130話:「孤独への渇望」
“一人になりたい”そう思ったことはないだろうか。
落ち込んだときや人と関わりたくない時あるいは自分だけの時間を優先したい時など
理由は様々ある。
ジェノンの町を出立して十日ほどが経過していたが、目的地である王都ガルヴァスにはまだ到着していない。
不十分に舗装された街道を道なりにひたすら進み、馬が疲れたら休息を取り日が暮れればそこで野宿をする。
そんなサイクルが何度となく繰り返された頃、俺は先の言葉を頭の中に思い浮かべた。
現在俺は魔王討伐のために旅をしているわけだが何も一人旅ではないのだ。
御者をしている俺が後ろを振り返るとそこには5人の女性の姿がある。
女性と言っても中には見た目年端もいかない幼女もいるから何とも表現し難いのだが
性別的には女性なのでここは女性と言っておく。
いろいろな経緯はあれど、全員が俺の旅に同行する仲間なのだが一つだけ参っている点がある。
「ムフフ、ヤマト様ぁ~」
気色の悪い猫なで声を出しながら隣に座り込んでくると俺の腕を自分の腕と絡ませてくるリナがいた。
おそらく自分でも自信があるのだろう、ご自慢の二つの柔らかい膨らみを俺の腕にこれでもかと押し付けてくる。
俺とて男だ、通常であればそんなことをされれば悪い気はしないというかむしろ幸運だと思うだろう。
それが涎を垂らしながら発情した雌の顔を浮かべた下品な女でなければの話だ。
「やめい!」
「ほげっ」
俺は腕を絡ませていたリナの額にデコピンをくれてやると間抜けな声を出すと同時に緩んだ彼女の腕から逃れる。
その扱いに頬を膨らませながらこちらを怨めしい目で見てくるが俺の知ったことではない。
そんな目に会いたくなければ俺に触れなければいいのだから。
そう考えているとリナの座っている方と反対側から声を掛けられた。 フレイヤだった。
「主、この先には切り立った山脈が軒を連ねておりそこを抜けるためには
麓にある洞窟を抜けなければなりませんがいかがいたしますか?」
「いかがとは?」
「何でしたら我が背中に乗せて山脈を越える方が手っ取り早くて良いのではと?」
フレイヤの提案も最もだが、ジェノンの町で調達したビルド大陸ドライゴン帝国周辺の地図を見ると
山脈を抜けたすぐ先に関所のような場所が設けられている記載があったため、彼女の提案を断りここは
通常の洞窟を抜けるルートを選択することにした。
下手にフレイヤで山を越えると大騒ぎになり兼ねないと結論付けたためだ。
しばらく進んでいくとそこに何千年、何万年、あるいはそれ以上という長きに渡り存在していたことを思わせるほど威風堂々とした山の連なりが顔を見せた。
標高としては雲がかかるほどの高さであることから富士山よりも少し高いといったところだろう。
その山脈を覆い隠すように森がまるで山に入ろうとする者を拒むかのように鬱蒼と覆い茂っている。
この場所こそドライゴン帝国を目指す者にとっては最大の難所であるとされている別名【迷いの森】だ。
そして迷いの森を抜けたその先には山脈を抜けるための【ラゼルの洞窟】という洞窟が待ち構えている。
洞窟の名前の由来はこの山脈の名が【ラゼル山脈】だからという事らしいとマーリンが教えてくれたが
俺はさらに「ラゼルの名前の由来は?」と聞くとそっぽを向かれてしまったのでどうやら知らなかったのだろうとそれ以上聞かないでおいた。
ぶっちゃけ名前の由来なんてどうでもいいことだし。
俺たちは森の入り口付近に馬車を止めそこにテントを張り拠点を作って森を攻略するための英気を養うことにしたのだが一人になりたかった俺は諸々(もろもろ)の作業をリナたちに任せて森周辺を探索するため一人歩き出した。
森はどことなく入ることを躊躇うほどの暗い雰囲気を宿しており、不吉という言葉が最も似合う。
歩いている途中、動物や低レベルのモンスターが横切ったが俺のことを見るなり逃げていった。
野生の本能なのだろうか俺がどれだけ強大な存在かを肌で察知している様だったが中にはそれが理解できないおバカな動物もいたらしく
虎の姿をした動物が襲ってきたが、突進してきたところを躱し、ガラ空きの横っ面に右ストレートをお見舞いするといそいそと逃げていった。
森の中を歩きながら、両腕を宙に投げ出し「んん~」という声を出しながら身体を伸ばす。
常に誰かと行動を共にしているとたまに一人になりたくなった時に困ることがあるが
こうして一人で歩いているととても静かで心が落ち着くのと同時に普段の俺がいかにあの姦しいメス共を相手にしているかというのが改めて理解できるため頭が痛くなる。
色眼鏡ではなく客観的な一般論で言えば、リナたちの見た目は全員顔立ちも整った美人ばかりだ。
最もこの世界の美的センスで言えば、彼女たちの顔は平均的な顔らしいのだが俺の目から見ればキレイどころばかりで元の世界であれば何を話したらいいのかと内心ドキドキするのだが、彼女たちの性格がそのドキドキを軽減、いや激減させている。
そして、さらに俺のドキドキメーターをゼロに等しくさせているのがやはりセクハラまがいの彼女らの言動だ。
もしこの場に女性がいるなら問いたいのだが、もし仮に見た目がドストライクのイケメンがいたとして
そのイケメンが鼻の下を伸ばしながら下品な言葉で言い寄って来たら果たして恋に発展するだろうか?
どんなに見た目が好みでも肝心の中身が良くなければ意味がない。
美味しそうに盛り付けられているのにもかかわらず食べてみると糞不味い料理と同じである。
特に俺は見た目ではなく中身を重視する男だ。
だからこそ今の俺にとって彼女たちは恋愛の対象にはなり得ない。
“絶対にあり得ない”訳ではないが、少なくとも今の彼女たちを見て付き合いたいなどという感情が芽生える可能性は低いだろう。
何が起こるかわからないのが人生とはよく言うが果たしてこの先あの子たちの中から恋愛に発展するという事があるのか思案したが
その先に待ち構えているであろう未来を予想すると恐ろしい結末が待っているという結論に至り、俺は頭を左右に振ってその考えを破棄した。
今はそんなことよりもこの貴重な貴重な一人の時間を愉しもうじゃないかと歩いていたが
突然静寂を破って聞こえてきた声に俺の癒しの時間は終わりを告げた。
「主ぃーーーーーーー、何処に居られるのですかぁぁぁーーーーーー!!」




