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E-005 王太子エクセルシウォルの来歴 4

※初心者故、気になったタイミングでこまめに加筆修正を行います。何卒ご了承下さいませ。

※更新頻度は緩やかです。




 国王ノヴァロムがその報せを受けたのは婚約解消の一月後、晩秋に差し掛かった頃であった。王子の元婚約者が病に伏しているというのだ。王宮より侯爵に病状を問うてもその回答はどうにも要領を得ない。再度、送った使者が侯爵からの返事を携えて戻って来たのは昼下がりのことだった。


 「令嬢の容体はどうなのだ?」


 国王ノヴァロムは問うたが、使者は微妙な面持ちのまま国王の傍に立つ侍従長のアイゼナッハに視線を向けた。


 「生命に障りがある病とは仰っておられませんでした。侯爵よりこれを——」


 取り出された書簡をアイゼナッハが受け取りその内容に目を通していく。途中、ぴくりと眉間に皺が寄った。


 「——陛下」


 差し出された書簡を前にノヴァロムは深い溜息を落とした。確認せずともわかる。優秀な侍従長は余程のことがない限りその表情を崩さない。王はゆっくりと侯爵からの手紙を読み進め、やはり同じ箇所で眉根を寄せた。最後まで読み終えると右手で摘むように眉間を押さえた。


 「——残念なことだ」


 その意を察して侍従長は深く頭を下げた。


 ——可哀想なことをした。侯爵令嬢の心は壊れてしまったのだ。良かれと動いた婚約解消は逆に彼女の心を砕いてしまった。まだ年若い少女には理解が及ばなかったのだろう。事が落ち着けば今一度、縁も結ばれたはずだったが——二度とそれは叶うまい。


 「エクセルシウォルに伝えよ」


 「宜しいので? 今少し様子をみても……」


 戸惑うアイゼナッハには、息子は未だ幼い王子と映っているのだろうか。しかしその目測は外れている。


 「時を置いたとて直ぐに病状が好転する訳ではあるまい。ならば尚更早く伝えてやれ。他にも問題は山積しておる故な」


 

***



 その報をエクセルシウォルは侍従長から聞いた。


 「——そうか、わかった」


 思ったよりも薄い反応にアイゼナッハはつい疑問を口にする。


 「わかった、とはなにがで御座いましょうか」


 王子の私室は実益に適った部屋である。窓際に置かれた書案(つくえ)の上には今し方まで履修していた帝王学の書籍が積まれている。その一冊を手に取りながら王子は答えた。


 「事情はわかった、という意味だが」


 淡白な返答はとても十二歳とは思えない冷えたものだ。侍従長は己の質問が空転しているのを感じた。厚みのある本の表紙を撫でながら、エクセルシウォルは窓の外に目を向ける。


 「——私には人の感情というものが良く理解できない」


 突然の告白にアイゼナッハは驚いて王子を見詰める。


 「侯爵令嬢の姿勢に共感していた。共に臣民を導く良き伴侶となり得る人だと。同じ価値観を共有できる相手に恵まれたと思っていた。この度の他国の謀略を読み解くことが出来なかったのは私の落ち度だ。彼女には辛い思いをさせてしまった。守りきれなかったのは私に力がなかったからだ」


 「左様なことは……」


 「それでも。この苦難を乗り越えた先で、国の為に力を合わせる事が私達の責務なのだと——彼女も同じように思っているからこそ耐えているのだと……そう思っていた」


 エクセルシウォルの髪が窓辺に差し込む夕日に照らされ赤く燃えて煌めいた。朱に染まりまるで炎を纏ったような双眸がアイゼナッハを見据えた。


 「私が甘かった。私の隣に立つ人は、何よりも心が強く在らねばならない」


 未だ成長の過渡期である王子の背丈は侍従長の胸元までしかない。しかし今、目の前に立つエクセルシウォルの存在が途轍もなく大きく見えて侍従長は目を(すが)めた。


 「そして私は更に——強くあらねばならぬ」


 決意を宿すエクセルシウォルを今一度見つめ、アイゼナッハはその場で深く——深く頭を下げた。



***



 国王の名の下、貴族諸侯が召集され北方諸国への対応について議論された。直ちに王国北部の辺境へ諸侯から派遣された各騎士団が集結していった。


 「パルクトゥード王国が北方諸国からの襲来に備え、動き出した」


 この報は瞬く間に周辺諸国に広がった。王国側は意図して報を広めたのだがこれが功を奏した。北方諸国は()()作戦でパルクトゥードを攻め、その後隣国へと手を広げるつもりだったがその目論見が外れたのだ。待ち受けられては分が悪い。結局、春を過ぎても戦端が開かれる事はなかった。


 斯して一応の危機は去った。「当たり前の平和などない」この騒動で臣民達も肝が冷えたのだろう。国全体が本来の落ち着きを取り戻したのは、エクセルシウォルの婚約解消から四年が経過した頃だった。


 エクセルシウォルは十六歳となり第一王位継承権を得た。パルクトゥード王国王太子エクセルシウォルの誕生である。


 この時点でも次代の国王となるエクセルシウォルの伴侶候補が定まる事はなかった。一つは王太子本人がこの件に関して頑なに固辞したのが大きな要因であったが、四年前の婚約解消に纏わる一連の騒動が、我が子を推挙するのに二の足を踏む原因となったのもやむを得ない事象であった。





エクセルシウォル……恐ろしい子(笑)

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