63話:「勇者様のお仕事」
「へへっ、バルバロ様。 こちら小橋大和っていう旦那でさぁ」
どこかバツの悪そうな顔をして男はバルバロに大和を紹介する。
彼がバルバロに大和のこと紹介しているということは
すなわち大和が一騎打ちに勝利したのだ。
しかもただの勝利ではなく、圧倒的な実力差を見せての完勝だった。
今思うとなぜこの男が大和に一騎打ちを仕掛けてきたのか
その理由を知りたいくらいに大和と男の実力が違い過ぎた。
なにせ男は大和に対して指一本触れることなく一瞬のうちに
のされてしまったのだから。
ともかく約束通りこの町の代表者を名乗るバルバロという人物に
紹介してもらうことになった。
まずテントの中に通されると中には大きな深紅色のソファーが
ど真ん中に設置されておりそのソファーで寛ぐ一人の男と目が合った。
ソファーと同じ赤い短めの髪に全てを見通すかのような鋭い切れ長の目をした
中肉中背で背丈は大和よりも少し低いくらいだろうか
見た目も大和と同世代くらいの落ち着いた雰囲気を纏っているというのが印象的だった。
「はあー、ヴァルゴよぉ。 お前のその自分を追い込む性格何とかならんのか?」
深いため息を付きながら護衛の男に叱咤の声を飛ばす。
それに対しヴァルゴは頭の後ろに手を回して苦笑いを浮かべていた。
自分の性分を自覚しているのだろう
だが直そうと思っても直せないとわかっているため
ただバルバロの言葉に申し訳なさそうに反応することしかできずにいた。
バルバロも本気で言っているわけではなくただの挨拶程度の言葉でしかなかったようで
早々にヴァルゴとの話を切り上げソファーから起き上がり
再び座りなおすと大和に視線を向ける。
その目線は大和を頭の先から足の先まで舐めるように見定めているようで
とても居心地がいいというものではなかったが
急にやってきたどこの馬の骨ともわからない男に愛想良くするのも不自然なため
彼の態度は至極当然の態度ではあった。
一通り大和を値踏みするとバルバロは傲岸不遜な態度で問いかけた。
「それで俺に用があるってことだが、何の用だ?
これでも俺は忙し身なのだがね」
先ほどソファーで寛いでいたのはどこの誰だと突っ込みたかったが
そんな馬鹿な突っ込みをするほど大和は空気の読めない人間ではないので
ここに来た用件を簡潔に説明しようとした刹那。
大和の前に躍り出てくる人影が見えた。
先ほどの大和に対するバルバロの態度が気に障ったのか
リナが大和の前に出て声を張り上げた。
「さっきから黙って聞いていればあなたのその態度は何なのですか?」
「この町は俺のテリトリーだ。 例え誰であろうとこの俺が決めたルールに
従ってもらう。 それが嫌なら今すぐこの町から出ていくことだな?」
その言葉を聞いたリナの顔が茹蛸のように真っ赤になったかと思ったら
バルバロに自分の人差し指を付きつけ高らかに宣言する。
「控えおろう! このお方をどなたと心得る!?
かのご神託に謳われた選ばれし者、神託の勇者ヤマト様であるぞ
この龍の紋章が目に入らぬか!!」
とどこかで聞いた時代劇のセリフを言いながら
大和の腰に下げている鞘から剣を抜き取り
バルバロたちに見えるようにその剣を掲げたのだった。
(このあと俺が「リナさんエルノアさん懲らしめてあげなさい!」って言うのかな?)
そう思って少々不安になったがどうやらそれは杞憂に終わったようで
剣に刻まれた紋章を見るなりバルバロたちは目の色を変えて
大和の前に跪きいとも簡単に平伏してしまったのだ。
「ははあーーーーー!!」
(えーーーー、「ははあー」って言っちゃてるし・・・・
この後どうすんの? リナの奴め余計なことしやがって!)
そう考えていると態度を改めたバルバロが謝罪の言葉を口にする。
「ご無礼をお許しくださいませ! まさかあなた様が
かのご神託の勇者だったとは露知らず不遜な態度を取ってしまいました!
何卒、何卒ご容赦くださいませ!!!」
と心からの謝罪をしているが大和はさっきのバルバロの態度でも
別に構わないと思っていた。 それがよそ者に取る態度としては正しいと思ったからだ。
問題はこの事態をどうやって収拾するかということだ。
ちらりとこの事態を招いた張本人であるリナの顔を見ると
「どうだまいったか!」って感じの顔でうんうん頷いてるし
後ろで控えてる二人も「よくやった」的な顔で同じように頷いていた。
バルバロと護衛の二人も大和の言葉を待っているのだろう
平伏したままそのまま押し黙ってしまっている。
(これって俺が何か言わなきゃいけないパターンか? 何を言えばいいんだ?)
大和はこちらの立場と相手の立場を考慮した上での発言をすることにした。
「顔を上げてくれたまえ、バルバロ殿。 あなたがそんな態度を取るのは至極当然のことだ
どこの馬の骨とも知らない人物が訪ねてくれば誰とて先のあなたのような態度を
取るのではないですか?」
と先ほど大和が思っていたありのままの内容を素直にぶつけることにした。
その後「なんと慈悲深いお方」だの「流石はヤマト様です」だの
大和を賞賛する言葉が飛び交っていたがそれを無視するかのように
バルバロに事情を聴くことにした。
バルバロの話では1か月ほど前にこの町から数キロほど離れたところにある洞窟に
魔物が住み着きその魔物が町に呪いをかけたそうだ。
その呪いは強力で被害状況はバルバロの所に来るまでに確認した通りのものだった。
「それで具体的な呪いの内容はわかりますか?」
「食べ物の味が感じなくなる呪いです」
うわーよくあるパターンの呪いじゃんと思ったがもちろん口には出さない。
現実世界で社会人として過ごしてきた大和は【空気を読む】という大人の常識を持っているのだ。
「うわーよくあるパターンの呪いですね」
ただ一つ誤算だったのが他の仲間がその常識を持っていなかったことだろう。
大和はリナにお得意のアイアンクローをお見舞いすると
バルバロに向き直って高らかに宣言する。
「今まで大変でしたね、事情は分かりました。
俺が来たからにはもう大丈夫です。 その呪いをかけている魔物は
勇者であるこの俺が退治してみせましょう!!」
「本当ですか!? それは願ってもないことです。
勇者様は旅でお疲れでしょう。 詳しい話は明日話すということで
今日はゆっくりと旅の疲れを癒してください!」
かくして洞窟に住み着いた魔物を対峙するというRPGでは定番中の定番の依頼を
受けることにした大和だったがこの軽はずみな行動があんな事態になるとは
今の大和たちには予想すらできなかった・・・・・・




