131話:「奇妙な組み合わせ」
迷いの森と呼ばれる場所に到着した大和たち一行は早速、拠点を設営する準備に取り掛かる。
大和以外の5人が打ち合わせもしていないのにも関わらず己のするべき仕事をこなすため馬車から勢いよく下車する。
その動きは統率された軍隊のそれに近く、無駄な動きが一切ない。
マーリン、マチルダ、エルノアが就寝するためのテントの設営を担当し、残りの二人フレイヤとリナが料理やそのほかの用途で必要な
生活用水を確保するために川で水くみというように役割分担で別れる。
これはその時々によるのだが役割は決まっていないのにもかかわらず大体このようなメンバーになるようだ。
この時大和は何をするのかと言えば、馬の世話である。 馬のための干し草を用意しタライに飲み水を入れるという誰でもできそうな雑用だ。
だがこれ以外にやることはあるのだが何故か他の5人が大和が仕事をするのを極端に嫌がっているため
休息をする際の大和の仕事は馬の世話というのが通例になっている。
「小娘、早く来るのだ。 水を汲みにゆくぞ!」
「わかってますよ。 そんなに急かさないでください!」
これは謎なのだが、なぜだかあの二人はこうして口喧嘩をしながらもああして二人で水くみに行ってしまう。
おっといかん、こちらも馬の世話をしなければ。
大和は二人が組んで作業をする本当の理由を気付けぬまま馬の作業をし、いつもより早く作業を終えたため
一人きりになりたいという願望もあってか少しだけ森の探索に行ってしまうのだった。
だが大和はここで一つミスを犯した、それは誰にも断りの一言を入れなかったという事だ。
私の隣にいる赤い服を来たトカゲ、もとい女性は私の少し先を歩いている。
まるでどこぞの貴族が主催するようなパーティーに参加するのかというようなドレス調の服は悔しいけどとても良く似合っており
彼女の見た目と相まって大人の魅力が溢れんばかりの妖艶さを放っていた。
私がそんな彼女の背中を怨めしく見ていると、突然声を掛けられる。
「のぉ小娘、その、なんだ・・・・・・」
彼女にしては物珍しく、問いかけることを躊躇したような言い方に私も珍しく何も言わずに彼女の
言葉を待つことにした。
そもそも何故、私と彼女が二人で一緒に水くみに行くことになったのかという経緯を説明すると。
あれはジェノンの町を出立して最初の休息を取ろうとテントなどの設営をしていた時に遡ります。
その時ヤマト様は今の私たちのように水くみに行っていたのですが、今私の目の前にいるトカゲ女が
私を出し抜いて一緒に水くみに行っていたのです。
それ以降も私とこのトカゲ女とのヤマト様争奪戦が繰り広げられ、その戦いが続いた後しばらくして
このトカゲ女が休戦協定なる提案を持ちかけてきたのです。
その内容は抜け駆けをしないように拠点の設営を一緒に組んでやるというものでした。
お互いに相手の動向を監視できるという利点から、私は是非もない提案だと思い彼女の提案を受け入れました。
それが私と彼女が一緒に組んで設営している理由です。
そんなことを考えていると意を決したように少し上ずった声で彼女が問いかけてきました。
「お前は、主と、その、何処まで行ったのだ!?」
その問いだけで私は全てを理解しました。
つまりは私とヤマト様がどの程度の恋仲になっているのかという探りだという事に。
さてどうしたものでしょうか。 目の前には手を祈るように前で組みながら潤んだ瞳で不安げにこちらを見てくる彼女。
その仕草は同性の私ですら可愛いと思うほどの破壊力を秘めておりそれを見てズルいと思ってしまいます。
これでも神殿に仕える神官としては嘘は良くないことだと理解しております。
ですが女にとって恋とは戦、戦争なのです。
そして目の前にいるのは戦争相手である敵なのです。
本来であれば、ここは嘘を言って相手を欺くのが定石だと理解しているのですが
今の彼女の姿を見せられてもなお欺けられるほど私は恋愛経験豊富でもないです。
増してや相手は自分と同じ人を好きになった女性、そんな相手には正々堂々と真正面から向き合いたいのです。
私はそんな様々な感情が巡る思考を止め素直な気持ちを答えることにした。
同じ“恋する乙女”として。
「――――――にもないですよ」
「えっ?」
「何もないんです!! あなただってヤマト様の性格を理解しているでしょ?
あの方は私たちをそういう対象で見てないんですよ。 使命を全うする旅の仲間以上の感情は
持ち合わせていないと思いますよ。 私としては不本意ですけど」
私が彼女の質問に答えると、目を見開き安堵の表情を浮かべるとその顔はすぐさま残念と言わんばかりに苦笑を張り付ける。
それは自分たちの好いた男がどれほど難攻不落な存在なのかを理解すると同時に
この先あの方を振り向かせるのがいかに大変なことなのかという未来が見えているからこその表情だった。
「「・・・・・・」」
お互い無言で顔を合わせ苦笑いを浮かべる。
その顔を見て何となくだが親近感が沸いた気がした。
言うなれば、金銀財宝が眠る難攻不落の迷宮に挑戦するような、前人未到の地図にも載っていない土地を踏破する時のような感覚。
この先に待ち構えているのは苦難の道しかない、だがそれでもやりがいは十二分にあるといった感情によく似ていた。
私は歩を進め彼女を追い越すと、振り向きながら自慢気な顔を顔に張り付けると彼女に言い放った。
「ヤマト様とはまだ何もないですけど、胸は揉まれましたよ」
「なっなにぃ!? わたしだってまだ揉まれたことないのにぃーーーー!!」
「ふふふ」
少し勝ち誇った顔をしながら私は水を汲みに行くため川に向かって歩き出した。
そしてそれを追いかけるように彼女は私の後ろを先ほどの発言に対する追及をしながら付いてきた。
今回の一件で何となくではあったが彼女のことを少しだけ理解できたような気がした。
その時の頬を撫でた吹き抜けていく涼やかな風がとても心地よく感じた。




