A-020 公爵閣下アウルスの憂慮
※初心者故、気になったタイミングでこまめに加筆や修正を行います。何卒ご了承下さいませ。
※更新頻度は緩やかです。
▶︎作品の都合上、「A-019 補佐官アミクスの困惑」と本エピソード他2作を入れ替えました。申し訳ありません。
現レクレディ公爵であるクラリオラの父アウルスは王太子妃選定協議会の一員である。王宮にて幾度となく開催されている協議の為に首都邸宅と王宮とを往復する日々を送っていた。
チェスター王籍との縁を繋ぐべく第二王女を我が国に招き入れたい、という王室の目的も熟知していた。エクセルシウォルもまた婚姻については国益重視の姿勢を崩さない。王家の強い意向を背景に議会も承認しチェスター王国に婚姻を打診した。だがチェスター側の返答は想定外のものだった。
「第二王女は現在病床にあり先行きが不透明、貴国の希望に添えぬ——が、代わりに我が国の才媛であるベルクトゥス伯爵令嬢を推挙したい」
パルクトゥード側の選定協議会は、実は順風満帆に事が運ぶと楽観視していた。“パルクトゥードの軌跡”と世に名高い我が国の至宝に請われ、まさか断られるなど思ってもいなかったからだ。しかも“第二王女の代わりに第三王女を”となるのならまだしも何故伯爵令嬢を推してくるのか理由がわからない。
チェスターからの別案を前に協議は紛糾した。
“チェスターの才媛と名高いベルクトゥス伯爵令嬢ならば問題ない”と素直に受け入れる者。
“そもそもチェスター王家に申し込んだにも関わらず代理を立てるのは非礼だ”と憤る者。
“チェスターがダメならチェルトゥス王国ならどうだ?”と別国打診を主張する者。
“国内の高位令嬢で良いではないか”と自身の勢力図を頭に描き画策する者。
なかなか結論が出ない議会の中、エクセルシウォルが口を開いた。
「消去法で行くならベルクトゥス伯爵令嬢を我が妃に迎えるのが一番ではないのか?」
石灰色の瞳は居並ぶ議会員を見据え言葉を継ぐ。
「我が国はチェスターの技術力を欲している。此度の申請はそれに尽きるのだ。折角の糸口をわざわざ手放す理由はない」
これに王権派のザルツ侯爵が反論した。
「しかし殿下、ベルクトゥス伯爵と言えばチェスター王国一の聖協会派でございます。何か裏があるのでは?」
「ここは慎重になるべきです。一旦この話は白紙に戻して——」
他の王権派がザルツ侯爵に追従すると聖協会派に携わる協議員が割り込んだ。
「その仰りようは余りにも乱暴に過ぎませんか? 聖協会派自体がまるで悪だとでも言わんばかりではないか!」
論戦は平行線を辿る様相になりつつあった。静かに様子を見守っていた国王ノヴァロムがアウルスに目を向ける。
「レクレディ公爵、卿の意見はどうか?」
——ここで私に水を向けるのか。
パルクトゥード国王ノヴァロムとアウルスは旧知の仲であった。ノヴァロムの曾祖母がレクレディ公爵家に降嫁し所謂遠縁関係でもある二人は、幼少期から交流が深い。
この様に議会や論戦が膠着状況になると“お前がどうにか纏め上げろ”と圧力を掛けてくるのだから堪らない。議会審議に独断で王が決定を下せば、それに同意する派閥との癒着が疑われ面倒だと言うのは重々承知してはいるが——。
(まったく……ノヴァめ、いつも私に尻拭いさせおって。この貸しは大きいぞ?)
右拳を口元に当てごほん、と咳払いをしたアウルスは国王を睨め付けてみたが当の本人は飄々としている。
「チェスター側の意向を受けるにせよ断るにせよ、即断は良くありません。何より彼方側の意図が読めない」
アウルスの言に王太子が問いかける。
「レクレディ公爵、では何か策でもあるのか?」
「選択肢を増やすのです。先方の推挙に加えて国内でも候補者を立てましょう。あくまでも我が方はチェスター王籍との縁組を望んでいた、という体を取ります。“断る”のではなく“その選択も含め熟考し決定する”と伝えるのです。元よりチェスター側も此方の申し出を受理出来なかった負い目がありますから我が国の要求を飲まざるを得ないでしょう」
アウルスの提案を聞いた刹那、王太子の表情に翳りが見えた——様に感じたが気のせいだろうか。やりきれぬ過去が自分の脳裏を過ったのだと気付いてアウルスは自嘲する。
つまり婚約解消を経験した王子時代の幼い姿が目の前のエクセルシウォルに重なったのだ。今、自分を見つめる銀髪の貴公子は、押しも押されぬ立派な王太子に成長したというのに。
「——あくまで同立の立場で選考する、と伝えるのです。仮にチェスターに何らかの思惑があるとするならば動きが見えるやもしれません。無論、我が国にもベルクトゥス伯爵令嬢と遜色ない令嬢は数多おりますれば。万が一、チェスターに二心が見つかり——結果、縁を結べずとも残った候補者より選定すれば何ら問題はないのでは?」
アウルスの提案を受け、議員達も思案している様子だ。
本来ならば既に王太子妃が決定していた筈なのだ。現時点でその高貴な座に選ばれた令嬢は、今後過密に組まれる教育課程を早急に熟さなければならない。うら若き令嬢が受けるだろう過酷さを思うとアウルスの胸が痛んだ。
議場はアウルスの意見を熟考しているのか先程の喧騒とは打って変わり静かになっている。
暫く様子を見ていた国王が協議員を見据えて意を問えば“妥協案としては及第点”だと皆一同に頷いた。
ノヴァロムは王太子に最終の確認を取った。
「エクセルシウォルよ、其方はレクレディ公爵の意見をどう思う」
「——御意に。ですが我が国がチェスターの技術力を手中に収めるには彼の国との連携は不可欠と存じます。私はベルクトゥス伯爵令嬢を第一候補と念頭に置き対応したい。これはこの場のみの認識として皆も周知しておいて欲しい」
エクセルシウォルの発言に対する各々の思惑は別として、満場一致でアウルスの提案は承認を得た。何とか着地点を見出した形となりアウルスの肩の力が抜ける。
「さて、レクレディ公爵。候補者の選定に辺って、余から卿に是非とも了承して欲しい議があるのだが——」
「——は」
すわ散会か、と緩んだ空気の中、国王ノヴァロムが発した要望は議場とアウルスの時を止めた。
「其方の娘——クラリオラ嬢を王太子妃候補に推挙せよ」
「——え? い、今な、な、なんと?」
突然の暴論。思考が追いつかないアウルスに向かって放たれた国王の非情なる言葉の杭は、彼の心臓に根元まで打ち込まれた。
「卿の娘を王太子妃候補として推挙せよ、と言ったのだ——これは主命だ」
アウルス心の声
(こんのクソ国王がああああ!)




