謎の言葉
ガスティー商会の船が桟橋に着くと同時に、十数人のファントラス王国の兵士が表れる。
ユーゴとグラン、それにイスタンの警備長もいた。
ユーゴは、今回の件で、俺の移動魔法は結構知れちゃったなあ、と頭を掻いていた。
ファントラス王国の兵士は、船に乗り込むと
「東の国ヤマタラ国の民を拉致した疑いで取り調べる」と言って船員たちを捕らえていった、
ファントラス王国では、異教徒を奴隷として拉致しても罪にならない。
だが、グランは今回ファントラス王国と敵対しているスパンク王国が関与している事を利用して、東の国と友好関係を築くことの有用性を解き、ファントラス王国の兵士を動かしたのだ。
ユーゴは、さっと荷室に入ると、物置部屋のみゆきとみそのに用意しておいたマントを渡した、
二人は、両腕で体を隠しながらそれを受け取ると、ホッとした様子で「ありがとう、一生恨むところだったわ」と言っていた。
みゆきとみそのは、そのまま被害者として一旦ファントラス王国の兵士に保護された、そこで被害者として調書を取られることになる、受け答えはほとんどみそのがした。
宣教師が後ろ手に縛られ船から降ろされて来る、
みゆきの魔法のせいで明らかに様子がおかしい、目は光が無く虚ろな状態だ、
「迎えが来ているはず、その者達に聞けば事情が判るはずだ」と力なく話した。
すると、宣教師は急に苦しみだした、
ユーゴは、しまった、と呟き、周り見回す。
「お、お助けを・・」そう言うと宣教師はガタガタと震えだし、泡を吹いて倒れてしまった。
魔力のオーラを感じて、ユーゴが振り返ると、ガスティー商会の船の屋根の上に、理知的な顔立ちの、しかし頭にするどい角のある男が立っていた。
「これはこれは、いつぞやダンジョンで私のカワイイ魔物を倒してくれた御人ではないですか」
男がユーゴに向かってわざとらしくそう言った。
「ダンジョンで魔物?」ユーゴはどれの事だろうと考えて、あ、ユイナさんと倒したあれか、と思い当たった。
「私の名はベゴール、大魔王ルタン様の復活を願うものです」男はニヤッと笑ってそう名乗った。
「おまえが黒幕か?、ダンジョンで冒険者をさらったのもお前だな、何の為にそんな事をしている?」
とユーゴは魔族を前にしても自分があまりビビってない事に驚きながらそう聞いた。
「別に今回の人さらいに意味などないのですよ、私は人間に混乱と争いが起きる事を望んでいるだけです、まあ、ダンジョンの方はちょっと実験をさせてもらいましたが」とベゴールが言う、
その瞬間、ユーゴの後方、かなり離れた場所から、音もなく魔石弾がベゴールに向かって放たれた、
それは、魔石銃でアイーダが放った物だった、隣にはハンスとユイナもいる。
ベゴールは放たれた魔石を、簡単に右手で掴むと、
「素晴らしい、実に素晴らしい」と心底嬉しそうに言って笑っていた。
ベゴールの魔力が高まって行く。
ユーゴは、ただ事ではないベゴールの魔力を感じ、自らの魔力も上げていく、防御力、攻撃力、共にベゴールと同等の力になるまで魔力が高まった。
もの凄い魔力が二つ、人々の前で対峙していた。
(警告、ここでこの魔族と戦うと、この港及び街は崩壊する可能性があります)とメルマが警告してきた。
周囲では、二人の魔力のオーラに人々が愕然としている、中には腰を抜かし尻餅をついてる者までいた。
それは、ユーゴの仲間たちも例外では無かった、自分達とは違う領域の、二人の桁外れの魔力に圧倒されていた。
そんな様子を、桟橋の少し離れた物影から見ている男がいた。
「あれは、私でも止められませんよ、どうしたらよいのでしょう」と胸の前で手を組み、怯えて震えている。
細身で長身の男は、一目で宗教関係者と判る神父服を着ていた、だが、かなりみすぼらしい。
そこに丁度通り合わせた兵士が「おい、お前、あの船に乗ってた宣教師の仲間だな」と剣を向けながら聞いてきた、
「とんでもない、私は全く無関係です」と両手を体の前で降りながら言う。
「ちょっと話を聞かせてもらおう、こちらに来い」と兵士が連れて行こうとすると、
何処から現れたのか、12才ぐらいの銀髪の綺麗な顔をした少年が、
「この人は関係無いよ、教会とは違う説教をしている人だから」と兵士に向かって言った。
すると兵士の目の光が消え、無表情になり、「そうか、判った」と言ってその場を立ち去った。
神父服の男は、ホッとした表情を見せ、
「ありがとうございます、で、どちらさま?」と少年い向かって言った。
「ふふ、それは秘密です、きっと知らない方がいいですよ」とニコっと笑って少年が答える。
「え、そうなんですか、では教えてくれなくて結構です」と細身の男はおどおどしながら言う、少年がただ者ではない事を察していたのだ。
「それに、あっちの二人、争いごとにはなりませんよ、安心してください」と少年が続ける。
神父服の男は、不思議そうな顔で少年と魔力のオーラで包まれた二人を交互に見ていた。
船の上でベゴールはユーゴの魔力見定めると、「やはりな」と呟いていた、
「おまえは何が目的で動いているのだ?」
とベゴールがユーゴに問いかける。
自分の方が色々聞こうと思っていたユーゴは、突然逆に問いかけられて戸惑いながら、
「なにって、理不尽な目に合ってる人を助ける為に動いている」と答えた。
「ほー、その為にあの魔石銃を使い、あの海の中にある乗り物を使ったというのか?」ベゴールが感心したように言う、
「そ、そうだ」質問の意図が判らないままユーゴが答えた。
「それは素晴らしい、素晴らしいぞ、・・だが、お前はまだ何も知らないようだな」とベゴールが言う
「知らないって、何をだ、おまえの言ってる事はよく判らんぞ」とユーゴが戸惑いをそのまま口にした。
「ふーん、ならば、一度お前たちが東の森と呼んでいる場所を良く調べるといい、この世界の成り立ちがよく理解できよう」
とベゴールが言うが、ユーゴはやっぱり何のことかさっぱり判らなかった、
「東の森?この世界の成り立ち?」
「そうだ、それを知ったならまた会おう、フフフ」そう言うと、ベゴールはあっさりスーっと消えてしまった。
なんなんだよ、まったく、ユーゴはよく判らないまま、魔力を通常に戻して振り返った、
そこには、目を見開き、口を開けたままのアホ面が並んでいた。




