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憂いっ子メグと幽霊ネコたち  作者: 瀬賀 王詞
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生徒会長、今村沙也加


 生徒会室は、生徒の自治活動の場ということで、先生たちが来ることは滅多になかった。生徒会顧問でさえ立入を禁止されるほど、生徒会本部の聖域として、独特の空気が流れていた。


 莉子がドアをノックして入ると、今村沙也加は窓からグラウンドを見下ろしていた。


「失礼します・・・。北条です。」と莉子は小さな声で言った。


 窓から野球部やテニス部のかけ声が聞こえる。


「あら、お友達はどうしたの?」


 振り返った今村の声は優しい響きだったが、突き刺さるような明瞭さがあった。黒髪を短く切り上げ、白く長い首筋を見せつけていた。


「あの、あいつらは、今日は勘弁してください。」


「勘弁って・・・。ずいぶんな言い方ね。まるで、わたしが悪魔みたいじゃない?」


 生徒会長の椅子に座った今村は、引き出しを引き、おもむろにタバコを吸い出した。


「それで、ボランティアは大丈夫なの? 心配になったのよ。あなたたちって、ビンボーでしょ? 五十万って、大金でしょう。」


「なんとか、します。クラスのみんなから、吸い上げるんで。」


「クラスから吸い上げるって? 北条さん。あなた、なんにもわかってないのね。」


 今村は、タバコを莉子に放り投げた。


「これまでのあなたたちの悪事を清めるために、わたしが提案したことなのよ。五十万、恵まれない人たちのために使えば、あなたの罪も償われるわけ。喝上げで集めたってなんの意味もないでしょう?」


 今村は立ち上がる。


「わかりました! ごめんなさい!」


 莉子はすでに身を縮め防御に入る。大理石の床をつかつかと歩き、今村は無表情で莉子の腹や尻に蹴りを入れる。


「大して痛くないでしょ? アザができない程度にしてあげてるからね。あなたみたいな低脳は、体に言い聞かせないとわからないでしょ?」


 今村は、タバコを拾い上げて、灰を莉子の首筋に落とす。


「お灸を据えるっていうのよ、昔の言葉でね。どうせ知らないでしょ。耳が一番効くらしいけど、後が残るから許してあげるわね。」


 今村は、莉子の頭を持ち上げると、襟首の隙間にタバコを放り投げる。莉子は低い悲鳴を上げて、タバコが落ちた部分を強く押す。おなかを押さえ、苦痛に顔をゆがめる。


「そんな大げさねえ。醜い顔が益々醜いわよ。火、大してついてなかったでしょ。」


 莉子は、激しい息づかいで立ち上がった。


「あら? なんだか、目が怖いわね。そんな態度でいいのかしら? 言ったでしょ? わたしにできないことはないのよ。あなたの命も、あなたの家族も、わたしにはどうでもできるの。あなたたちからしたら神様みたいなものなのよ。」


「すみません・・・。せ、生徒会長。」


 莉子は、土下座をして言った。


「あら、少しは利口になったのね。わたしの名前を呼んだら、またおしおきをするところだった。いいわよ、帰りなさい。五十万の期限はあと一週間。覚えておくのよ。」


 立ち上がった莉子の制服からタバコの吸い殻が落ちた。莉子はそれを拾い、「失礼いたします。」と言ってドアを閉めた。

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