EC-011 王太子と公爵令嬢の自明 4
※初心者故、気になったタイミングでこまめに加筆や修正を行います。何卒ご了承下さいませ。
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「そもそも——御指摘の数々、非常に理解に苦しみますわ。私は王太子妃候補なのです。それに相応しいと自負する長所を最大限に発揮しようとするのは当たり前。批判される謂れはありません」
主人が放った王太子を批難するような物言いにセルヴィはぴしり、と固まった。主人の言葉は更に続く。
「ですが殿下は端から私の見目や発言を否定する方向で御発言されていらっしゃいます。私は其処に、別の真意があるように思えて仕方がないのです」
これはお止めしなければならないのではないか。黙して耳を傾ける王太子の表情からは御心が図れない。
「お話の途中で誠に失礼ながら……お嬢様、その仰りようは余りにも不敬……」
「良い、続けよ」
王太子が促す言葉にクラリオラは静かに微笑む。
「殿下が仰るお言葉全てが破綻していらっしゃる。私達は選ばれに参っているのです。そして殿下は各々の候補者から利点を探し、最良の相手を選んで良好な関係を築かなければならない……ですが殿下は先程から好意の欠片もない御発言を繰り返されております。余りにも乱暴な展開ですが、こう考えたなら辻褄が合うのです。つまり、初めから私は選択肢に含まれていない」
秘色が石灰色を捉え、解を求めて小さく煌めく。
「殿下なりのお優しさなのでしょうか? 余計な期待を持たせないよう敢えてそのような態度を取っていらっしゃるのでしょう?」
エクセルシウォルは自身も纏っていた仮面を外すと、公女の問いに是を与えた。
「成程、貴女はなかなかに聡いようだ」
王太子の周囲から剣呑とした空気が消えた。補佐官と侍女は驚いて瞬きを繰り返す。お怒りになるかと思っていたのに。
「まあ、当たっておりましたか?」
童が謎解きの正解を得て喜ぶように、クラリオラは両の手を合わせて笑みを深める。
「それに肝も据わっている。これ以上、つまらぬ小細工は不要らしい」
表舞台に出たことがないと噂の公爵令嬢は、世間知らずで嫋やかな少女だと思い込んでいた。第一印象は正にそれ。だから数日前の侯爵令嬢と同じく、強い圧を掛けたのだ。期待ごと喪失し諦めてくれればそれで良し。余計な権力闘争の種など作るつもりはない。
だが、目の前の公女は自分の意図をあっさり看破し、意気込むでもなく阿るでもなくただ平然と対峙している。
ならば、最早駆け引きは不要、か。
「レクレディ嬢、貴女の言う通りだ。私は貴女を選ばない」
「はい、殿下」
やはり納得しているようだ。
「——やけに素直に受け入れるのだな。貴女も矛盾しているぞ? 選ばれに来たのだろう?」
「勿論、選ばれに参りました。でも選ばれなかった。それだけの事です」
事実を事実として受け入れる、という事か?
「それだけ、か。貴女はレクレディ公爵家が王家と縁戚となる有益性や、貴女が得るであろう王太子妃の——後々の王妃という地位、貴族令嬢最高位の権威と権力を、それだけ、と言うのか?」
「はい、殿下」
公爵令嬢の答えはやはり澱みない。その意味を図り兼ね眉根を寄せると、艶やかな唇は解を紡ぐ。
「権力や権威など、得た者の力量に見合わなければ宝の持ち腐れでございます。それを欲するのは自身に見返りを求めることの証でございましょう?」
ここで初めて公女は自ら視線を切った。少しの沈黙の後、ゆっくりと顔を上げる。再び視線を合わせた公女は己の思考を形と成すように続けた。
「——何処にいても。どんな立ち位置でも。自身の力量で行うべきことや行えることを粛々と為す。私は、その為に在るのです」
確固たる決意が宿る秘色の瞳に貫かれ、エクセルシウォルは妙な既視感に捉われた。
臣民の為に背負うべき責務と覚悟。それらを阻害するのが個の感情と言うのなら捨ててしまえばいい。そうやって己の奥底に蓋をして仕舞い込んだ筈の「感情」が揺さぶられる感覚。
久しぶりに感じる戸惑いに気を取られかけた王太子に、クラリオラは軽口を叩いた。
「とはいえ。もし仮に、私を王太子妃に選んで頂けるのであれば、その特権や権威は最大限に利用致しますわ」
「——それは何の為に?」
求めるように問う。求める? 何を?
「勿論——パルクトゥード王国に遍く生きる民等の”幸せ”、の為にでございます」
アミクスとセルヴィは、静かなる攻防戦の観客。




