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C-021 公爵令嬢クラリオラの報告

※初心者故、気になったタイミングでこまめに加筆や修正を行います。何卒ご了承下さいませ。

※更新頻度は緩やかです。


▶︎作品の都合上、「A-019 補佐官アミクスの困惑」と本エピソード他2作を入れ替えました。申し訳ありません。



 



 レクレディ公爵家の一人娘は、所謂一般的な貴族令嬢であれば当たり前に行う茶会や社交等の交流には一切参加していない。これには彼女の幼少期に起こったある事件が関係しているのだが詳細は外部に伏せられていた。


 そういった経緯の所為なのかどうかはさて置き、クラリオラは実に淑女らしからぬ思考の持ち主に育った。現在は豊富な知識に基づいた判断力と分析能力を遺憾無く発揮し、持ち前の実行力を武器に父親不在の公爵領にて領地運営の一端を担っている。


 今回、クラリオラが王太子妃候補名簿に上がった折、この場に居ない長兄も含めて公爵家の男性三人は共に難色を示した。特に父親のアウルスは主命にて打診されるも国王に対し孤軍奮闘して辞退を申し出たが徒労に終わった。


 どうしてここまで家族が反対するのか——それは愛するクラリオラが抱く「王太子妃像」と普通の貴族令嬢が抱く「王太子妃像」に明らかなる隔たりがあるからに他ならない。


 クラリオラと同年代の貴族令嬢達は、ドレスや宝飾品に興味を持ち、年頃の貴族令息に仄かな憧れを抱きながら華やかな社交の場で話題に花を咲かせる。憧れの王太子の隣に並び立つ己の姿を夢想し、高貴な石灰色の瞳に少しでも多く映ろうと自分を磨き、装う努力を怠らない。


 ——しかし、そんなごく当たり前な生活などクラリオラにとっては意味を為さないのだ。


 クラリオラは己を()()()()


 彼女の行動原理の根底には「パルクトゥード王国や国民の為ならば、自身を犠牲にする事も厭わない」という苛烈な意思を孕んでいる。


 王太子妃という立場に於いては正に理想的な人物と言えるかもしれない。だが家族にとって自己犠牲すらも選択肢に持って生きるクラリオラが王太子妃の座に着くという未来など何よりも耐え難い事なのだ。




 ***




 王都レクレディ公爵邸宅に到着したクラリオラ達を迎えた執事のプロヴィタスは、家人の帰宅を告げた。


「お帰りなさいませ。クラリオラお嬢様、本日は旦那様とルキアス様がお戻りになっております」


 王城に詰めていた父アウルスとは二ヶ月ぶり、王国騎士団の団長を務める次兄ルキアスは兎角多忙を極めておりクラリオラとは一年振りの再開となる。


 邸内一階の家族が集う談話室の扉を叩くより早く中から次兄ルキアスが飛び出してきた。余りの勢いにのけ反るクラリオラの両脇を持ち上げ、子供をあやすようにくるくる回るとそのまま降ろして抱擁した。


「嗚呼ラリー! やっと会えた! 我が妹は益々美しい淑女になったな。この兄にもっと良く顔を見せておくれ」


 愛しい妹の顔を覗き込み、感無量を超えて泣き出しそうな顔でルキアスはぎゅうぎゅうと抱きしめる力を強める。


「嫌だわ、お兄様ったら相変わらず贔屓目が過ぎるんだから! その前に痛いです!」


 鍛え上げた体格で締め上げられ、苦しさにクラリオラが怒った顔で睨みつけると「だってやっと会えたから」と言い訳しつつ騎士団長はその腕を緩めた。


 クラリオラの背後に控えるプロヴィタスとセルヴィは達観した瞳で次兄を見つめている。呆れている、と言った方が正しいか。


 次兄の背後からごほん、と大きな咳払いが響いて父アウルスが自分の番を待ち続けている。クラリオラは破顔して次兄の腕を掻い潜ると父親に抱きついた。


「久しいなラリー。健勝そうで何よりだ」


「お父様もお元気そうで嬉しいわ」


 柔らかな笑みを讃える父親の顔を見てクラリオラは笑顔を消した。


「お父様、お疲れではありませんか? 目の下に隈が出来ているわ。お休みは取れていらっしゃるの?」


「ああ、心配無用だ。お前に会えたら疲れなど吹き飛ぶよ」


 そう答えながらもアウルスの表情は冴えない。


 執事と侍女が茶器の準備を始めたのを見て、アウルスとルキアスは視線を交わした。何かを示し合わせた様な態度にクラリオラは首を傾げる。


 長椅子に腰掛けるよう促され、クラリオラが座ると向かいに父と兄も腰を下ろした。どちらともなく口を開いてはつぐみ、言葉を発しようとしては止める、を繰り返している。


 目の前に柔らかな紅茶の香りが漂い始め、意を決したアウルスがクラリオラに問いかけた。


「ところで——今日はどうだった? その、王太子殿下とは恙無く御対面が叶っただろうか」


 なるほど、王太子との対面の様子を気にしていたのか、とクラリオラは苦笑する。


「そ、そうそれだ! 何というかこう……変わった事は無かったか?」


 挙動不審な二人にクラリオラは素直に聞き返した。


「変わった事とは?」


 娘の様子が普段と変わらない事に違和感を感じながらもアウルスは言葉を厳選しつつ説明する。あの氷の王太子とお会いして何もなかったはずがないのだ。先に対面したエドヴァルド侯爵令嬢はけんもほろろに扱われたと聞く。


「その、なんだ。エクセルシウォル殿下の輝かしい功績は広く知れ渡っているし……お前も殿下の噂などあれこれ聞き及んでいるだろう。今日は(さぞ)かし期待を込めて登城したのではないか? だが何分……殿下はだな、怖……じゃなくて固い……というか……そう! き、生真面目な御方なのだ! 特に初対面の御令嬢達などは想像と実際にお会いした殿下との差異に驚いたりするらしく——」


「そ、そうだぞラリー。多少強めの御言葉を頂戴しても気にする必要はないからな! 殿下はいつもああなのだ。余計な……ではなくて褒め言葉が苦手なんだよ。私も未だに必要最低限の御返事しか頂いた事がないんだ」


 しどろもどろな父親の話を補完するべくルキアスが割り込んだ。王国騎士団長として王太子と会話する時の緊張感をなんと表せば良いのか。あの美しい完璧な顔で駄目出しされる苦痛は拷問に近い。我が愛しの妹があの様な目に合ったかと思うと身を切られるように辛い、というか切られた方がまだましだ。


 父兄の会話を聞いてクラリオラは軽く眉根を寄せた。


 セルヴィも()()()()で眉間に深い縦皺を数本作った。


 女性達の表情が自分達の想像を肯定したと感じた父兄は焦った。クラリオラの心の傷を癒さねばならない!


「どうした! やはり何か酷い態度を取られて……」


「ああラリー! 可哀想に! なにも心配する事はない。兎に角、この兄に話してみなさい」


 矢継ぎ早に宥めようと口を開く父兄に“解せぬ”風にクラリオラが問いかける。


「お父様もお兄様も何を仰っているの?」


 途端、美しい少女は胸の前で祈るように両手を組み、うっとりした顔で瞼を閉じた。


「王太子殿下はとても情熱的な御方でしたわ」


「——は?」


(情熱的? 誰が?)


 アウルスとルキアスは目を合わせ、互いが間抜けな顔をしているのを認めた。クラリオラはゆっくり瞼を開くとふわりと微笑んで語り続ける。


「それにとても笑上戸なのですね。年下の令嬢相手に興が乗ってしまわれたのか、少し揶揄(からか)われましたの。私も大人気なく、つい拗ねてしまったのですが——それが幼く見えたのかしら? とてもお笑いになって……」


「わらい——」


「——じょうご?」


 理解が追いつかない間抜けな二人が侍女セルヴィに視線を向けた。


「——なんと言いますか——まあ、(おおむ)ねそんな感じでした」


 侍女の物言いには温度がない。


 クラリオラ頬を染め、うっとりと思い出すように説明を続けた。


「その後、私に“愛を乞うても良いか?”なんて熱い眼差しで語りかけて下さいましたの——」


 父兄は顎を外して目を見合わせた後、侍女に問う。


「——セルヴィ。ラリーは一体、何処(どこ)誰方(どなた)の話をしているのだ?」


「——王太子殿下で御座います」


 父兄は理解が及ばない。


「御前を辞する際も馬車までお送り頂いて……」


 クラリオラの秘色は煌めき潤んでいる。嘘を語っているようには見えない。いや、まさか、そんな馬鹿な話があるものか!


「——セルヴィ、ラリーは一体何処の——」


「——王太子殿下で御座います」


 唖然とした父親と兄に気付いているのかいないのか。クラリオラは尚も語る。


「“明日も必ず逢いたい”と。私の手を、こう——優しくお取りになって……指先に口付けを落としてくださいましたわ。王太子殿下の睫毛は髪と同じで柔らかな銀色で……薄くて艶やかな口唇は熱を持っていらしたの。私、あれからずっと鼓動が早くてどうにかなってしまいそう」


「くちっ……口付けっ!? どういう流れになったらそんな事件が起こるんだ!?」


 完全に許容範囲を超えた内容にルキアスは混乱している。


 未だ娘が語る人物が王太子だと認めたくないアウルスが侍女に三度目の確認をすべく視線を投げた。


「セルヴィ、ラリーは——」


「——王太子殿下で御座います」


 うんざりした顔で返答するセルヴィは既にこのやり取りに飽いているらしい。声には抑揚もなく既に棒読みだ。


「お父様、お兄様」


 呼ばれてはた、と我に返った父兄はクラリオラの表情に顔が強張った。先程までの柔らかな乙女の顔から公爵令嬢の顔になったクラリオラが其処に居たからだ。







「——王太子殿下は私に御心を奪われたと仰いました。ですから——そのおつもりでいらっしゃって下さいませ」








爺や(プロヴィタス)の主人を見て一句。


坊っちゃま……奥に虫歯が御座います


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