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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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157 オーブの在処

 この世界のオーブは消えた。

 オーブの存在が変わったのだと、俺とベティアは結論づけた。

 その最も疑わしい存在が、金色に輝く体をして、ふよふよと浮き上がっている小ドラゴンだ。


 俺は、拳銃を取り出して小ドラゴンに向けた。

 今まで、オーブはこの武器で壊してきた。

 壊せない道理はない。


「おいらを殺すのかい?」


 小ドラゴンが尋ねる。


「オーブを壊さないと、俺たちは元の世界に戻れない。何度も説明しているだろう。あんたが、オーブなのか?」


 小ドラゴンは翼を動かさず、ふわふわと漂っていた。

 ぐるぐると鳴らす喉が、まるで楽しんでいるかのようだ。


「覚えていないよ。おいらはおいらだ……でも……そうかもしれないな。おいらは、この世界に生まれた時には、ずっと宇宙をただよっていた。何億年も暗い場所を漂って……この星を見つけた時は嬉しかった。重力に惹かれて……ここに落ちた。これから、面白いことが始まるぞって思ったけど……この星の生物は、ほとんど動かないし、よけいに退屈だった。サンゴたちが、この星に栄養がないって嘆いていた。喋ったわけじゃない。どんどん白化して死んでいって……たくさんのサンゴが、同じ原因で嘆いているのがわかったんだ。だから、この世界に宇宙船を招いた。サンゴたちは、おいらの存在に気づかなかったから、わかりやすい姿になろうと思った」


「それが……金色のドラゴンか?」

「さあ……おいらが選んだんじゃない。動いて、話せる体が欲しいって思っていたら、こうなったんだ」

「ソウジ、見覚えがないか?」


 突然、ベティアが尋ねた。


「見覚え? なんの?」

「前に言っていたじゃろう。時間を戻りすぎて、オーブができる瞬間に立ち会ったのじゃと。その時、竜王とは金色のドラゴンじゃったと言ったな」


「……ああ。サイズが違うし……大きすぎて、全身を見ていないが……形は同じかもしれないな」

「なら、そんな道具では壊せんじゃろう。オーブとして妾たちを騙していたのであれば、無理矢理にでも壊すつもりじゃったが……退屈だっただけじゃろう。数億年、何もすることがなく、死ぬこともできん気持ちを……妾も少しはわかる。責めることはできん」


 俺は、手にした拳銃を見た。今まで壊したオーブは、剥き出しの玉だった。

 小ドラゴンの中にオーブがあるのかもしれない。外側の鱗は、拳銃で貫けるとは思えない。

 いずれにしても、俺は拳銃を魔法の石板に収納した。


「俺には、ベティアやドラゴンの気持ちはわからない。俺は、数十年で死ぬ。ただ……元の世界に好きな人がいる。だから、戻りたいだけなんだ。向こうにとっては、俺はもう死んだ人間のはずだ……俺が戻らなくても、困るわけじゃないが」

「ソウジ、諦めるのか?」


 ベティアが尋ねた。俺は、小さく頷いた。


「これまで、多くの魔法士がダンジョンの攻略に挑んで、結局俺しかダンジョンを破壊できてない。俺は、これまで単に運がよかったんだ。俺もたぶん、ここまでなんだ」

「妾を、こんな、人間のいない場所に放置するのか?」


 ベティアが牙を剥く。


「仕方ないだろう。オーブがこのドラゴンと一体なら……壊せば死ぬだろう。そうしないと、俺たちは元の世界に戻れない。殺すことはしたくないし……方法もわからない」

「ふむ……オーブから変異して、数万年以上経っているのじゃろう。分離できんのか?」


 ベティアが小ドラゴンに尋ねた。

 小ドラゴンはふよふよと飛び回る。


「分離といわれても、おいらの中で、どうなっているのかわからないんだ。骨だけ抜き出せばいいのか?」

「妾が知るはずがなかろう。ソウジ、都合のいい魔法がないか?」


 ベティアは、人間が大勢いる世界に戻ることを諦めていないのだ。

 俺は、魔法の石板を見つめ、魔法を参照してから言った。


「俺の魔法じゃ無理そうだ。でも……俺以外にも、魔法が使える奴がいる」

「どこじゃ? また、宇宙の彼方じゃと言われても、もう宇宙船はないぞ」

「ここだ」


 俺は言いながら、魔物画面のアイコンをタップした。

 呼び出されたピンクオークのウーが、前足の蹄に水晶のついた杖を持って現れた。


「魔物の餌ではないか」


 ベティアは、ウーを見るなり言った。


「ひっ! ソ、ソウジ……やっぱり私を、餌に……」


 怯えたウーの肩を、俺は叩いた。


「違う、違う。よく見ろ。ベティアは吸血鬼だ。知っているだろう。ウーを食べはしない。主食は、俺の血だ」

「自分の血を上げているのですか? 時々、ソウジを尊敬します。そんな魔物を、仲間にしているなんて」


 ウーが俺を見上げた。言葉とは裏腹に、俺に憧れているような視線ではなかった。


「では……餌というのは……」

「食っていいのか?」


 俺の頭の上にいた小ドラゴンのことは、背の低いウーからは見ることができなかったようだ。

 俺の髪の間から、小ドラゴンが首を伸ばした。


「ひっ! えっ? あ、あなたは……」

「ドラゴンだ」


 俺が言うと、途端にオークは這いつくばった。


「ド、ドドドド……ドラゴン様。ははぁっ。お目に書かれて、幸いしごくに存じます」

「おい、どうした? 他の異世界でも、ドラゴンには会っただろう。そんな対応ではなかったはずだ」


 俺が言うと、ウーは俺を見上げて言った。


「えっ? 元の世界に戻ってきたのではないんですか? そこにいらっしゃるのは……私を造られたドラゴン様では?」

「こんなことを言っているぞ」


 俺が手を伸ばすと、俺の手のひらに、小ドラゴンが飛び乗った。

 魔法の石板に入っている間、仲間の魔物たちの時間は停止する。

 呼び出された時に、どこにいるのかは、完全に俺次第なのだ。

 どんな場所にいるかに加えて、どの世界にいるかすら、呼び出された段階ではわからないのだ。


「おいらは知らない。そもそも、おいらはどんな魔物も生物も、作ったことはない」


 ウーが、小ドラゴンをじっと見た。俺に視線を転ずる。


「えっ? ソウジ……ここは……」

「まだ、ウーが生まれた世界には戻っていない。どうしてこのドラゴンが、ウーの創造主だと思った?」


「これまでに見た異世界のドラゴンは、すべて大きな翼のあるトカゲでした。でも、このドラゴン様は……私が知っているドラゴン様に……とても近いです」

「近いって、どこがだい?」


 小ドラゴン本人に言われ、ウーは真面目に言った。


「喋っています」

「それだけか?」


 俺が尋ねると、ウーは身を乗り出した。


「それだけですって? ソウジは、それがどれだけ大変なことか、わからないのですか? 最強のドラゴンに、言葉なんて、最もいらないものです。そのドラゴン様が、話している。それだけで、どれほど特別か、わからないのですか?」


「……うん。悪かった。ウー……実は、このドラゴンが特別だというのは、間違いない。このドラゴンは……退屈のあまり変化したオーブらしい。元の世界に戻るには……つまり、異世界にきた目的の、オーブの破壊を行うには……ドラゴンを殺さないといけない」

「……まさか、ソウジ……その罪深い役割を、私にやらせようというのですか?」


 ウーは、上向いた鼻先を、ブヒブヒと震わせた。


「……オーブを壊したがっていただろう。どうして、罪深いと思うんだ?」

「違います! 私は、オーブを壊すことは使命だと思っています。でも……ドラゴン様を、殺せるはずがないじゃないですか。せめて……せめて、ドラゴン様は生きていただいて、オーブだけを破壊するならとにかく……」

「できるのか? オーブだけを壊すことが」


 俺とベティアが同時に尋ねていた。

 ウーはつぶらな瞳で俺とベティアを見た。


「そりゃ、できますよ。私、魔法が使えますから」


 あまりにも当然のことにように言うウーに、俺は言葉を失っていた。

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