141話:「大和、女の子たちを煙に巻く」
王都ガルヴァスに来た目的であるランクアップを無事に果たした俺たちは今後の予定を立てるべく
ザナファス大神殿を出てすぐの大通りをゆっくりと歩いていた。
フレイヤの最上位修行僧の一件を見たエマさんがそのことを言及しようと逃げるように大神殿を後にしようとする
俺たちに詰め寄ってきてしまって大神殿の出入り口までしつこく付いてきたため俺は彼女の背後に回り込み耳元に息を優しく吹きかけた。
そのあまりにも甘い吐息に身も心も震わせたエマさんがへたり込むように床に座り込んだ。
その光景を目の当たりにした神殿の神官たちは「神官長様」だの「キャー勇者様がエマ様を誘惑してますわ」などといったことを
口々に漏らしていたが構わず俺たちは大神殿を後にしたのだ。
去り際に気障ったらしく「それではエマ神官長、ごきげんよう」と言ってはみたもののあれは正直恥ずかしかった。
余談だがこの一件によりエマが大和に恋をしてしまったのは言うまでもないことだがそれはまた別の話であるため割愛する。
かくして俺たちは無理矢理感が否めないがなんとか大神殿から脱出することに成功していた。
そして、これからの予定をどうすべきかと思案を巡らせていると、とある食べ物のことを思い出した。
そう、【米】だ。
大神殿に来る途中俺は仲間たちに米というものがあるか聞いてみたところそれらしい食べ物はないと答える者ばかりだったが
マーリンがそれっぽい食べ物の心当たりがあるという事だったので米の実物があるかはともかくとしてそれに類似する穀物はあると判断することとして俺はみんなに話を振った。
「なあこれから手分けして市場を散策して米を探さないか?」
これは俺が日本人であるが故のわがままみたいなものなのでそれに付き合わせることは
何となくだが気が引けたので少し弱めに提案してみたのだが、どうやらみんなも最初からそのつもりだったらしく
米を探すことに関しては快諾してくれたのだが――――――。
「では主、主の護衛はこのわたしフレイヤにお任せください」
そう言いながら彼女が胸に手を当て恭しく一礼する。
いや俺一人で大丈夫なんだが?
そんな思いが顔に出ていたのかもっともらしい理由をフレイヤは付け加えてきた。
「主はこの世界にとって唯一無二の神託の勇者です。 その勇者が供も連れずに公衆の面前を歩くことなど
あってはなりません。 どこから魔族が狙ってくるかもわかりませんし、ここは一つわたしの提案を受け入れてください!」
残念なことなのだが、彼女の意見は実に正論だ。
この世界にとって最重要人物である勇者は魔族にとってはメインターゲットに他ならない。
人族の中で最も消さなければならない対象であり、最も厄介な相手とも言える。
そんな勇者が供も連れずに歩くということは魔族に付け入る隙を与えかねないのだ。
理屈はわかるだがしかし、“だ・が・し・か・し”だ。
常に行動を共にしているのはいろいろとストレスが溜まるものなのだ。
具体的に言うといろいろと語弊があるので敢えて言わないが、とにかく俺は“一人になりたい”というささやかな願望を叶えたい。
フレイヤの提案を覆す言い訳を考えてはみたものの結局のところ思いつかずに諦めた。
だが幸運の女神はまだ俺を見捨ててはいなかった。
「ちょっとそこのトカゲ? 何わたしたちを差し置いてヤマト様と二人っきりになろうとしてるのかしら?」
フレイヤの肩に少女の小さな手が掛けられたと思った瞬間、勢い良くフレイヤの身体が反転する。
どうやらこちらに向かせるためにリナがやったことだったのだが、神官である彼女のどこにそんな力があったのかは
計り知れないが実態が十数メートルは下らないドラゴンを片手で振り向かせるってどうなんだよ。
リナの言葉に同意の視線をフレイヤにぶつける他の女の子たち。
フレイヤはそんな彼女の視線も歯牙にもかけず傲岸不遜な態度を持って真っ向から切り込んだ。
「神託の勇者様一の家来であるこのわたしが主の身を守るのは当然―――ぶべっ」
フレイヤの言葉が言い終わる前に彼女の頭にチョップが繰り出されていた。
当然だが繰り出したのは俺ではない。
フレイヤの頭にチョップを食らわせるとこちらも毅然とした態度で彼女の言葉をリナが切って捨てた。
「誰がヤマト様一の家来ですか、わたしたちはそんなこと認めた覚えはありません。
大体この状況で抜け駆けしようなんて、だからあなたはトカゲなんですっ!!」
「ほぅ、人間の小娘の分際でこのフレア・ドラゴンである我を愚弄するか、面白い!
どうやら自分の立場とやらを分からせる必要があるようだな・・・・・・」
一触即発の雰囲気の中二人の間に割って入る人物たちがいた。
「二人ともあたしたちがいること忘れてない?」
「マーリンもですのん・・・・・・」
「わたしも旦那様と一緒に行きたいです!!」
リナとフレイヤのタイマンが始まるのかと思いきやエルノア、マーリン、マチルダの三人がまさかの参戦を表明する。
マチルダのさりげない旦那様発言はあえて突っ込まないでスルーをしておく。
そして、これは俺にとって大チャンスだった。
今全員が睨み合う状況が続いており誰も俺のことを見ていない。
俺はみんなに気付かれないようにそっと後ずさりながらまんまとその場から逃げることに成功したのだ。
―――女神様、あざーっす!!
ようやく手にした一人の時間を一歩一歩噛みしめながら歩いてゆく。
俺は歩きながらこの王都ガルヴァスの街並みを楽しみながら見てゆく。
風景自体は今まで訪れた町と何も変わらない。
馬車で荷物を運ぶ行商人や俺たちと同じようにランクアップ目的で大神殿を目指す冒険者や傭兵、その他にも
屋台で何かの肉を焼いたものが売られていたり、物珍しいものだと吟遊詩人が芸の肥やしに通行人に向かって歌を披露している。
今まで見てきた町の光景と変わり映えしないもののその規模は比べるまでもなく段違いである。
俺は市場で米を探すという目的があったがせっかく一人になれたことだし、米の件はリナたちに見つかってからでもいいと考えしばらく都市巡りをしようと歩き続けた。
十分ほど歩いたところで、俺が歩いていた進行方向から人の流れに逆らって走ってくる者がいた。
純白のフード付きの外套に身を包んだ人物が人通りの少ない裏路地へと走っていくのを二人の女性冒険者がそれを追いかけていた。
面倒事にはあまり首を突っ込みたくはなかったが、見てしまったからには白フードの人物がどうなるのか結果だけでも知りたいと思った。
俺は自分の野次馬根性に少々呆れにも似た感情を抱いたが、仕方のないことだと割り切り女性冒険者と同じく裏路地へと入っていった。




