EC-015 王太子と公爵令嬢の合意 2
※初心者故、気になったタイミングでこまめに加筆や修正を行います。何卒ご了承下さいませ。
※更新頻度は緩やかです。
▶︎今回、少し短めです。
——ぱたり、と音ひとつ。
突然の告白にぽかっと口を開けたのは公爵令嬢。淑女たりえぬ表情を覆うはずの扇を取り落とす。
——がちゃがちゃっ、と和音ふたつ。
熱烈な告白の瞬間を目の当たりにした公女付侍女。注ぎかけた急須を茶碗にぶつけ受け皿が鳴った。あわや割る一歩手前。
——たっ、たたっ、と靴音みっつ。
もうこれで何度目か。吃驚もここまで続くとあの世が見える。王太子直属補佐官はよろめき蹈鞴を踏んだ。彼の鼓動は、立て続けの衝撃に一瞬鼓動を止めたらしい。
(この出来事も詳細に書かれた彼の回顧録は晩年大変な話題作となるのだが、それはまた別の話である)
クラリオラは瞳を溢れそうなほどに見開き唇がぱくぱくと無音の驚きを語っている。
(お嬢様! お声が出ておりません!)
先に冷静さを取り戻したセルヴィは主人の動転ぶりに警鐘を鳴らしたが、自身もまた心の声で叫んでいるのを失念している。
三者三様、混乱の渦に溺れている中。爆弾発言をした張本人はゆっくりと立ち上がった。
王太子は優雅な動きで公爵令嬢に歩み寄ると腰を屈めて耳元に囁く。
「レクレディ嬢、良ければ少し庭園を散策しないか?」
「は——はい、殿下」
慌てて侍女が椅子を引いた。エクセルシウォルは立ち上がった公女に軽く腕を差し出す。
彼女の細い指が左肘にそっと添えられるのを認めて王太子は小さくうなづいた。直視を避けてふわふわと視線を遊ばせる側仕え二人に動くな、と目線で命じると令嬢を連れて東屋を後にした。
近衛騎士達が離れて見守っている中、二人はゆっくりと歩く。美しく咲き乱れる可憐な花々の華やかな香りがクラリオラの乱れた心に余裕を与えた。
自分に歩調を合わせて進む王太子と視線が合う。
「突然、あのように口走ってしまい申し訳なかった。非礼な態度を取りながらそれを棚に上げ掌を返した申し出をするなど——呆れてしまっただろうか」
伺う面立ちがどこか芝居染みていような……王太子の石灰色に強い光は宿るものの、なんだろう。其処に在るべき浮ついた熱が感じられない。
(——もしかして)
クラリオラは思う。
(さっきから私を試しているのかしら)
「——呆れるも何も」
小さく首を傾け斜めに見上げれば、王太子は此方の出方を確認するように薄く目を細めた。
「あのように情熱的な御言葉を頂戴したのは初めてでしたので……流石に驚きましたが」
(これは本当。とても驚いたわ)
ちらり、と後方に視線を移すと王太子もそれに倣って目を向けた。遠くに控えている侍女達が此方を気にしながら揺らめいている。
(セルヴィったら。首が伸びているみたい)
「私より侍女の方がよっぽど驚いておりましたが」
思わずくすり、と笑った。
刹那、気紛れな春風が銀糸と亜麻色を巻き上げた。エクセルシウォルの額が露わになる。クラリオラは端正な面立ちに、その双眸の奥に隠れた彼の決意をやっと掴まえた。
「——間違っていない。私は貴女に恋焦がれる男だ」
そうだ。石灰色に灯るのは「意思」だ。
クラリオラは真剣な面立ちで熱烈な告白を重ねる王太子の本心に触れたい、と思った。
「殿下の御望みをお聞かせ下さいませ」
公爵令嬢はゆっくりと微笑む。
「お話は率直に——でございましょう?」
「やっぱり——貴女は聡い方だ」
生きろ! アミクス!




