80話:「英国紳士、現る」
大和が彼に対して抱いた第一印象は【英国紳士】というイメージだった。
様々な色が混じった仕立てのいいスーツに身を包み佇まいも紳士のそれだ。
特徴的な星の柄がまばらに付いたシルクハットを頭から取ると軽く一礼する。
口の端を吊り上げて微笑を浮かべてはいたものの目は笑っていない。
まるで政治家が商売敵に対して見せるような笑顔だった。
「初めまして、でいいのかな?」
確認するように彼が問いかけてくる。
大和も同じように口の端を吊り上げ
営業サラリーマン仕込みの作り笑いを浮かべながら返答する。
「話したことはあるから実質は二度目だけど、実際に会うのは初めてかもな」
おどけた態度で大和が肩を竦めると、彼がそうですねと作り笑いを崩さず答える。
ここは相手の出方を窺うのが定石だが大和は腹芸はあまり得意ではないため
正面切って問いかけることにした。
「それで一体何しに来たんだ、フィス?」
実際に会うのは初めてでも彼が纏う雰囲気が只者ではないと嫌でも感じてくる。
そして大和は当てずっぽうだったが心当たりのある名前を呼ぶことにした。
どうやらその推測は正しかったようで彼が目を細めながら聞き返してきた。
「よく僕がメフィストだってわかったね!」
「そんないかにも大物オーラ出しちゃってますって雰囲気出されたら
嫌でも気付くわ!」
大和の返答が可笑しかったのかここで初めてメフィストが声を出して笑った。
その笑いは先ほどのものとは違い親しい友人と談笑するときのような柔らかなもので
それと同時に少年のようなあどけなさが見え隠れする笑顔だった。
「やっぱり君は面白いね!」
「そんなことより俺の質問に答えてくれないか?」
メフィストがそうだったと言いながらここに来た目的を話そうとした時
いつの間にか跪いて恭順の意を示していたモゲラが二人の会話に割って入る。
「メフィスト様、発言してもよろしいでしょうか?」
「構わないよモゲラ」
「こたびの失態、誠にもって申し訳ございません!
あなた様より与えられし任務を遂行すること叶いませんでした。
この上はいかなる処分もっ・・・・」
モゲラが言い終わる前にメフィストが手に魔力を込めた玉を打ち出し
それを受けたモゲラは跡形もなく粉々に砕け散った。
そのあまりに非情な行いに成り行きを見守っていたリナたちは青褪める。
圧倒的な力の前に恐怖で身動きすら取れなくなっていたのだ。
「これはこれはお見苦しいところをお見せしましたね」
先ほどの非情な行いがまるで幻だったかのように一礼をして謝罪するメフィスト。
そんな彼に大和はモゲラに対して同情の思いが浮かんだようでメフィストの行いを咎めた。
「ええーー、フィスそれはないんじゃない?
魔族のルールとかはよくわかんねえけどさ部下の失敗をフォローしてやるのが
上司ってもんでしょ? それを殺すなんてひど過ぎる!!」
「うーん、でも今ヤマトが言った通りそれが魔族のルールなんだよね。
『任務に失敗したものは死を以って償え』これは絶対順守のルールなんだ」
そう言って両手を大きく広げまるで魔族の威光を示すような態度で答える。
その時ふと大和の頭の中で疑問に思ったことがあったので彼に聞いてみた。
「じゃあベルゼちゃんも殺しちゃったのか?」
「ううん、彼女は“特別”だから」
さっきのモゲラとベルゼと何が違うのかそれも疑問に思ったが
とりあえず最後にこれだけは聞かなければならないことを大和は彼に問う。
「でだ、いろいろあったけど結局フィス? お前は俺と戦いに来たのか?」
その瞬間場の雰囲気が凍り付く。
メフィストの纏うオーラにほんの僅かだが殺気が込められたのだ。
そして彼は例の作り笑いを浮かべながらその問いに返答する。
「もし仮にそうだと言ったらヤマト、君はどうする・・・・?」




