P-023 王城パルクトゥード震撼
※初心者故、気になったタイミングでこまめに加筆や修正を行います。何卒ご了承下さいませ。
※更新頻度は緩やかです。
或る庭師達
「なあ——お前、気付いてる? 近衛隊の様子がおかしいの」
「え? そうか?」
「なんでもさ、昨日——“世にも恐ろしいもの”を見たらしいんだよ」
「え……なにそれ」
「俺が昔世話になった伯爵家の御子息が近衛に一人いらっしゃるんだけどさ。昨日たまたまお会いしたら顔色が悪くてな? 何かあったのかって尋ねたらこっそり教えてくれたんだ」
「その……恐ろしいもの、を見たって?」
「そうなんだよ! でもそれ以上は絶対教えてくれないんだ。“知らない方がお前の身の為だ”なんて言って震えてんだぜ? 仮にも天下に名だたる近衛騎士様が、だぞ? なぁなぁ一体何を見たんだと思う?」
「あの人達が震えるなんて——よっぽどのもんなんじゃねえの?」
「俺達が話してる隣で違う騎士様がさ、その時の事を思い出したのか……“あの高笑いが頭から離れない”って涙浮かべて呟いたんだよな。そしたらその言葉を聞いた周りの騎士様方が一斉に虚な顔して頷き出しちまってさ! 首振り人形に囲まれっちまった。な? 只事じゃないだろ?」
「いや、その絵面の方がある意味怖いわ……じゃなくて! 騎士様が大勢慄く高笑いってなんなんだよ! 止めろよお前……俺がそういう話が苦手って知ってるだろ!」
「悪魔が出たのか、はたまた幽霊か……どんなに聞いても絶対教えてくれねえんだ。どうにもこうにも気になって気になって……」
「おいおい——触らぬ神に祟りなし、だってば。俺達みたいな下級の者が、お偉いさん達の語りたがらない秘密なんかに手を出したのがばれたらあっという間にあの世逝きだぞ! こんな風に……すぱっと! 頭と胴が真っ二つになっちまう。こういうのは聞かなかった事にするのが一番だって」
「す、すぱっと……? そ、そうだな! 確かにそうだ! 俺達は何も知らない。うん、それがいい!」
「そうだよ、ほら仕事だ仕事!」
「——だけどよ、やっぱり気にならねえ?」
「ならねえよ!(——後で騎士隊屯所の厨房にでも話聞きにいってみっか)」
***
或る侍女達
「レクレディ公爵御令嬢のお美しさと言ったら……柔らかく光る亜麻色の御髪は艶やかで……お肌は雪のように白く頬はほんのり薄桃色……透き通った秘色の瞳が綺羅ゝと輝いていてその御顔立ち足るや——まるで春の女神様か妖精が現れたのかと思いましたわ。所作は流れる様に優雅で気品が溢れていながらも繊細、身に纏われた御衣装なんて、幾重にも重ねた薄藤の花弁を模したかの如く品の良い意匠で……ねえ、あの御衣装は何処で御仕立てになられたのかしら」
「さぞ名のある仕立屋でお造りになったに違いないわ。どうにかして調べる事は出来ないかしら。それにしても……あの時のレーベン補佐官のお顔、貴女もご覧になった? いつも何に対しても誰に対しても作り笑いめいたお顔をお見せになるというのに……公女様をご覧になった瞬間、眼を見張っていらっしゃったわよね? 直ぐにいつものお顔にお戻しになったけれど」
「レーベン補佐官は考えていらっしゃる事を隠すのがとてもお上手ですものね」
「普通の殿方なら、あんなにお美しい御令嬢を前に平静を保つ事などできないでしょう。それにしても——王太子殿下のあの御対応は……」
「驚きましたわよね」
「エドヴァルド侯爵令嬢の時よりもっと……ねぇ?」
「お厳しかったですわよね? 本当に……私、心の臓が止まるかと思いましたもの」
「私なんか茶器を持つ手が震えてしまって……もう少しで粗相をするところでしたわ」
「でも、レクレディ嬢の膝折礼は見事でしたわ」
「それですわ! あんなに長い時間……しかも王太子殿下のあの氷のような視線の前で一度も御身体が揺らぎませんでしたでしょう? あんなに美しい膝折礼は見た事がありません」
「私だったら倒れてしまいそう」
「私も……」
「やっとお声が掛かった後のレクレディ嬢がお見せになった微笑み、貴女もご覧になって?」
「ええ、ええ! 私、余りの美しさに息をするのも忘れてしまいました!」
「それなのに——」
「あんなに素敵でしたのに——」
「——仮面だなんて」
「——」
「——」
「ねぇ、私——不遜な物言いをしても宜しくて?」
「——あら、私も良いかしら」
「——」
「——」
「あの仰りようはあんまりですわよね!」
「あれは酷過ぎますわ!」
「——」
「——」
「——これは私達だけの秘密という事で」
「——ええ、ここだけの話という事で」
***
或る事務官達
「——随分と遅かったな。また殿下に門前払いされたのか?」
「——いや、そうじゃなくて」
「じゃあやはり修正か……参ったな。その案件は本日中に決裁して頂かなくてはならないと言うのに——これでは工期が伸びてしまう」
「——決裁は下りた」
「え!? 本当か? 修正も無しに?」
「——修正箇所は、あった」
「おい、どういう意味だ? 不備があるのに決裁が下りる筈ないだろう。殿下が妥協なんてする訳がないし」
「——教えて下さったんだ」
「——誰が?」
「殿下が」
「何を?」
「計算式に数ヶ所誤りが見つかって——その修正方法を目の前で懇切丁寧に御助言下さり、その場で訂正したら御承認頂けたんだ」
「殿下が直接?」
「それから“常日頃から励んでくれて感謝している”と我々を労って下さった」
「……」
「窓の外を見るな。雪は降ってない」
「労ったって……殿下と話せたのか?」
「話さなきゃ労えないだろう?」
「……」
「だから額に手を当てるな、熱はない——いや、もしかしたら熱でもあるのか? どうなんだ?」
「やっぱりお前、大丈夫か? 俺がもう一度レーベン補佐官に申請して——」
「——そうか……そうだな! 行ってお前がその目で確かめてみてくれ。あれは幻覚だったんだ。そうに違いない」
「な、何をだ?」
「殿下が執務室に御自分の御衣装を山ほど運び込んで、今からどれをお召しになればいいのかレーベン補佐官と思案していらっしゃった……のが現実なのか幻覚なのか、お前が確かめて来てくれ!」
「——うぇ?」
***
或る御者達
「いや〜王太子殿下も只の男だったんだな」
「——俺は未だに信じられない」
「そりゃ、あんだけの美女相手ならどんな男だってころりと行っちまうだろうさ」
「——冷徹な微笑は完璧で常に威厳を保った男の中の男のような憧れのあの方が……」
「ほんっと! お前の王太子殿下贔屓にゃ舌を巻くよ」
「まるで何処かの優男みたいに御令嬢を前に、でれでれした顔で引っ付いて」
「おい、不敬だぞ。その口閉じろ。大声出すな」
「馬車までお送りするのは礼儀に適っているから良しとしても、手の甲に口付けなんて……まだ御婚約された訳でもないのに」
「妃殿下候補なんだから別に良いだろうに。お前だって飲み屋の可愛い給仕にいつも色目使ってんじゃねえか」
「殿下は殿下! 俺は俺!」
「他所は他所、うちはうち、みたいな言い方すんなよ。お前は母ちゃんか」
「あんな軟弱な御姿は……いつも硬派で御立派な殿下には似合わない!」
「いや、似合うとか似合わないとか、なんで基準がお前なんだよ」
「とにかく! 俺は認めない!」
「——憧れも拗れると哀れだねぇ」
***
国王と侍従長
「城内が随分と騒がしいようだな」
「——そのようで」
「あれが何やら画策しとる様だの」
「お呼び致しますか?」
「良い、好きにさせておけ」
「——本日もレクレディ公爵令嬢が登城する由に御座います」
「——成程、公女と共闘する事にしたか」
「大丈夫でしょうか、その……」
「心配要らぬ。あの娘は強い」
「——は」
「アイゼナッハ、お主にも気苦労を掛けるの」
「——勿体無き御言葉にて」
「そろそろ妃が動き出すぞ?」
「やはりそうなりますか」
「膿を出すにはそれなりに材料が必要だろうて」
「——陛下もお人が悪う御座いますな」
「楽しみじゃの、たまには高みの見物も悪くない」
「御覧になるだけで宜しいのですか?」
「良いのよ、お前も共に見守っておれ」
「——御意」
侍女達の柔らかな言葉の裏には辛辣な王太子批判(女性の敵認定)が隠れておりますな(笑)




