助っ人、田沼啓一
都庁では、大滝議院と一緒に登庁した女性の話題で持ちきりになっていた。女性は、会う人ごとに名刺を渡す。
「加藤愛・・・さん。これはまた、女優さんみたいですな。」
名刺を受け取った議員の誰もが加藤愛に見とれ、大滝議院に羨望の眼差しを投げた。
田沼啓一は午後に現れ、加藤愛を見るなり「うれしいね。こんな美人と一緒に仕事ができるなんて。」と言った。
「まだ一緒に仕事をするとは決まっていない。あなたの方の都合もあるでしょう。」
大滝は狭い応接室に田沼を通した。
「それは困るなあ。もう弁護士事務所には休暇願を出したし。」
大滝と愛は目を合わせた。
「こちらも困ったわ。どういう人物かもわからない人を秘書に雇ることになってしまった。」
愛がそう言うと田沼は豪快に笑った。その笑いっぷりには、田沼の自信が感じられた。
「初対面だから仕方ないけど、大滝議員、あなたが本物なら、僕がどれほどの人間か、すぐにわかるはずだ。」
「田沼先生の甥っ子であれば、間違いはないと思っている。ただ、相性が合うかどうかだ。さっきの大笑いを聞いて、少しだけ、一緒にやれそうな気がしてきたところだ。」
「よかった。一仕事すれば、僕にゾッコンだと思いますよ。どうぞ、よろしく。」
三人は握手を交わした。
大滝は、田沼にショッピングモール建設に関して意見を聞く。
「ショッピングモール建設は、住民には魅力ですよ。反対するのは、かなり厳しいですね。」
「それはわかっている。それを可能するのが、きみの仕事だ。」
「今村議員をスキャンダルで失脚させるとか? 加藤さんみたいな美女もいるわけだし、お色気作戦といきますか?」
加藤愛は、田沼の視線を跳ね返すように言った。
「田沼さん、あまりお利口とは言えないわね。そんなこと、わたしひとりでいつでもできるの。お下劣な手段は使いたくないから、あなたに来てもらったの。」
「冗談ですよ、愛さん。怒った顔はなお美しい。叔父からも大滝議員のサポートを頼まれたわけですから、やるだけのことはやりますよ。大滝先生、次の議会はいつですか?」
「二週間後だ。」
「わかりました。ところでどうです? 三人の絆を深めるために、今夜あたり一杯やりませんか?」




