52話:「事件の予感」
資材を補給するための町に到着した俺たちは
宿で一晩過ごした翌日から資材補給のために朝から出かけていた。
早朝といえども商人や旅人あるいは冒険者たちの喧騒が響き渡り
店の主人と客とが交渉する声や肩がぶつかったという理由でいがみ合う者たちの怒声
野菜や果物を売る店の看板娘が周りに響く声で客寄せをするといった
小さい規模ながらも活気に満ち溢れていた。
そんな慌ただしいほどに賑やかな場所に俺たちは資材調達を兼ねて
ゆっくりと歩を進めていた。
「へぇー、なんか珍しいものも売ってるみたいだな」
俺が見ていたのはトルコ料理で有名なシシケバブを調理するような調理器具に
肉がセットされくるくるゆっくりと回っている光景だった。
本家は羊の肉を使うのだが、おそらく使われているのは別の肉だろう。
その光景を見るのに夢中になっていた俺は
反対方向からやってきた男とぶつかってしまった。
「おっとごめんよ・・・・」
そう一声かけると男はそそくさと立ち去ろうとしたが
俺がそれを許さなかった。
「待て!」
俺はその男の肩をグイっと掴むと男が立ち去るのを阻止した。
その理由は簡単だ。
マンガやアニメでよくあるパターンで
人ごみが多い場所には決まってスリがいるということ。
ぶつかってきた相手がそそくさと立ち去るのを見て
大和は一発でスリだと確信したのだ。
「俺の懐から盗んだものを返してもらおうか・・・・
死にたくなかったらな・・・・・・」
スリ男の肩に力を込めながら相手を威嚇する大和
その殺気は並のものではなく下手をすればそれだけで
相手がショック死してしまうほどの物だった。
ましてや相手はただの人間、そんな殺気を浴びせられて
無事でいるわけもなく・・・・
「すっすいやせんでしたああああ!!!!!」
男は大和の懐から奪い取った白茶色の袋を投げ捨てると
一目散に走り去ってしまった。
上空に舞い上がった袋は重力の抵抗を受けつつ
まるで吸い込まれるかのように大和の手にストンとおさまった。
「まったく油断も隙もあったもんじゃないぜ・・・・」
「ヤマト様、お見事です!」
後ろに控えていたエルノアがスリ男の逃げた方を睨みつけた後
大和に一礼し賞賛の言葉を送った。
「お前らも気を付けろよ?」
そう彼女たちに注意をした直後俺の膝に軽い衝撃が走る。
視線を下に向けるとそこには小さな子供が地面に尻を打ち付け尻もちをついていた。
「いたたたたた・・・・」
俺はそれほどの痛みはなかったがその子にとっては
かなりの衝撃だったようで顔を歪めていた。
見た感じ8、9歳ほどの子供だろうか
耳にかかるほどの長さを湛えた栗色の髪に
まるで宝石のサファイアをそのままはめ込んだような#青藍__せいらん__#色の瞳を輝かせ
マーリン以上にあどけない雰囲気を纏った女の子であった。
俺はその子に手を差し出しながら
「大丈夫かい? だめだよちゃんと前を見て歩かなきゃ」
そう言って彼女を起こしてあげると
もう痛みは引いたのか太陽のような笑顔を向けて答えてくる。
「ごめんなさい、慌ててたので」
女の子は大和に一礼すると
そのまま彼の後ろに回り込んで大和たちが来た方向に走り去っていった。
「可愛らしい子でしたのん」
そう言いながらマーリンが幼女が走り去った先を見つめる。
「ヤマト様、私とあんな子供を作りまっ・・・・」
またリナのくだらない話が聞こえてきたので
言い終わる前に歩き出した。
だが歩き出して数歩で足を止める大和
そのことを怪訝に思ったのか彼女たちが問いかかけてくる。
「どうかしましたか? ヤマト様??」
「何かあったですのん?」
「トイレですか?」
俺は彼女たちに振り返ると今起きている状況を報告した。
「・・・・あの男から取り返した金がない!!」
これがこの町で起こる事件の幕開けであることを
今の大和たちは知る由もなかった・・・・




