60話:「リリスと再会」
「一体どこへ行ったのよっ!?」
という少し大きめの独り言を呟く一人の美女
だが美女と言っても全身の肌の色は薄い桃色に染まり
背中には禍々しいオーラを放つ漆黒の翼をたなびかせ
その翼を使って彼女は現在空を飛び移動していた。
彼女の名はリリス・ライラー。
以前ちょっとしたきっかけで勇者である大和と知り合い
魔族の身でありながら人間の大和に恋をしてしまった人物である。
彼女が苛立ちを覚えているのには彼女の愛しの彼である大和に関係していた。
そもそも彼女の任務は
【勇者の動向を監視しそれを直属の上司であるグレモリーに報告せよ】というものだったが
当初の予定とは完全に違った方向に進んでいた。
まず第一にリリスは大和の前に姿を現すつもりはなく
自分の存在をひた隠しにして彼の動向を監視するはずだったが
既に顔を知られてしまっている。
そしてこれが彼女にとっての一番の大誤算なのだが
大和に惚れてしまったこと。
リリス自身この恋は報われないものだとはわかっている。
勇者である大和とその勇者に敵対する魔族である自分が
恋仲になることは魔族に対する裏切りであり決して許されるものではない
もしこのことが知れれば、彼女に待っているのは死だ。
だがそういう境遇の恋ほどえてして燃え上がり易いもので
ダメだとわかっているが故に自分の気持ちに嘘は付けないというジレンマに囚われていた。
「ふふ・・・・・・」
頬を赤く染めながら大和への思いに更けるリリス。
その姿は魔族なれど心は恋する乙女なのだ。
だがしかし彼女の大和に対する思いが強い理由、それがもう一つある。
それはリリスが初めて恋をしたつまり【初恋】の相手だということなのだ。
誰しも自分の人生の中で初めて恋をした相手は覚えているもの
ましてや永遠に近い寿命を持ち合わせている魔族にとって
初めての恋というものは寿命がある種族よりも何倍も思いが強くなるのだ。
「全くどこに行ったのかしらホントに・・・・」
口では嫌そうに言っていても態度はそれとは全くの真逆だ。
まるで好きな人に振り回されているのが幸せと言わんばかりの表情を浮かべている。
リリスが掴んだ情報によると旧王都フランプールから馬車で4、5日ほど行ったところに
旅の物資を補給することができる名前も付いてない小規模の町があり
大和がそこにたどり着いたことは彼女の魔法で調べは付いていた。
だがいざ町に潜入してみると大和たちの姿はなく
不審に思い再び魔法で場所を探ると、今度はジェスタに反応があった。
この短期間で何日もかかる距離を踏破する大和たちを不思議に思いながらも
任務遂行のため急いでジェスタに戻った。
今度は見失わないようこまめに魔法で大和の位置を確認しながら
ジェスタに向かっていると、僅か1日という短い期間で
またしても大和の位置が変化し今度は最初の補給拠点に戻っていたのだ。
つまりこの数日間彼女はあちこち動き回る大和に文字通り振り回されていたのだ。
しかしながらそれすらも彼女は胸が躍る気持ちだった。
どうでもいい人間であればこんなことを仕出かしてタダで済むはずはない
だが心底惚れた相手のすることならばどんなことでも受け入れてしまう。
この世界の女性の恋愛観とも相まって、それはご褒美とすら感じられるほどだった。
「どこにいるのよ・・・・ヤマトぉ~」
その場所にいない相手に猫なで声で問いかける。
通常であればその問いかけに答える者などいないだろう、だが・・・・
「ここにいるぞ?」
背中の方でいきなり声を掛けられたリリスは
肩をビクッとさせ驚きの声を上げた。
だがすぐに冷静さを取り戻し声の主を確かめるべく
空を飛行したまま自分の背中の方に顔を向けると
そこには夢にまで見た人物の顔があった。
「えっ・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
突然の出来事に驚愕する。
それも仕方のないことだろう。
自分が追っているはずの人物がなぜか自らの背中にいるのだから。
大和がそこにいると認識してしまった瞬間急激に体温が上昇する。
心臓がこれでもかというくらいに打ち鳴らされる。
あまりのうるささに相手にも自分の音が聞こえるのではないかと思ったほどだ。
(なっなんで? なんでヤマトがここにいるのよっ!?)
考えを巡らせたところで適切な答えが見つからなかったため
ここは直接本人に聞いてみることにした。
「なっなんであなたさまっ、貴様がここにいるのだ!!」
少々言葉を選び過ぎたためにどもってしまったが
なんとか問いかけることには成功した。
「実は俺もよくわかんねえんだ、気付いたらここにいた」
勇気を振り絞って問いかけた返答が素っ気ないものだったことに
落胆と驚きの色を隠せなかったが、目の前に愛しの彼が現れたという
理想が現実になったまさに魔法のような出来事に対する喜びの方が
今の彼女を絶頂の幸福へと誘っていた。
とりあえずこのまま大和を背中に乗せたままというわけにもいかず
地上へと高度を下げ地面へと降り立つ。
大和も地面が近くなるとリリスの背中から飛び降りる。
そこで改めて自分の置かれている状況を整理した。
鍵となるのは【テレポート】という呪文だった。
間違いなくこの呪文による作用だと大和は一瞬で見抜いたが
どういう理屈でリリスのところまで転移したのかその明確な理由が見つからなかったのだ。
しばらく考え込んでいるとリリスが大和に問いかけてきた。
「さっきから何を黙り込んでいるのだっ!?」
黙り込んだ大和を不審に思ったのだろうリリスが声を張り上げる。
心なしか彼女の顔が赤く染まっているのに気付いた大和は
彼女に近づくとその整った顔をまじまじと見つめる。
(なっなに!? なんで私の顔を見てるの?)
意中の男性に見つめられて冷静な思考を保てる女性はいない。
ましてやそれが初恋の相手となれば頬を染めるのが当たり前なのである。
リリスは最後の力を振り絞り消え入りそうな声で呟く。
「なっなんだよぉ・・・・・・」
そう問いかけると大和はリリスの前髪をかき上げ
自分のおでことリリスのおでこをくっつけた。
「~~~~~~っ!?」
突然ことにますます顔が真っ赤になるリリス
そしてやっぱりという言葉の後に大和が
「お前熱があるぞ、風邪でも引いたんじゃないのか?」
まさかの言葉に一瞬驚くも今の状況をなんとかしなければと思い
思考を巡らせていると、突然火の魔法が大和たちの足元に飛んでくる。
「「「なにやってるんだぁぁあああああ!!」」」
そこに現れたのは荷馬車を全力で走らせてくるリナとエルノアとマーリンだった




