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憂いっ子メグと幽霊ネコたち  作者: 瀬賀 王詞
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22/27

都議会での逆転可決


 都議会までの二週間、田沼啓一秘書がしたことは、連日連夜の宴会だけ。加藤愛秘書の存在が吸引効果を発揮し、宴会場は自民、公明、民主などの政党に関係なく都議会議員で満席。


「やっぱり、お下劣なお色気作戦じゃない!」


「違いますよ、愛ちゃん。これは、意図的じゃありません。」


「愛さんから愛ちゃんか・・・。だんだんなれなれしくなってくるわね。」


 都庁では大滝議員の部屋の出入りが多かった。今村議員はこの状況を一過性のものと考えていた。


 都議会の二日前になってようやく、大滝議員は田沼から作戦を聞いた。


「議会議長に新提案事項を申し入れてきました。江戸川区の開発計画の新提案です。」


 大滝議員は、書類を読み終えると、田沼を抱きしめた。愛も書類を取り上げ、目を通す。


「これなら、いける。そう思うだろう? 加藤秘書。」


 書類を読む愛の表情が、少し緩む。


「ただの宴会部長じゃなかったわね。この案が可決されたら、デートしてあげてもいいわよ。」


「よかった。それじゃあ、銀座のレストラン、予約しときますよ。」


 田沼をそう言うとウインクをした。

 


 都議会が始まった。議事堂にいるのは議員だけではなかった。


「ユウ、しっかりやってるな。」


 タケシは、議事堂の屋根裏から、議員らしく振る舞っているユウたちを見て言った。


「もし俺たちが人間のままだったら、こんなことはできなかった。東京都の政治に小中学生が関わるなんて、あり得ないことだ。」


「すごいことだぜ。」とツトムが言った。


「反対派もだいぶ増えてきたしな。もしかしたら、ひっくり返すことができるかもしれん・・・。」


「タケシさん、議決するとき、小細工とかする?」


「様子をみよう。できることなら、そんな勝ち方はしたくないからな。」


 ツトムは、蜘蛛の巣にじゃれながら言った。


「幽霊学校を守りたいなら、どんな手を使ってでも勝ちにいくべきだと俺は思いますよ。」


 タケシは答えなかった。大滝議員を支持する議員は多いはずだとタケシは考えた。



 議事堂に秘書は入れない。加藤愛と田沼啓一は事務所で中継テレビを見ていた。


「今村議員がどう出るかだな。江戸川区開発計画案は一回可決されている。それを蒸し返されるわけだから。」


「そんなの、議会では珍しくないはずよ。それに、住民の反対運動も起こってるし、再度議会で審議するのは不自然じゃないわ。」


「いよいよ大滝先生の番だ・・・。」


 田沼は身を乗り出して画面に食い入った。愛は記録を執る。



「大滝議員」と議長がマイクに顔を近づけて言う。「はい!」と大きな声で立ち上がる大滝議員に笑いと拍手が起こる。


 議事堂は公開され、多くのメディアが議会中継を放送していた。イケメンで若い大滝議員の人気は上昇し、大物の国会議員も一目置いている。


「大滝です。まだまだ若造ですが、都政のため、粉骨砕身がんばりますのでよろしくお願いします。」


 新宿アルタ前の大型ビジョンには、大滝議員の顔アップが映った。


「都知事に質問です。」


 大滝は、江戸川区開発について多数の反対が出ていることについて質問した。太田都知事は、

「江戸川区開発計画については、すでに審議済みであり、住民の皆さんにはこれから十分に説明していく。」と答えた。


「決定したことについて、後からとやかく言うのは確かによくないとわたしも思います。しかし、こういったことは、議会で決める以前に、まず住民の声を聞くことが大切だと思います。江戸川区開発については、住民の意見を聞くような機会は一度も設けていない。議会で勝手に決めて、住民の皆さんに説明するといっても、住民の皆さんが納得するわけがない。」


「住民は納得してるぞ!」と今村議員が叫んだ。


「そうだ!」と数名の議員が続く。


「それは、今村議員の近所の皆さんだけではありませんか?」


 大きな笑いが起こった。今村は、仲間の議員と激昂する。


「都知事に提案します。わたしの調査ですと、賛成派と反対派は五分と五分です。江戸川区開発は、オリンピック開催にも大きな影響を与える重要な課題です。果たしてショッピングモールを建設するのがよいのか、慎重に考えるべきです。」


 太田都知事が挙手をする。


「経済効果は試算で三十億円。オリンピック開催時はその倍となります。これを越えるプランがどこにありますか? なにか他にプランがあるならお聞きしたい。」


「大滝くん。」と議長が言う。


「江戸川区は、『陸の孤島』と呼ばれ、交通網の整備から開発計画が立ち上がったわけですが、学校や工場を潰して商業施設を建設するというだけでは、真の経済発展にはつながりません。江戸川区には江戸川区のよさがある。そのよさを知っているのは江戸川区の住民です。江戸川区の開発を推進するのであれば、江戸川区民と十分に話し合うべきです。」


 今村議員が立ち上がる。


「だから、江戸川区民の代表であるわたしが、ここにいるじゃないか!」


「ですが、今村議員はこの件について一回も、住民の皆さんと意見交換をしていらっしゃらない。」


「わたしの意見は、江戸川区民の意見だ。わたしは、江戸川区の代表なんだ!」


「それでは、今村議員はどこまで江戸川区のことをご存じか、ひとつクイズを出しましょう。議長、少しのお遊び、お許し下さい。」


「クイズだと? ふざけるな。議長! 却下だ、却下!」と今村議員。


 議長はなぜだか咳き込む。


「議長が咳き込んでいるお時間をお借りしまして、今村議員にお聞きします。江戸川区と言えば小松菜が有名ですが、名前の由来をお答えください。」


「なんだよ、そんな、へなちょこクイズ。綱吉だよ。徳川綱吉。鷹狩りに来ておって、味噌汁に入っとった菜っ葉に小松川から名をつけたんだ。」


 大滝は、やや間を置いて言った。


「ビー! 徳川綱吉ではなくて、吉宗です。」


「そうだ! 吉宗だ。勘違いだ勘違い。おい、議長、早くやめさせろ。こいつ、ふざけてる!」


 議長はまだ咳き込んでいる。


「では、第2問。江戸川区の子どもの人口は、向こう十年間、減少傾向にありますか、増加傾向にありますか。」


「今度はまともな問題じゃないか。そんなの決まっておる。少子化が深刻な問題となっておるのに。」


「減少傾向でよろしいですか。」


「当たり前だ! こんな簡単な問題。」


 議長がようやく息を整えた。


「ビー!」


「なんだと? どういうことだ?」


「江戸川区は、都内一住みやすい町。区では、住みやすさをアピールするとともに、就農人口の増加を計画しています。農業のよさを都民に理解していただくイベントを企画、農地を安くレンタルするなど、新しい発想で江戸川区の開発を推進します。すでに、就農相談窓口には三百件を越える相談があるそうです。宅地開発も同時に進行しており、向こう十年、人口増加が期待できるのです。」


「そんなはずはない。増加するなどと。データでは減少しつづけておる。だから学校を統合したり、閉校したりしてきたんだ。」


「今村議員がお持ちのデータは、つまり、古いんです。今村議員は江戸川区を地元とおっしゃいますが、イベントに顔を出すだけで、江戸川区の政策にはまるで無関心だったようです。江戸川区は、今回の今村議員のショッピングモール提案に関しては黙認するという姿勢でしたが、わたしは黙っていられません。子どもが増えるとなれば、すべきことはほかにあるはずです。廃校となっている学校が三つありますが、壊してしまっては、どうにもならない。いずれ必要となったとき、今村議員、また学校を建て直しますか?」


 今村議員は考え込む。


「よし、いいぞ、大滝先生!」と田沼がテレビの前で手を打つ。



 議事堂。


 太田都知事が挙手をする。


「ショッピングモール建設は、江戸川区開発計画のごく一部です。今回の法案は、江戸川区開発に東京都が力を注ぐということを確認するもので、ショッピングモール、そして、中学校の再建につきましては、江戸川区と都が連携を図り、実状と将来の状況を勘案して、考え直してまいります。」


「ありがとうございます。」


 大滝議員が退席すると、大きな拍手が起こった。



「やったぜ!」とツトムがはしゃぐ。


 議事堂の屋根や壁にいた他のネコたちも走り回って喜ぶ。


「子どもが増える・・・。それだったら、学校はつぶれない。」


 タケシはつぶやいた。


「どうした? タケシさん、もっと喜びなよ。」


「そ、そうだな。とうとう、都政を変えた・・・。これは、すごいことだ・・・。」


 メグがメスネコになってやって来た。ネコたちが集まって来て、お互いにネコタッチをし合う。


「ぼくたちの学校、つぶれないんだね?」とセイヤが言う。


「たぶんな・・・。」とタケシは言った。「新しい学校ができるだろう。」


 タケシの言葉を聞いて、ネコたちは急にしょんぼりした。


「僕たち、どっちにしても学校にいられないね。」とアキラ。


「いればいいじゃん。」


「学校にいられなくてもさ、僕たち、どこにでも行けるんだから。」


 ネコたちはああだこうだとざわついた。タケシはメグと目を合わせる。


「タケシさん、目がうるうしてる。」とメグ。


「ほんとに? ネコでも涙は出るんだな。」


 メグがタケシの顔を優しく舐める。


「あなたに会えてよかった。」とメグは言った。


「俺も・・・。俺たちもそうだ。きみに会えてよかった。」


 タケシはメグを抱きしめた。それを見て、騒ぐネコたち。


 この気配を感じた大滝議員、つまりユウは、


「僕も早くネコに戻りたいなあ。」と天井を見上げてつぶやいた。


 大滝議員は、議会を終えて事務所に帰るところだった。


「ネコに戻りたいって、何ですか?」


 田沼秘書が横から顔を出して言った。


「なんだ、いたのか! 横から顔を出すな。」


「先生! おめでとうございます。バッチシでしたよ、バッチシ!」


 ふたりが事務所に入ると、加藤愛に戻ったメグがいた。愛がふたりにコーヒーを渡すと、三人は乾杯をした。

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