ダンジョン最深部調査依頼
インターキに戻って来てから、その桁違いの魔力について仲間の質問攻めに合っていたユーゴは、うんざりして地下にある自室に立てこもり、今後どう動こうか考えていた。
成り行きとはいえ、ファントラス王国で力を見せてしまった以上、イスタン、インターキの都市国家連合の抑止力として、雲隠れする訳にもいかなくなってしまった。
だからといって、面倒な政治や外交に関わるのも御免だ。
魔族のベゴールが言っていた、東の森の事も気になったが、言われた通り調べに行くのは負けた気がして調べる気になれなかった、
「それに、また会いたく無いしな」と独り言ちする。
ベゴールの「それを知ったら、また会おう」という言葉を思い出し、気分が悪くなった。
なんとか今まで通り、お気楽に暮らしていけないだろうか、
「メルマ、なんかいい方法は無いかなあ」とユーゴは、答えを期待するでもなくメルマに話しかけた。
(時空魔法による、亜空間の有効活用を推奨)とメルマが言う、
「ん?それってこの部屋もそうだよな、もっとこれを活用しろと・・どう言う事?」何をしろとメルマが言っているのか理解できず聞きなおす。
(まず、ショートカットの出入り口を増やし、移動時間を短縮、その時間を利用し、気の合うお仲間の出入りを許可し、外界に左右されずに快適に過ごせる空間を作ります、マスターの魔力なら亜空間は無限に作り出せます)と言って来た。
ふーん、要するに理想のバーチャルの世界を作り出し、逃げ込むという事か。
まあ、余暇に利用する分にはいいだろうが、そこにひき籠るようになってもなあ・・・、
前半の出入り口を増やして時間短縮はいいかもしれないな。
よし、手始めはドイルさんの小屋にしよう、ユイナさんもお兄さんと会いたいだろしな。
ユーゴは、しばらくの間、目立たないように亜空間の出入り口を増やす事に専念する事にした。
作ったばかりの亜空間の出入り口を使って、ドイルの小屋にユイナを伴って来てみると、ドイルもカイの魔法の訓練に来ていた。
お茶を飲みならドイルが
「時空魔法をここまで使いこなすようになったか、たいしたものじゃな」と言ってくる。
「お蔭様で、で、ドイルさんはどの位出入り口を作ってあるんですか?」とユーゴは聞いてみた、
「ううん、数か、いくつあるかのう、数はいくらでも作れるからな、あまり意味は無い、大切なのは何処に行けるかじゃ、ワシは魔界にも入り口を持っておるぞ、ワハハハ」と笑っている。
「ドイルさんも、昔はかなり鳴らしたんでしょ?、どうやって今のように一線から引く暮らしが出来るようにしたんですか?」
ユーゴは、平穏そうに見えるドイルの暮らしぶりが羨ましかった。
「なあに、しばらく大人しくしとればいいだけの事よ、世の中が平穏ならそれで大丈夫じゃ」とドイルが答える。
「平穏ならね」とユーゴは肩をすくめた。
二人がお茶を飲んでるテーブルの先では、久しぶりに会った兄妹が、激しい模擬戦をしていた、時折とんでもない爆発音もする。
龍人って、見掛けに寄らず戦闘部族だよな、とユーゴはのんびりお茶を飲んでその戦いぶりを見ていた。
ユーゴの作った亜空間を通って、みゆきが姿を現した、ユーゴは自分の部屋以外の亜空間は仲間たちに開放していた。
「ユーゴさん、ギルドから呼び出しよ」と言って来る。
「そろそろ来るだろうなとは思ってたよ」とユーゴは頭を掻きながら立ち上がると、
「じゃ、俺は行って来る」そう言ってスッと亜空間に消えていった。
残ったみゆきは、ドイルに「お茶入れなおしますね」と言って新しいお茶を入れに小屋に入って行った。
ギルドの応接室前の廊下、最奥の突き当りからユーゴがスッと姿を現す、
応接室の扉をノックして中に入ると、副ギルド長のスザンヌがユーゴを見て緊張した面持ちで立っていた、
「あ、ユーゴさん、ご苦労様です、今ギルド長をお呼びしてきますから、掛けてお待ちください」と言って慌てて部屋を出て行った。
明らかに依然と違う様子に、ユーゴは頭を掻いて、やれやれとため息をついていた。
「やあ、ユーゴ君、先日はご苦労様だったね、帰りは随分派手だったそうじゃないか」
ギルド長フランクは応接室に入って来るなり、機嫌よくそう言って来た。
この人は、依然とまったく変わりない態度だった、以前はその態度にイラつく事もあったが、今は変わらぬ態度にホッとするユーゴだった。
「おかげでね、スパンク王国からは詫び状、ファントラス王国からは友好条約の締結の話が来ている、それに動きの怪しかったバルデンは侵攻をあきらめた様子でね、今は東側の防御の強化に大わらわのようだ」ニヤっと笑ってユーゴを見てきた。
「ああ、それは良かった、魔力がバレたついでに抑止力になればと思ったんですが、効果はあったようですね」とユーゴは嬉しく無さそうに言った。
「連中、今は大慌てのようだよ、魔族が姿を見せた上に、君の存在だ、そりゃあ慌てるよな、奴隷制度についても喧々諤々のようだよ、ただね、教会は逆に態度を硬化させてるそうだ、奴隷は教会にとって資金源の一部だったからね、引き締めに躍起のようだよ」
まあ、そうなるだろうな、ユーゴは想定内とうなずいた。
「それでだ、先日の評議委員会で、こちらとしてはしばらく様子見としゃれこむことになった」と意味ありげにユーゴを見て来る。
来た、この人がこの目をするときは、何か企んでる時だ、ユーゴはそう思い、冷めた目でギルド長を見る。
「君には、しばらく大人しくしててもらいたい、というのがイスタン、インターキ都市連合評議会からのお願いな訳だ」
それは願っても無い、とユーゴが思っていると、
「でもね」と楽しそうにギルド長が続けた。
「君のような逸材が、ただ遊んでたら勿体ないじゃないか、そこでだ、君にダンジョン最深部の調査を依頼したい」
うん?聞きようによっては、ダンジョンの奥に厄介払いしたい、と聞こえるなあ、とユーゴが半目でギルド長を見る。
その目を見て、何か察したのか、
「いや、他意は無いよ、純粋に調査してほしいのさ、君の見立てだと人工物に見えるそうじゃないか、それに、水面下に横穴があったとか、ギルドとしてもその辺りは把握しておきたいのさ」と言って来た。
ユーゴも、あのダンジョン最深部には多少の興味があったので、まあいいかと思っていると、
「何かいるものがあれば言ってくれ、報酬も用意するから」と頭を下げてきた。
「期限なしでいいなら引き受けますよ」とユーゴが言うと、
「ああ、納得いくまで調べてくれ」と頭を上げて、ギルド長フランクはニコッと笑った。




