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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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155 海中移動

 ぬめぬめとした巨大生物の中は、やはりぬめぬめとして、息もできなかった。

 飲み込まれ、視界が真っ暗になった。

 突然、ぼんやりと明るくなる。


「ソウジ、無事か?」


 ベティアに声かけられ、背中を叩かれた。

 俺は盛大に咳き込んでから、呼吸ができることに気づいた。


「……ここはどこだ? あれの腹の中か?」

「そうじゃな。奴には、胃というものがないらしい。ただ体の中というのが正解じゃろう」


 時々ベティアは妙に現代的な知識を持っているのが気になるが、世界の支配者格だったのだからだと言われるのがわかっているので、俺は尋ねなかった。

 周囲を見回すが、俺の少し前で光っているのが、どうやら金色の小ドラゴンだったようだ。

 口からぼんやりと光ったものを吐き出している。


「おお。起きたか」


 小ドラゴンは言うと、口を閉ざした。口を閉じても、本人の体の色ではなく、周囲がぼんやりと光っている。


「ああ。吐いているのはなんだい?」

「破壊のブレスだ。一度放つと、しばらくは影響が持続する」

「……破壊? あの大きいのの、体の中だろう。何を破壊しているんだ?」


「奴の中に入っただけで、ソウジは死にかけた。体の中に空気がなかったのは、奴も知らんことじゃ。奴の体の99%が水分じゃ。分解すれば、酸素と水素で構成されたものは大概作り出せる」


 言ったのはベティアだ。俺は首を傾げた。


「どうして、ベティアはそんなことを知っている?」

「妾が先に目覚め、ソウジが起きるまで待っておった。数百年以上じゃろう。情報交換ぐらいするわい」


 ベティアが言うと、小ドラゴンが長い首を上下に振った。

 俺は、狭い空間にいた。俺たちがいる場所は、全て小ドラゴンによるブレスで破壊された場所だとわかる。

 少しずつ、狭くなりつつある。

 壁全体がほんのりと光っているため、破壊された跡が痛々しい。


「破壊したあと、どんな物質を作るか、指定できるのか?」

「そうでなければ、破壊する意味がないだろう」


 小ドラゴンは当然のことのように言うが、俺には簡単にできることとは思えない。


「……空気にブレスを使って、一酸化炭素を作ることはできるか?」

「簡単だ。だが……ソウジが死ぬぞ」

「聞いてみただけだ。やらなくていい」

「ソウジは簡単に死ぬからのう。よくもまあ、ここまで生きてこられたものじゃ」


 ベティアがしみじみと言った。俺も同感だ。


「こいつは、痛くないのか?」


 俺は、ほぼ水分の巨大生物の体を手で叩いた。体の中で破壊のブレスを吐かれたのだ。苦しんでのたうち回っているかもしれない。


「苦痛を感じる神経がないから、心配なかろう」

「ああ。苦しければ、もっと暴れているだろう」


 俺は納得した。本当に、ただ巨大なだけの原生生物なのだ。

 俺が落ち着くと、ベティアが俺の体によじ登ってきた。


「ここにおれば、ソウジがいつ死にかけてもすぐにわかる」

「じゃあ、おいらはここだ」


 小ドラゴンは言うと、俺の頭の上に飛び乗った。


 ※


 しばらく俺とベティア、小ドラゴンは巨大な生物の体内で揺られていた。

 小ドラゴンのブレスはかなり範囲が限定されるらしく、口から1メートルほどの範囲までしか効果がないらしいことを聞いた。


 ただし、小ドラゴンの体には影響が少ないらしく、何度も繰り返し吐くことができるようだ。

 場所がだんだん狭くなると、再び小ドラゴンがブレスを放ち、近づいてくる巨大生物の肉体を破壊して、空気を供給してくれた。


 ※


 長い時間が経過したが、俺が凍りついていた時間に比べれば、ごく短時間ということになるだろう。

 水の塊のような不思議な生物の体内に入り、惑星をほぼ半周する。

 惑星の大きさまではわからないが、かなりの速度だろう。


 俺の体感で、一月ぐらいでたどり着いた。

 その間、ベティアはみじろぎもせずに時間を過ごし、小ドラゴンは定期的にブレスを吐いた。

 着いたと判断したのは、魔法の石板のマップ画面で、俺の位置とオーブの位置が重なったからだ。


「ここだ」

「何もないぞ」


 俺が言うと、ベティアがすぐに反応した。

 ずっと黙ったまま、動くことすらしなかったが、意識はあったらしい。

 元々生きていない存在の感覚はわからない。

 ベティアは、長い爪で近くの半透明の壁に爪を突き立てた。

 生物が止まるのがわかる。


「何もないかどうかは、行ってみないとわからないな」


 小ドラゴンがみじろぎをしたのがわかった。


「行くって、どこに? 目的地はここじゃろう?」


 ベティアが唇を尖らせる。

 海の中だ。周囲は暗い水がたゆたっているだけで、何もない。

 この辺りの海域には、魚もいないらしい。


「たぶん、上だろう。でなければ、下だ」


 俺は言った。オーブは、竜王の魂だ。異世界に大きな変革をもたらす。

 いままでの異世界で、勇者か魔王に連なる者が持っていることが多かった。

 偶然ではないだろう。


 オーブを持っていたから特別な存在になったのか、特別な存在がオーブに価値を見出したのかはわからないが、オーブが意味もなくただ水中にあるとは思えなかった。


「どっちから行く?」

「海底には何もないな。砂の中に埋まっているならわからないが」


 小ドラゴンが首を伸ばし、海底を見ていた。


「……オーブは、何もなくただ埋まっているほど可愛いものではないと思う。上に行こう」

「ソウジ、その言い方だと、上にあったとしても、ただでは済まないぞ」

「ああ。そうだろうな」


 ベティアの言うとおりだ。

 だが、俺は不安に思っていなかった。

 ベティアと小ドラゴンがいる。

 そのことが、俺を勇気づけていた。


「上じゃ」


 ベティアの呼び声に応えるように、俺たちを飲み込んだ巨大生物が移動する。

 正直に言って、俺にはどちらが上か下かもわからなかった。

 ただ、明るい方向に動き出した。

 それが途中で止まる。

 巨大生物が歪むのを見ることができた。


「どうした?」

「天井があるな」

「……氷か?」


 俺が尋ねる。

 海の上に蓋があるなら、それは氷だろうと俺は考えた。


「いや……陸地じゃな」


 ベティアが否定する。


 どうやら、オーブは海上に浮かぶ大陸の上にあり、俺たちはその下から接近して、阻まれたということらしい。

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