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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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156 オーブの意思

 俺は頭上に被さった陸地に向かい、魔法を放った。

 巨大な大陸が上に乗っているのにも関わらず、それほど暗くはない。

 陸を構成する物質が、光を通しているのだ。


 俺が放った爆発魔法は、頭上の陸を削った。

 削れた分は海水が占めたが、3度も繰り返すと、水で埋められない程度の竪穴ができた。


「乱暴じゃな」


 ベティアには言われたくなかったが、否定はできない。


「この土地の広さがわからないんだ。穴を掘ったほうが簡単だろう。横穴を掘って、ビーム砲で突き抜けたらいいと思うんだが」

「仮にも、この惑星の支配者達の屍だがな」

「んっ?」


 小ドラゴンの言葉に、俺は首を傾げた。


「見るが良い。陸を作っているのは、土ではない。サンゴの死体じゃ」


 ベティアも告げる。俺がよく見ると、土は白く、ざらついていた。

 白化して死んだサンゴの体だと、俺は理解した。


「……まずかったかな」

「いや。死体を集めて浮かべてあるだけで、弔うような感性はあるまい。気にすることはないだろうが……妾ならやらんな」

「そうだな」


 ベティアと小ドラゴンは気が合うようだ。

 俺は言った。


「とにかく、上に登ろう。オーブがこの上にあるのなら、この土地も、ただの死骸の寄せ集めではないかもしれない」

「そうじゃな。やれ」


 ベティアは言いながら、足元を叩く。

 軽く叩いているようだが、大抵の生物は死ぬだろうことがわかる衝撃で、床が凹んだ。

 その後、俺たちは吐き出された。


 ベティアの命令に巨大生物が従ったのか、叩かれた衝撃で単純に吐き出されたのかは、俺にもわからなかった。

 巨大生物から吐き出され、俺は自分の魔法でうがった竪穴に放り込まれた。


 再び海に落ちそうになり、サンゴの壁に捕まる。

 俺の隣でベティアがしがみつき、背後で小ドラゴンが羽ばたいていた。

 ベティアが片腕を振るい、横穴をうがった。


「死者への敬意はどこにいった?」


 拳の一撃で十分な横穴をうがったベティアに感謝しながら、俺は横穴に転がり込んだ。


「妾が、死骸にそんなもの、もつはずがなかろう。この世界への、最低限の礼儀というものがある」


 ベティアは、死者である吸血鬼の王だ。死体に感慨など持たないのだろう。

 俺が言ったことと、ベティアのしたことの何が違うのか、俺にはわからなかった。

 小ドラゴンも否定しなかったので、何かが違うのだろう。


「本当にサンゴだな」


 俺は自分の尻の下にある細かな枝を折りとった。

 短い枝が複雑に組み合わさり、陸地を作っている。

 力を込めると、簡単に折り取れた。

 白化して死んだサンゴは脆い。俺の手の中に、折れたサンゴが残った。


「うむ。さっきから、そう言っておる」

「どうする? どうやって、上に行く?」

「ソウジ、ビーム砲を出せ。魔力は十分じゃろう」


「……それは、いいのか?」

「なにか問題か?」

「……いや」


 この世界への礼儀とは、どういうことだったのだろう。

 俺はもやもやとしながら、魔法の石板からビーム砲を取り出した。



 真上に撃って縦に登り続けるのは大変なので、俺はビーム砲の砲身をやや斜め上に向け、魔力を注いだ。

 ビームが放たれる。

 大きな穴が穿たれた。


「凄いな。おいらのブレスでは、遠くまでは届かない」


 小ドラゴンが感心する。


「ドラゴンのブレスって、どんなものなんだ?」


 ビーム砲を収納しながら尋ねると、小ドラゴンは胸を逸らした。


「おいらは、あらゆるブレスを使い分けられるぞ」

「ただ、効果範囲が短いがのう」


 ベティアが口を挟んだのは、俺が寝ていた間に聞いのだろう。


「でも、凍らせることも燃やすこともできるなら、便利だな」

「そうだろう、そうだろう」

「便利な道具というわけじゃな」

「道具というな」


 小ドラゴンと吸血鬼王の掛け合いを聞きながら、俺は斜めにできたビーム砲の穴を登った。


 ※


 陸地と思われたものが、全て白化したサンゴでできていたのは確かだった。

 手をついた場所から、足で蹴った場所から、崩れてバランスを崩しそうになる。

 ベティアは苦も無く駆け上り、小ドラゴンは羽ばたいていないのにスイスイと飛んでいく。

 俺は魔法の石板を見つめて、試しにゴリラ魔法を使用した。


 すると、どうしたわけかあまり苦労することなくサンゴの死体を登ることができた。

 ゴリラ化したことで、野生の力が宿ったのだろうか。

 だいぶ長い距離を這い進んだが、ようやく顔を出した時、空は塗りつぶしたように青く、真上に嫌がらせのように輝く太陽があり、地面に見渡す限り白かった。


「ソウジ、オーブはどこじゃ?」


 ベティアは先に出て、何もないただ白い大地を腕組みして眺め渡していた。

 俺が頭を出し、体を穴から引き上げると、上空を飛んでいた小ドラゴンが俺の頭にとまった。

 魔法の石板で、マップ画面を確認する。


 近い。

 すぐに近くだと、俺には思えた。

 振り向く。背後にあるはずだ。


「……あれだ」


 俺が指差したのは、白い大地にある大気の歪みだった。


「……どれじゃ?」

「あれだな」


 俺は、ただ魔法の石板で確認した位置を告げた。

 その方向を見て、ベティアは首を傾げた。

 だが、小ドラゴンは確信を持って言った。


「俺にもよくわからないな。オーブは……いつも丸い、手で持てるぐらいの玉だった。あれは……なんだろう?」


 オーブがあるはずの場所に、別の何かがあるとは思えない。

 ただ、空気がぼんやり歪んで見える。


「玉だよ。ただ、隠れているんだ」

「隠れている? 誰かが隠したのか?」

「多分、そうだろう」


 ベティアは何も言わない。

 この世界で生まれた小ドラゴンは、何かを知っているようだった。

 この世界で数万年、あるいは、この世界ができたときからいるらしい小ドラゴンであれば、知っていことも多いのだろう。


 俺は、小ドラゴンに言われるまま、オーブがある場所に近づいた。

 魔法の石板によれば、目の前にあるはずだった。

 だが、俺の前にはただ空気があり、その空気が、微妙に歪んでいるように見えた。


「ベティア、何か見えるか?」

「オーブがあった……名残りかのう」


 ベティアも、微妙に歪んだ空気に顔を寄せたが、はっきりとはわからないようだ。


「……どういうことだろう?」


 俺は、小ドラゴンに尋ねた。

 小ドラゴンは、俺の頭から飛び上がり、俺の前でふわりと浮かんだ。


「ここに、オーブあったのさ」

「あっただけなはずがない。だって……このマップは、間違えたことはない。誰かが持ったまま移動すれば、マップの表示も移動する」


 俺が言うと、小ドラゴンは翼を動かした。ばたばたと動かす仕草が、なぜか俺を笑っているかのような気がした。


「それは、オーブがオーブのままだった時のことだろう」

「……どういうことだい?」

「オーブが意思を持ち、オーブ以外の何かになった場合、ソウジのマップは、オーブが最後に、オーブとして感知された場所を示すと言う意味か?」


 理解できない俺に変わり、ベティアが尋ねた。

 そう言うことなのだろうか。


「だろうな」


 正解だったようだ。小ドラゴンが言った。


「それは、2人の推測だろう。まだ、ここにあるんじゃないか?」


 俺は、歪んだ空気に手を伸ばした。

 何もなく、ただ手が素通りする。


「ソウジ、オーブは竜王の魂のカケラなのじゃろう?」


 ベティアに尋ねられ、俺は頷いた。


「ああ。目の前で見た。竜王が秘術を使って魂をオーブに変え、あの世界を滅ぼしにきた混沌と呼ばれる魔物を封じ込めて……108の世界に消えた」


「なら、オーブには意思があってしかるべきじゃ。妾は、オーブをずっと持っていた。妾は退屈していたが、妾と一緒だったオーブも、退屈していたかもしれない。じゃが、1人でいるよりはましじゃろう。前の世界では、巨大なゴリラが持っていた。さぞかし、楽しかったじゃろうな。この世界では……知恵を持つ者もいるが、オーブが現れ、近くで知恵を持ったのは、非常に気の長く、感情を持っているかどうかも疑わしいサンゴたちじゃ。あまりにも退屈だったため……別の物になった可能性はないか?」


 ベティアは俺を見た。


「最初の世界では、人間を喰らう魔物が持っていた。次の世界では、持っていたのは魔王だ。自分が別の何かに変わるほど退屈したりは、しなかっただろうな。じゃあ……オーブは意思を持って、別の何かに変わったのか? じゃあ……どこに行った?」


「心当たりならあるじゃろう。オーブが現れたのと同時にこの世界に来たと言った奴がおる。暇つぶしが好きだが、何万年も何もせずとも耐えられる」

「ベティアのことか?」

「妾のはずがあるまい」


 ベティアの視線が、小ドラゴンに向いた。


 俺は、魔法の石板から拳銃を取り出して、小ドラゴンに向けた。

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