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E-003 王太子エクセルシウォルの来歴 2

※初心者故、気になったタイミングでこまめに加筆修正を行います。何卒ご了承下さいませ。

※更新頻度は緩やかです。


 


 パルクトゥード王国のやや北東部に位置する王都ガレイニュスは、二百年前まで難攻不落の城塞都市であった。大陸を東西に横断するザルドヴァッツ山脈に分断された北部と南部が戦火を交えた歴史は数えるほどしかない。山脈南部にはトゥーヌ川とモルド川に挟まれた肥沃な土地が広がっている。大陸南部の七ヶ国がその支配を巡り群雄割拠した戦乱は実に五百年余り続いた。


 この時代の物語は別の機会に語るとして——長きに亘った争乱も七ヶ国が分割統治することで終結の合意に至った。それから約百年余りを経て共に平和を享受した七ヶ国は不可侵条約を締結する。


 城塞都市ガレイニュスはその役目を終え、新たに王都ガレイニュスとして建設された。機を同じくしてパルクトゥード王城の建設も進められた。


 首都中央の高台に鎮座するパルクトゥード王城は、白銀を帯びた巨壁に囲まれる堅牢な造りで、別名キャスメルディウス・アルドゥース(白鷺城)と呼ばれた。左右対称に配置された尖塔は高く空を仰ぎ、天界の神鳥が両翼を広げる形を模した城は、王家の威信と祈りを込めた"象徴"として揺るぎない光を宿している。


 その城内、帯剣した近衛騎士が等間隔に並ぶ回廊をエクセルシウォルが向かっていたのは王座の間である。大理石の床に規則正しい王子の足音が響いた。父王ノヴァロムとの謁見は想像よりも早く叶った。荘厳な造りの大扉を近衛騎士達が仰々しく開く。


 室内中央に敷かれた深紅の織絨毯は真っ直ぐに王座へと続く。数段高い玉座に鎮座する国王ノヴァロムの眼下で足を止めると、エクセルシウォルは一礼し拝謁の言葉を述べた。


 「パルクトゥードの至宝、国王陛下の御尊顔を拝し恐悦至極に存じます」


 「ああ良い、堅苦しい口上は無用だ。本題を述べよ」


 過密な予定を調整し場を設けたのだろう。"要件のみ伝えよ"と言外に促す声に、エクセルシウォルは訥々(とつとつ)と進言した。


 「私達の婚約を白紙に戻して頂きたいのです」


 パルクトゥード王国国王ノヴァロムは少なからずも驚いた。彼らを取り巻く環境に()()()()が起こっているのは承知していたが、それ以前に息子と婚約者の関係は良好だと思っていたからだ。


 「——それはお前の意志か?」

 

 「はい、陛下」


 賢王はしばし眼前の息子を見つめる。


 「パルクトゥード王国の奇跡」と世に謳われる我が子も、やはり年相応な答えに帰着したらしい。本人は悩んだつもりなのだろうが、あまりにも短絡的な提案だ。流言飛語に振り回されれば足元を掬われる。誹謗中傷などこれから先幾度となく繰り返されるのだ。権力者として生きる限り、避けては通れない。流石に齢十ニの子には荷が重過ぎたか——


 「婚約解消となれば双方に傷が付くぞ?」


 王家の血を引く者に甘えは許されない。一度敗北を認めた統治者を臣下や民がどう見るか——若輩な後継者の行く末に一点の染みすら残すのは得策ではない。


 「エクセルシウォルよ。早計な判断は身を滅ぼす。更に熟考し——」


 「陛下、この国はあまりにも平和に慣れ過ぎてしまったのです」


 最高権力者である国王の言葉に不敬にも重ねられた声は鋭く揺らぎない。


 「なにを——」


 「その昔、我が国が戦乱の渦中にあったという事実は最早(もはや)遠い御伽噺(おとぎばなし)と成り果てました。無論、現在周辺各国との関係に大きな問題が生じている訳ではありません。ですが陛下。貴族も、国民も、そして我々王族でさえも、今では本当の脅威を知る者は居ない」


 王子は、その若さでは持ち得ない程の苛烈な面立ちで国王を見つめる。


 「今回の事象は取るに足りない”小さな(ひび)”のようなものです。今しばらく時が経てば或いは落ち着くかもしれません。ですが問題はそこでは無いのです。不敬を承知で申し上げるならば……王家の威信は今、盤石ではない」


 そこまで発したエクセルシウォルは、胸に当てていた右手に力が入っていた事に気付いた。意識して小さく息を吐き身体の力を抜く。


 「常に戦火の只中(ただなか)であれば彼等を牽引するのに然程の労力は要しません。その場合、敵は国外に在るのですから」


 そう、意識を向けるべきは外なのだ。排すべき障害を見誤ってはならない。足下に転がる無数の小石を一つずつ拾って投げ捨ててもきりがない。進むべき道の地中深くに埋まっていた巨石が雨風に晒されその片鱗を現した時、大きく(つまづ)くのは自分達なのだ。


 「半年前より北方の動きが何やらきな臭くなってきております。未だ確証を得た情報は掴めておりませんが……杞憂であることを願うばかりです。しかし念頭に置くべき事案かと。冬を迎えるこの時期に、北方諸国が大陸に連なるザルドヴァッツ山脈を越えるのは容易では無いでしょう。ですが春を迎え、万が一にも戦端が開かれる可能性を鑑みるならば——今この時期、国内に憂いを養っている場合ではありません」


 国王ノヴァロムは驚きを持って愛息を見る。僅か十二才の少年が見据える世界の広さを。己の視野に並び立つどころか凌駕をもする()()をなんと呼べば良いのか。


 エクセルシウォルが一番危惧しているのは国民達の平和に甘んじた怠惰と享楽である。そしてこの二つは政治腐敗だけを意味するものではない。


 「わずか十一歳の令嬢に対してあれほど悪し様に中傷する風潮は正さねばなりません。本来ならば唾棄すべき姿勢にも関わらず、それに興じたのは何も私達と同世代の者ばかりではない。貴族の誇りを諭すべき世代までもが加担して虚説を繰り広げた様は実に醜悪であり断じて許されるものではありません。意識を向けるべきは外なのです。太平の世に慣れ過ぎた我々は今一度、目を覚まさなければなりません」


 黙して自分に注がれる父王の視線に挑むように、エクセルシウォルは再度、強く進言する。


 「我らの婚約を白紙に戻して下さい。現状の危機を脱した折には改めて(えにし)を結びたく存じます」


 エクセルシウォルの瞳に躊躇いの色はなかった。寧ろ強い決意が宿る両目にノヴァロムは気圧された。


 この覇気はなんとしたことか。


 僅か十二歳の愛息の言葉に澱みはない。既に為政者の風格を身に纏い現王を見つめている。視線を交わし合うこと数秒、その眼光の鋭さにノヴァロムは堪らず目を逸らした。


 「——お前の望むように取り計らおう」


 「ありがとうございます。これに伴って新たな憶測が飛び交う可能性も否定できぬ故、是非とも陛下の御力をお貸し頂きたく存じます。私に出来得る限りの手は尽くすつもりでおりますが、何如せん若輩の身(ゆえ)、力及ばぬ事も多く——」


 「ああ良い、皆まで言うな。わかっておる」


 国王の言質を取ったエクセルシウォルは深く(こうべ)を垂れると、颯爽と御座を背に去った。


 ノヴァロムは傍らに控えていた侍従長のアイゼナッハを認めると嘆息混じりに独り()ちた。


 「——末恐ろしいことよの」


 「まことに」



***



 斯くして幼き王子と侯爵令嬢の婚約は一旦白紙に戻された。また、この報に際し国王ノヴァロム直々の署名にて厳命なる布告も追加された。


 「まだ幼き侯爵令嬢に於いては一遍の瑕疵も無し。こと今回の公示内容に憶測を持って吹聴する事は断じて許容せず」


 敢えてエクセルシウォルへの言明が伏せられたのも侯爵令嬢を慮ってのことであった。(やや)もすれば原因は王子側にあるのではないか、と捉えられてもおかしくないのに、である。憐れな少女()()罪はない、という意図を強調したその報に、今まで水面下で中傷していた者たちは慌てて口を閉ざした。国王の厳然たる威光の前に萎縮したのだ。


 これを持って事態は終息に向かうと思われた。


 ところが、当事者である侯爵令嬢がこの決定の直後に気を病んでしまったのである。


 実は薄氷の上に立つような状況下で、幼い少女がどんなに辛くても耐え抜こうとした本当の理由はエクセルシウォルへの恋慕であったのだ。


 感情が稀薄な貴公子と可憐な令嬢が互いに抱く好意には大きな相違があった。エクセルシウォルにとっては異性を超えた信頼であり、少女にとっては憧れから昇華した恋だった。




※国王からしてみれば「さざなみ」程度の認識だった。ここ試験に出るのでアンダーラインです(笑)

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