懐かしい世界
ここまで来たら、先に進むしかないよな、ユーゴは自分にそう言い聞かせ、M1号を慎重に先に進める。
防御魔法に、体力強化魔法、視力強化魔法と、人の目も無いので惜しげなく使っている、よほどの事がないかぎり大丈夫だろう、
いざとなったら亜空間に逃げ込めばいい、そう思いながら油断なく進む。
(前方に円形の広場があります)メルマガ報告してくる、
程なく、通路の先にその広場が見えて来る、真っ暗ではなく、所々に非常灯のような明かりが見える、ゆっくり中に入るとM1号を静かに停止させた。
慎重にM1号から降りる、床は金属製だ、円状の空間の真ん中に、筒の様な物があり、扉がある。
エスカレーターの入り口の様に見えた。
ダンジョンの吹き抜けにも、エスカレーターの残骸があったのを思い出す、そう言えばこの空間はダンジョンの吹き抜けの穴と同じぐらいの広さだ。
メルマが照明を消す、非常灯のような明かりのおかげで、暗いながらも周りは見通せた、
この時、灯りの中に監視用の小型カメラがある事にユーゴは気が付かない、気が付いてるはずのメルマも何も言わなかった。
不気味な静けさにユーゴは、ふーっと息を吐く、
度胸を決めてエレベーターらしき物の扉の前に立つ、するとスーッと扉が開いた、
いつもなら注意喚起してくるメルマが何も言わない、だが、ユーゴは緊張でその不自然さに気が付かなかった。
よし、と気合を入れて扉の中に入る、明るい照明が中を照らし、天井にはいくつかの丸い穴が開いていた、それ以外は普通のエレベーターの様に見える、壁には階層を知らせるパネルまである。ただし操作するボタンは無かった。
扉が勝手に閉まり、少し体が重くなったように感じた後、通常に戻った。上昇してるのが判った、
メルマはユーゴの傍らで無言で浮いていた、緊張の眼差しで天井を見上げる。
静かだったエレベーターの中で、突然、ユーゴは耳鳴りを感じる、初めはキーンとかん高い音が聞こえる程度だったが、それが徐々に大きくなる、
ユーゴはしまったと思い、亜空間への扉を開けようとするが、その時にはもう体の自由が効かなかった、
耳鳴りで何も思考できなくなる、その時天井に開いていた穴から、蜘蛛のような形をした機械がいくつも出てきた。
無数の蜘蛛のロボットがユーゴに取り付いて来る、体の自由が効かない。
メルマが視界に入るが、メルマはただ浮いているだけだった、ユーゴはそのまま気を失った。
目が覚めると、ユーゴは見覚えのある部屋でベットの中にいた。
それは、懐かしい元居た世界の自宅の自室だった、
ダッダッダッ、と誰かが階段を上る音がする、自室の扉が開くと、
「お兄ちゃん、もう起きないと遅れるよ」それは間違いなくユーゴの妹あかねだった。
「朝食出来てるから、はやく降りてきて」そう言うとセーラー服のあかねは階段を下りていく、
どうなってっる、俺は地球に、元居た世界に戻ったのか、
起き上がると、幾分頭がぼーっとしている、鏡で自分の顔を見てみると、大学時代の自分の顔があった、
とにかく確かめないと、そう思い服を着て自室のある二階から一階に降りる、
「おはよう」そう声を掛けてきたのは、死んだはずの母親だった。
「どうしたのそんな顔して、はやく顔洗ってきなさい」そう言われ洗面所に行く、
洗面所の隣のトイレからでてきたのは、父親だった。
「父さん」思わず声を掛ける、
「ん、おはよう勇吾」そう言ってあくびをかみ殺して食堂に向かう父親、
それは、ユーゴが大学生の頃、当り前にあった日常だった。
なんだっていうんだ、両親が死ぬ前にタイムスリップさせて、ここからやり直せという事なのか、
ユーゴは混乱していた、
その時、玄関のチャイムがなる、
「アイーダちゃんが迎えに来ちゃった、あたしもう行くね」あかねがそう言って玄関を開ける、
いま、なんていった?
「おはよう」そこに立っていたのは、間違いなくセーラー服を着たアイーダだった。
「あ、お兄さんおはようございます」アイーダはそう言って、ユーゴにペコっと頭を下げた、
「やだお兄ちゃん、そんな寝ぼけた顔でつったってないでよ、アイーダちゃんビックリしちゃうでしょ、じゃ行ってきまーす」
あかねはそう言って玄関の扉を閉めた。
これは、夢か、夢を見てるんだな、
ユーゴはそう思い頬をつねる、・・痛かった。
痛さを感じる夢なのか、ユーゴの混乱は増していた、ただタイムスリップしただけじゃない、今、確かにアイーダが居た。
落ち着こう、・・・そうだ、とりあえず朝飯を食おう。
久しぶりに食べる、母親の作った朝食は上手かった、間違いなく母親の味だった、
一度、異世界に飛ばされるというとんでもない経験をしているユーゴは、少し落ち着くと、こうなりゃ何でもありだ、と開き直っていた。
学生時代に送った日常そのままに、最寄りの駅まで歩き、電車に乗って大学に行く、
季節は初夏、キャンパスの木々が若葉で輝いている。
向こうから周囲の注目を浴びながら、ひときわ目立つ銀髪をなびかせ、見た事のある美女が歩いて来る、
「ユーゴさん、おはようございます」そう挨拶してきたのは、見間違える事も無い、ユイナで間違いなかった。
「おはよう」もはや驚くことも無く自然にそう返す、
当たり前の様に横を歩くユイナ、その私服姿は可憐で周囲から羨望の眼差しが飛んでくるのを感じる。
教室に入ると、みゆきがこっちこっちと手を振っている、
これは、もしかして二人共俺と同級生という事なのか、ユーゴは深く考える事をやめて、次は何が来るんだ、と構えていた。
授業が始まり、入って来た教授はドイルだった、そう来たかとユーゴは呆れていた。
こうなるとバース達はどうなってるんだろう、変な期待までしてしまっていた。




