144話:「美少女と米」
袋小路で絶体絶命の白フードの彼女を女性冒険者から救った俺は先に大通りに行った彼女の後を追っていた。
すると袋小路に行く途中の道に道が二手に分かれている場所があり片方が大通りにもう片方がさらに奥の路地へと続いて
いるのだが、その分岐点に白フードの彼女が俺を待っていたらしく俺を見つけると小走りに近づいてきた。
「あ、あのっ! 助けてくれて感謝するぞ!!」
フードで顔を隠しているため見た目はわからないが声の質からかなり若い女性というより女の子だ。
危機から脱したのかその口調がいつもの口調なのかは定かではないが、声から予測した年齢とは不相応な話し方をしている。
俺は少し怪訝そうな表情になるが人にはいろいろと事情があるため深くは追及しないことにした。
「いや、無事だったのなら問題ない。 俺の名前は小橋大和だ。 君は?」
「妾はアリシ・・・・・・アリスじゃ!!」
他の人なら初対面の相手に緊張で噛んだと思うだろうが、元の世界で営業職をしていた俺の観察眼がそれを否定する。
どうやら偽名を名乗っているようだがその意図が分からないし、問い詰めたところで答えてくれる保証がないので
俺は彼女が名乗った名前で認識することにした。
「それでアリスちゃんはどうしてあの二人に追われていたんだ?」
「それが、よくわからんのじゃ」
「ん? よくわからない?」
俺は彼女が二人に追われることになった詳しい経緯を聞いた。
その結果どうやら先ほどの女性冒険者はいわゆる同性愛者というやつだったらしく
あのまま俺が助けに来なければ、違う世界の扉が開いていたかも知れなかったな。
彼女が追われていた事情はわかったが一つ気になったことがあったので率直に彼女に聞いてみた。
「アリスちゃん? もし君が嫌じゃなければでいいんだけど、顔を見せてくれないかな?」
「やっやっぱり気になるかの?」
「まあね」
そう答えるとアリスちゃんは少し考えたあと遠慮がちにフードを取ってくれた。
純白のフードに隠れていたのは絶世と言っても過言ではないほどの美少女だった。
年の頃は十代半ばくらいだろうか、少女が少し大人びてくる頃合いの年齢だというのが見て取れる。
長く艶のある金髪はまるで金の糸のようにキメが細かくまるで職人が一本一本作ったように美しい。
本物のエメラルドをそのままはめ込んだかのような綺麗な緑色の瞳が俺の姿を捉え、気を抜けばその瞳に吸い込まれそうになってしまうほど魅力的な雰囲気を纏っていた。
あまりの美しさに俺が絶句していると、いたたまれなかったのかもじもじと身体をくねらせながら彼女が口を開く。
「どう・・・・・・かの?」
「・・・・・・」
「ヤマト殿?」
「あっ! い、いやすまない。 まさかこんな可愛くて綺麗な子だとは思わなかったから答えるのを忘れてしまった」
「んぅ~~~~」
俺がそう答えると桃色だった頬が茹でダコのように真っ赤に染まる。
それを見ると年相応の少女らしい反応が微笑ましく実に可愛らしいものだ。
さらに彼女に年齢を尋ねると十五歳と答えてくれたので俺の見立ては間違っていなかったようだ。
その後俺がアリスを家まで送ろうかと提案したのだが、それならと彼女は自分と一緒に町を散歩してくれないかと
お願いしてきたので、路地から大通りに戻り二人並んで歩いていた。
大通りに戻った時に顔を隠していたフードを被り直したのが不思議だったが、彼女の言動と立ち居振る舞いからかなり身分の高い人物だというのが窺い知れたので顔を出すと大騒ぎになるのだと結論付けた。
(実はこの国のお姫様だったりしてな。 ははっそんなご都合な展開なんてないか)
やはり彼の洞察力は常人のそれとは逸脱しているようで当たらずとも遠からずな見解だった。
そのままゆっくりと歩いていると彼女が突然―――。
「きゃあっ!」
「危ないっ」
彼女が人の多さで目を回していると地面が少し窪んだ場所に足を引っかけてしまい前のめりに倒れそうになる。
なんとか俺が彼女の手を取ることで回避できたがかなり勢いがついていたので俺が手を取らなかったら地面に熱烈なキスをかましていただろう。
「大丈夫かい?」
「う、うむ大丈夫じゃ! そっそれより・・・・・・」
そう言うとアリスは俺に握られた自分の手と俺とに交互に視線を動かして慌てていた。
それはそのまま彼女の手を握ったまま歩き出した。
「やっヤマト殿!?」
「この人の多さだとまたコケるかもしれないからね」
そう言いながらアリスに笑いかけると彼女はそのまま俯いてしまい黙って俺の手に引かれながら歩いていた。
しばらく大通りを歩きながら通りに出店している店を見て回りながらアリスとの散歩を楽しんだ。
そのまま歩いていると陽ざし避け兼雨除けのために取り付けられた屋根付きの屋台が立ち並ぶ区画へとやってきた。
扱っている商品はどうやら食べ物、特に調理する前の食材を多く扱っているようだ。
差し詰め八百屋といったところだろうか。
アリスもこの場所に来るのが初めてらしく目を輝かせて店の売り物を見ている。
色とりどりの野菜が所狭しと並べられた店や魔物や動物の肉を売る精肉店、新鮮な魚が並んだ魚屋といったように
雰囲気としては昔ながらの商店街の中を歩いている気分がしてどこか懐かしい気分になった。
食材ばかりが並ぶ場所だったため俺はあることを思い出し、アリスに聞いてみた。
「アリスちゃんさ【米】っていう食材聞いたことないかな?」
「コメ? それは一体どんな食材なのじゃ?」
俺はできるだけ詳しく米の特徴を話し説明した。
この市場に米があるのなら是非とも手に入れておきたい。
「それはもしや、このビルド大陸の端にあるジポングという国の酒に使われる【ライズ】という穀物やも知れぬな」
「それってこの市場に売ってるかな?」
「ジポングとは交易を頻繁にしておるからの、きっとここにあるはずじゃ」
「なんだかその言い方だとアリスちゃんが交易してるように聞こえるね、ははっ」
「そっそんなわけないじゃろっ!!」
場を和ませようと冗談で言ったのだが、なぜか彼女はそれを全力で否定した。
もしかしたらこの子の親が貿易関係をしている貴族なのかもしれないな。
俺は彼女が何者なのかという邪推を早々に破棄すると目的の食材【ライズ】を探し求めた。
途中小腹が空いたため途中軽食を売っている屋台で何かの動物の焼いた肉を買って歩きながら食べた。
アリスはお腹が空いていたのか、小さな口を目一杯開けて肉にかぶりついていた。
その後出店の店員からライズの情報を聞いて回ったが目ぼしい情報はなくやっぱりないのだろうかと思い始めた頃
とある一つの店に目が止まった。
その店は主に小麦粉などの穀物を主に取り扱う店で少し痩せた優しそうな中年の男性が店主をしていた。
俺はダメもとでその店に近づき店主に話しかける。
「あの~すいません。 この店に【ライズ】っていう穀物置いてませんでしょうか?」
「申し訳ありませんが、そのようなものは扱っていませんです。 はぁ~」
「そうですか。 ところでどうされたんですか? なにやら落ち込まれているようですが」
「実はですね―――」
対応してくれた男性が明らかに落ち込んでいたため気になって聞いてみた。
どうやらジポングである商人にとある食材を押し付けられたのだが、どのような用途で使うのかわからず
有無を言わせず押し付けられたため食材の名前すらも知らないのだとか。
「まったく困りましたよ。 これじゃあ大損ですよトホホ・・・・・・」
「ちなみにどんな食材なんですか?」
「これなんですがね」
彼が出してきたのは小麦のように纏まって種のような直径五ミリほどの実が生っているひと房の穀物だった。
それを見た瞬間俺は確認するようにそのひと房の種の一つを千切って手に取ってみる。
種は殻のようなものに守られており、俺はそれを指で剥がしていく。
するとそこから出てきたのはまごうことなき白い小さな粒、それは俺の探し求めていた【米】だった。
「見つけたあああああ!!」
「うおっ!?」
「ひゃうっ! な、なんじゃ?」
あまりの嬉しさに叫んでしまい店主の男性とアリスがびっくりしたようで声を上げる。
俺は二人に謝ると早速交渉に入った。
「これをあるだけ売ってくれ!」
「ええ? これをかい?」
「売ってくれ!!!!!!」
顔を鼻と鼻が当たる距離まで詰められた店主はたじろぎながらも応じてくれた。
「どれくらいいるんだい?」
「全部だ」
「え?」
「ぜ・ん・ぶ・だ!!!!!!」
また顔を近づけられて戸惑う店主だったが驚いた様子で俺に確認してくる。
「全部っていっても私が仕入れたのは百キロもあるんだ―――」
「全部買った、いくらだ?」
「ほっホントにいいのかい?」
「構わない、全部買った」
もしかしたらこの先ジポングという国に行かなければ手に入らないかもしれないのだ。
今そこにある分だけ買うのは当然だ。
俺にはアイテムボックスがあるから食材が腐る心配もない。
店主は売れるはずのなかった食材が全部売れることに感謝の言葉を口にし仕入れた金額のまま売ってくれようとしたがそれでは利益が出ないだろうと相場に少し色を付けた金額十五万ゼリルで全て買い取った。
俺としては金には困っていないのでこれだけ高くても何ら問題はない。 寧ろ釣りがくるくらいだ。
流石に全てのライズを持って帰るわけにはいかないので俺は自分が泊まっている宿【妖精の仮宿】の名前を出してそこに全て届けるようにお願いした。
「ありがとうございました。 これで赤字にならずに済みました」
「いえいえこちらこそ目的のものが見つかってよかったです」
俺はそう店主に感謝を告げると呆れたような視線を向けたアリスの手を取り再び歩き出した。
歩き出してすぐにアリスが先ほどの呆れた視線を向けて話しかけてくる。
「全く、なんという買い物の仕方なのじゃ。 あれではまるで大人買いではないか」
「いいんだよ。 もしかしたらこの先二度と手に入らないものかもしれないしね」
「それでも店にあるもの全部とかはさすがに買い過ぎじゃ! 全くヤマト殿は面白い奴じゃの」
そう言ってアリスは口元を抑えながら鈴を転がしたような声で笑う。
少しやりすぎた感は否めないが、欲しい食材は手に入ったし何よりこんな美少女と散歩できたことが
俺にとってはいい出来事だったので納得の買い物だった。
今日はいい日になったとアリスと手を繋ぎながら歩いていると俺の後方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「みっ見つけましたーーーーーーー!!!!!!」
振り返るとそこには肩で息をしている俺の旅の仲間であるリナたちだった。




