?」
「なんだ、そりゃ?」




