知っていた今村沙也加
今村議員が事務所に入ると、娘の沙也加が待っていた。
「パパ、久しぶり。」
「ここには来るなと言っただろう・・・。」
ソファに座り込んだ父に沙也加は抱きついた。秘書が今村にタバコを差し出す。
「ほら、向こうに行きなさい。タバコを吸うから。」
「なによ、その態度。もう少し優しくしたら?」
秘書は沙也加にアイスクリームを手渡す。
「お嬢様、先生は議会が終わったばかりですから。」
「見てたわ。パパ、小松菜って名前誰がつけたかなんて、知らなくても大丈夫だよ。気にしなくても平気、平気。」
沙也加はアイスクリームの冷たさに目を細める。
「うるさい。それより、なにしにきたんだ。」
「あの若い議員、人間じゃないわよ。」
「えっ? なんだって?」
「あれ、人間じゃないの。ネコなのよ。」
久しく学校に姿を見せなかった今村沙也加。埠頭でメグたちに敗北してから、反撃のチャンスを伺っていた。
「人間でないことは確かよ。」
沙也加は、メスネコがメグに変身するのを目撃した。そして、メグが手をかざしただけで自分を襲った強い衝撃。
「あの子、フツーじゃないわ。絶対なにかある。」
運転手付きの車をもっている沙也加は、数週間、メグの行動を見張っていたのだ。
自宅から学校、そして、淀川中学校に入っていくメグの姿を。
沙也加にも特殊な能力があるのか、体育館から校舎へ飛び移るネコたち、消えたり現れたりする幽霊ネコが見えた。
「ネコ? なにを馬鹿なことを言ってるんだ。」と父はタバコをもみ消した。
「わたしがやられたのは倉内メグって子なの。その子がネコに変身したり、また人間に戻ったりしたのよ。だから、ずうっと監視してたの。そしたら、見たのよ。あの学校から大滝議員が出てくるのを。」
「幽霊学校だから、ネコぐらい住み着いてる。大滝も視察に来てたんだろう。」
「もう! パパったら、信じてよ。もし本当なら、一発逆転よ!」
今村議員は腕を組んでしばらく考えた。
「確かに、田村が死んでから腑に落ちないところはある。大滝に、あの女。議員たちがあっという間にあっちに引き込まれた。誰だっけ? あの秘書・・・。」
「田沼の甥ですか? そのまま、田沼です。」
「また田沼か・・・。あの男が優秀だとしても、わたしの味方だった議員がことごとく裏切ったのはおかしいと思っとった。今日の議事堂も異様な雰囲気だった。」
「だから、ネコだって、パパ!」
「白井・・・。」と今村は秘書を呼んだ。「少し、調べてくれ。」




