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C-007 公爵令嬢クラリオラの恩人

※初心者故、気になったタイミングでこまめに加筆や修正を行います。何卒ご了承下さいませ。

※更新頻度は緩やかです。


▶︎活動報告なるものをしたためてみました。




 結局、クラリオラの王都分析は邸宅に到着するまで続いた。一人で自問自答をしていたかと思えば突然考え込み、急に興奮した面持ちで何かを口走るとまた黙り込む。目の前で百面相を繰り広げるこの姿が本来のクラリオラなのだが、実は一度(ひとたび)「レクレディ公爵令嬢」の仮面を被れば真逆の完璧な淑女となる。


 ただし、どちらの姿も——クラリオラ本人を見たことがある者はほぼ居ない。何故なら彼女が公爵領の領邸から出ることは殆どないからだ。


 幼い頃の彼女は、ほんの一瞬とて目が離せないほどに活発で好奇心に溢れた子供だった。しかし、ある出来事を境にクラリオラから笑顔が消えた。一人塞ぎ込み、他者の全てを排斥して自分の世界に閉じこもってしまったのである。


 そんな彼女の心を救ったのが、何を隠そうセルヴィであった。


 楽観主義と現実主義の相反(あいはん)する二つを「合わせ技」で所持するセルヴィは、それに加えて度胸と根性、行動力までをも兼ね備えた生命力漲る女性だ。もっと端的に述べるなら(言葉は悪いが)「馬鹿単純」な思考回路の持ち主だった。


 (もつ)れに縺れてしまったクラリオラの心を時間をかけて(ほど)いたセルヴィは、時に寄り添い、時に叱咤激励しながら献身的に主人に尽くした。


 真っ直ぐなセルヴィの想いはクラリオラを変えた。主人は、心の傷を原動力に「今、自分が成すべきことはなにか」という問いに答えを見出すべく、努力を重ねる人間へと変貌したのだ。


 こう書くとセルヴィの功績は途轍もない偉業のように感じるかもしれないが……実を言えば、当の本人は後悔しきりなのである。セルヴィは主人に()()()、世間一般でいう幸せな令嬢に戻って欲しかっただけなのだ。


 それなのに——。


 (ほぞ)を噛む思いでセルヴィは主人を見る。


 いつも、いつだって誰かの為ばっかり。少しは自分の幸せの為に生きて欲しいんです、お嬢様。



***



 正午を少し過ぎ、馬車はレクレディ公爵が所有する王都邸宅に到着した。石造りの車寄せに横付けした馬車に侍従が近付いて扉を開けた。簡素な出立ちでありながら気品溢れる佇まいと桁外れの美貌を前に、侍従の頬が赤らむのを認め、セルヴィは(ひと)(ごち)る。


 ——()もありなん。ほらほら、あんまり見つめると危険ですわよ?


 クラリオラがこの邸宅を訪れたのはまだ幼かった頃のみ。王都邸宅の使用人達は、成長した令嬢とほぼ初対面だ。起こるであろう悲惨な未来が頭によぎり、侍女はぶるぶると首を振った。


 馬車から降り立った()()()()()()()()()は自然な動作で姿勢を正すと、手を貸す侍従へふわりと笑みを浮かべた。極上の微笑みを向けられた侍従がぴしり、と固まる。数秒後、我に返った絡繰(からくり)人形は重力と無関係な怪しい動きでクラリオラを邸内へと誘った。


 ——嗚呼(ああ)御愁傷様(可哀想に)


 セルヴィは胸の中で十字を切る。


 なんてこと。この侍従(ひと)も囚われてしまったわ。お嬢様の笑顔ったらどんな人も一瞬で制御不能にしてしまうんだもの。この後、どれだけの犠牲者が出るのかしら。


 開かれた扉の奥、天井が高い玄関広間の両脇に使用人達が並ぶ。深く頭を下げた一同の先頭で、好々爺が柔らかな表情を浮かべて一礼した。


 「お帰りなさいませ、クラリオラお嬢様」


 「プロヴィタス、久しぶりね。元気そうで嬉しいわ」


 執事のプロヴィタスはクラリオラの応えに顔を上げ、その姿を認めて目を細めた。瞳の奥に懐旧が滲む。


 「本当にお美しくご成長されて——こうしてまたお会い出来て誠に嬉しゅうございます。長生きはするものですな」


 「嫌だわ、爺や。泣かないで」


 クラリオラは絹の手巾(ハンカチ)を取り出すと老爺の目尻に当てた。増えた皺が二人の間に流れた時間(とき)を物語る。


 二人が互いの思いを噛み締めている背後からこほん、と軽い咳払いが響いた。


 「お嬢様、積もるお話もございましょうが先ずはお召し替えをなさいませ。控えた者達も色々と準備がありましょう」


 流石はセルヴィ。何故か場を仕切る行動力。年若な侍女の助言に、クラリオラと老執事は目を合わせて苦笑した。


 「ごめんなさいね貴方達。どうか顔を上げて頂戴」


 公爵令嬢の声に礼を取ったまま控えていた使用人達がそろそろと顔を上げる。が、瞬時に全員が目を見開き、時を止めた。


 まばたき、という言葉が消えた瞬間である。


 「王都は久し振りで慣れない事も多いの。これから色々と助けて下さいね?」


 広間に響く声は天使の歌声か、はたまた妖精が紡ぐ竪琴の音色か。柔らかな笑みはまるで聖教会の天井画に描かれた女神の微笑。美しいとは聞いていた。まさかこれ程とは……。


 静止した使用人達を見つめるセルヴィは本日幾度目かのため息を溢す。


 ——嗚呼(ああ)御愁傷様(可哀想に)


 セルヴィは胸の中で十字を幾重にも切るのだった。





セルヴィがだんだん吉◯新喜劇の芸人さんに見えてきました。

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