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SAMONNER  作者: churunosu
13/14

妖刀小町

長くしました。

「アメルさん!」


目を開けたらいきなりアメルさんがいて驚く。

石でできた床は冷たく、朝なのかちいさな窓からよく明け方に鳴く鳥の鳴き声が聞こえる。


「ここはどこですか?」


一方向の壁と小さな窓には鉄格子がはまり、自分の手にはめられた手錠が壁につながれている。

聞かなくてもわかるがここは・・・


「牢屋です。昨日の朝に私も閉じ込められました。

メイドの人がハヅキさんは騎士だからって手錠を。」


ふと身の回りを見ると、剣と腰にあったウエストポーチが取り上げられている。

二人以外は牢屋にいない。






「くっそ・・・。」


さっきから感じていた妙な気配の正体に気づく。


このリスか。


俺がサーベルで刺し殺すとパァッと光って消えてしまう。

屋敷からつけてきたのだろうか、メイドの中に召喚士がいるのだろう。

最後の光は守護魔獣がやられたときに発する光だ。

約一日間、その召喚士は守護魔獣を召喚できなくなる。


学院へ行ったが、やはりハヅキは来ていなかった。

不毛なごっこ遊びで貴重な時間をつぶすわけにはいかない。

基本魔力操作の講師に見つからないよう、足早に学院を後にした。


「どうしますか?」


思いつくのはどうにかしてあのデブの弱みを握ることくらい。

取り戻すことは簡単にできる。

エクリプスをけしかければ3分であの屋敷は陥落するだろう。

だが理由なくやったとなれば、俺たちは学院にはいられなくなる。


宿に戻ると女将のコロナさんが「学校はどうしたんだい?」と聞いてくる。

体調がすぐれないという(むね)の返答を返す。

帰ったら玄関に金貨の入った袋が落ちていた。

ご丁寧に「アイゼン」の印付きだ。

舌打ちをしてベッドに倒れる。

いい案が何も考えつかないまま、俺は眠ってしまった。




「いくぞ。」


俺は覚悟を決める。

結局何も思いつかず、眠っただけだったが覚悟は決まった。

屋敷を捜索するのが手っ取り早い。


「はい!」


エクリプスもどことなく嬉しげに返事する。

もう追われるようになってもいい。

知らない国まで3人で逃げ延びてやる。

何よりこれまで短い期間ではあるが、一緒に戦ってきた唯一のパーティーメンバーである。

これ以上黙っていることはできなかった。




最後に祈っておこうと思い、桜の残骸の残る公園へと足を向けた。

真っ黒の炭を片付けようとするものは誰もいない。

桜の前まで来る。

夜になると桜をライトアップする為に取り付けられたライトの光は、なにもない空間を照らし出している。


手を組んで無事に助け出せることを二人で祈る。


行くか。


去ろうと立ち上がったとき、桜の残骸の隙間でなにかがキラリと光った。

これは・・・刀?

所々がすすで汚れているが、雨のおかげだろう、

柄巻(つかまき)・・・だっただろうか?

とにかく柄に巻いてある皮のような部分も無事で、ほとんど新品同様だ。

漆黒のさやに、桃色の柄が()える。

木の中に取り込まれ、癒着していてなかなかとれないそれを、


俺は無理矢理引っこ抜いた。






何やら外が騒がしい。

騒ぎのせいかアメルさんがつれていかれた。

窓が高いところに取り付けてあるせいで、外で何が起きているのかわからない。


レイジさん・・・。


脳をよぎったのは小さな助けを求める感情。







ドガァァァァァン!


すさまじい音で門番が壁に叩きつけられる。

死んでるんじゃないだろうか・・・?


「大丈夫です!人族はこの程度では死にません。」


竜人族(おまえ)が言っても説得力ねぇよ・・・。

門番のお姉さんの元気な回復を祈りつつ、俺はエクリプスが開けた扉をくぐる。

瞬間!


ダンダンダンダンダンダン!


「なッ!」


先に入ったエクリプスが、6丁のリボルバーの集中放火を浴びせられる。


銃。

軍でしかお目にかかれない高級品だ。

その小さなフォルムからは想像もできない威力と速度で鉄塊を吐き出す

この時代の最先端を行く武器である。


同時に、いきなり強烈な光が浴びせられた。

目がなれてくると、そこには30人ほどの黒服の屈強な男達。


「ほう、見たことのない武器ですね。

ギリギリ目で追えるレベル・・・でしょうか?」


予期していたのかはたまた、見てから発現させたのか。

防御魔法で全弾を受け止めるエクリプス。

何より一枚の障壁が、6丁×6発の合計36個もの弾丸を受け止めている。

段違いの魔力量に、その場にいたエクリプスを除く全員が目をむく。


しかしそこは警備に雇われた男達だ。

瞬時に入れ替わり立ち替わり、引き金を引きまくる。


「魔力を消費するまでもない。」


エクリプスはそう呟いて手に持った柄の上下両方に刃の付いた槍、ダブルセイバーを2本の片手剣に切り替え、目にも留まらぬ早さで振るう。

刃で弾いているのだろうか?

エクリプスの前で無数の火花が散る。

当たらないと判断しているものは弾かないらしく、念のため目の前に発現させた防御魔法に弾丸が1発突き刺さりヒビを入れる。

そして跳弾が庭の石像や石畳、あげくの果てには引き金を引いた男達にまで降り注ぐ。

跳ね返ってくることを気にも留めず、引き金を引き続ける黒服の男達。

女性の石像から腕がゴトリと砕け落ちる。


何故だろう?

みるみる間にエクリプスの機嫌が悪くなって行く。


「はぁ、そろそろ飽きてきました。

もう少し面白いことはできないのでしょうか。」

「飽きた・・・だとっ!?」


その発言以上に面白いことはできないな。

少なからずそう思ったものがこの場にいる中に居ただろう。


「少し、遊びましょうか。」


チラチラと上を見ていた者もいたが、エクリプスが手のひらを頭上に掲げた事で全員が気づいた様だ。

皆が撃つのをやめ、彼女の頭上に見いる。


彼らが撃った何発もの弾丸が、エクリプスの頭上に3重の円を描いていた。


エクリプスは掲げた手のひらをピンと立て、タクトを振るう様に腕を大きく一回転させる。

弾丸で出来た三重の円が彼女の前へと移動する。

大中小と3つ並べられた丸い円は、いつしか渦巻き上になって止まっている。

危険を察知した男達が、次々に木の裏や噴水の影に避けようとする。

しかし時すでに遅し。

三日月のようにニヤリと笑い、彼女は告げる。


砲撃開始(ファイア)。」


中心にあるものから順番に時間差で発射される弾丸が、声すらあげさせず男達を襲う。

逃げ惑う男達をその濃密な弾幕は逃さない。


シンと静まり返った静寂が、俺たちに勝利を告げた。




館の扉の前で、俺は立ち止まる。

館の窓から誰かがのぞいていた気がしたからだ。

先程の戦闘で砕け落ちた石像の拳を重力魔法で浮かべ、その窓へと投げ込む。

パリィン!

という音と共に、窓から呻き声が上がる。


ニヤリと、


俺は笑って中へと入った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



風呂上がりに窓の外を見ると、ちょうどあの二人組が扉をくぐって集中砲火を浴びせられていた。

ニヤニヤしながら続きを見て見るが、やつらはなかなか倒れない。


だんだん俺の機嫌が悪くなって来る。

あげくの果てには倒されやがった。使えないゴミどもめ。


ジリリリリリ!


机の電話が鳴る。

俺は乱暴に受話器を持ち上げ、話す。

それにしてもこんな時間に、いったいどこのどいつだ?

今は午後11時である。


「こんな時間に電話なんて、ろくな話じゃないと思うがね。」

「いえいえ、警備会社のものです。どうでしょう?我々の社員達は?」


警備会社などといっているが、正体は知り合いのマフィアから雇ったヤクザである。

金貨100枚も払ったのに一瞬でやられやがって。

ろくでもない奴がかけてきたな。


「ああそうだな、賃金どおりの彼らの働きには驚かされたよまったく。」


苛立ちまぎれにそう言う。

本当に一瞬で倒されて、心底驚かされた。

無論、皮肉である。


「そうですか、では契約の延・・・」

「出直してこいッ!」


ガチャッ!

ツー、ツー、ツー、ツー、


・・・長はいかがでしょうか?

とでも言おうとしたのだろう。

皮肉が通じないことにさらに腹が立ってくる。


窓の外を見る。

黒服たちは全滅させられ、地面にうずくまっている。

奴らは?

そう思い、下を見下ろす。

屋敷の扉の前で、奴がこちらを見上げていた。


パリィン!


突如窓ガラスが割れ、ガラス片と共に何やら白いものが目の前に突っ込んでくる。


ゴフッ!


俺の顔面に、大理石の拳が突き刺さった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



誰かが階段を下りる音が聞こえる。

真っ暗な牢屋の明かりは、窓から漏れる月の光のみ。

闇に慣れた目が、駆け下りてきた人のシルエットをつかむ。


「レイジさん!」


思わず叫ぶ。

私の声を聴くと、エクリプスさんが牢屋の扉を素手で捻じ曲げる。


「大丈夫か!」


レイジさんが中に入ってくる。

ああ、また助けてもらったんだ。

顔が熱い。目からあふれた水滴が頬を伝う。

牢の床にぽたぽたと落ちていく。

不思議とふがいなさは感じなかった。

助けてもらえたうれしさでいっぱいだった。


「うっ、ぐすっ、・・・」

「泣くのは後にしてくれ。ここを出るぞ。」


レイジさんが頭をなでる。


「スン、はいっ!」




「エクリプス、手錠を外してくれ。!?」


泣いているハヅキをなだめつつ、エクリプスのほうを振り向いた俺は目を疑う。

全生物の中では最強と言われた彼女が、弱弱しくうずくまっている。


「すいません、主、少し油断、しました。」


そう言い残して、光とともにエクリプスは消えていった。


これから約24時間、エクリプスは召喚できない。

少々、まずいことになったな、

不思議と、落ち着いていた。

不謹慎にも、非日常のスリルが俺を楽しませているのかもしれない。


「レイジさん・・・」


心配そうにハヅキが聞いてくる。

手錠がかかったままのハヅキをかばいきれるとは思わない。

だからと言ってハヅキを見捨てることは論外だ。

俺にピッキングはできない。

残された方法は・・・俺が使える転移系の魔術。

召喚魔術


これしか方法がない。意を決してハヅキに聞く。


「ハヅキ、あのだな、俺と、契約してくれるか?」


ハヅキには悪いが、これしか方法がない。

なぜおれがハヅキに対して悪いと思ったか、

それは契約の方法が・・・

「いいですよ。」ハヅキはフフッと笑い、俺に


キスをした。






「待ち伏せ・・・か。」


牢屋のある地下室から出てきた俺はいきなり銃を向けられていた。

地下室の入り口を取り囲むようにメイドたちがリボルバーを向けている。

メイドの一人が話しかけてくる。


「あら、あの竜人の方はどうなさったのでしょうか?」


白々しい。


「いったい何をした?」

「滅竜草、ドラゴンにとっては劇薬らしいですね。

大昔はいけにえの人間にこれを大量に食べさせてから、ドラゴンにささげたとか。

煙にして屋敷中に散布していたのに中々効かず、しかしこれでも早いほうなのですね。」

「ご主人様よりお話があるそうです。」


その隣のメイドが俺と彼女たちとの間に、1つの立方体の宝石を投げる。

通話用の魔石だ。

二つセットで使う魔法道具で、相手の表情なども見れたりする。

魔石がパァッと光り、その直上にクラッドの顔が映し出される。

鼻がひしゃげた無残な顔に俺は話しかける。


「こんなところからわざわざお見送りとは、門の前でよかったんですよ?」

「ハッ、笑えない冗談だ。みすみす逃がすとでも?」

「そうだな、俺もまだここに用事がある。

アメルをどこへやった?」


ハヅキからアメルもとらわれていることを聞いた。


「ここまで来れば教えてやろう。」


チッ、人質のつもりか。


それにしても、なぜあんな顔になっているんですか?

ハヅキが俺にひそひそ聞いてくる。

さあ、誰かが打ったロケットパンチでも命中したんじゃねぇの?

オレナニモシラナイ。


「さて、最期に言い残すことはあるかな?」


そろそろ魔石の時間が切れるのだろう。

この魔法道具は使い捨てだ。

その割には、目が飛び出るほどの値が張るのだが。


「最期だって?」


俺はその潰れたアンパンの様な顔を見て、ニヤリと笑いこう言ってやった。


「おいおい、冗談はその顔だけにしてくれよ。」


隣でハヅキがブフッと、吹き出す。

いまだクラッドの顔は穏やかだ。

・・・いや、目が笑ってないな。すげぇ怖い。


怒りを隠した穏やかな表情で、デブはこう告げる。


()れ。」


メイド達の一斉射撃。

だが俺たちには当たらない。

なぜなら今メイド達の目の前にたっているのは、()だから。






時間は少し戻り、


「召喚。」


初めてなのでやや緊張しつつ、ハヅキを俺の目の前に移動させる。

服などハヅキが持ち物だと思っているものは、そのまま転移させることができる。

召喚魔術はかなり便利な魔術だ。

カラン、

手錠の落ちる音が聞こえ、

手の甲の血のように赤黒い紋章の一部に水色の色がつく。

ハヅキの髪の色だな。


「武器がないので後方支援に、」

「プレゼントだ、これをやる。」


急いでいるので若干言葉を遮るように言って、

俺は背負っていた刀をハヅキに渡す。


「え?これは」


ハヅキが刀を握る。

すると辺りに霧が出てくる。


「おお、やっと出れた。

うむ、わらわの目に狂いは無かったようじゃ。」


そう言うと、嬉しそうに俺とハヅキの横で小町が笑った。


「は?」


ハヅキが呟いた。






またまた時間は少し戻り、


公園で桜の残骸に癒着していた刀を引っこ抜いた俺は、目を丸くする。


「桜が、戻った・・・」


満開の桜が目の前にたっていた。


「こら、どこを見ておる。レイジ、こっちじゃ。」


剣を握ったまま、俺は声のする方向に振り替える。

いなくなったはずの小町が不満げな表情で立っていた。


「小町さん・・・ですか?」


エクリプスも驚いている。

消えたと思っていた奴が後ろに立っていたんだ。

誰だって驚く。


「桜が焼けても出てこれるのか?」

「本体が桜と誰が言うた、わらわの本体はそれじゃぞ?」


そう言って小町が、俺の手に持った刀を指さす。

本体ってこれのことだったのか。


「うむ、桜の中に取り込まれておったでな、

もう動くこともないと思うておったが。

わらわは付喪神(つくもがみ)、またの()を小町、

生けるものから霊気を吸い取り(まぼろし)を見せる妖刀じゃ。」

「じゃあ何で、今まで出てこなかったんだ?」

「霊気を吸い取る対象がいなくなったからじゃ。

今までは桜の木の霊気を吸い取っておったが、燃やされてしもうたでの。」


そう言って小町は考え込むような仕草をする。

エクリプスは呆然と立っているし、俺もなにがなんだか。


「ふむ、やはりお(ぬし)ら霊気が少ないのう。

ハヅキとやらは居らんのか?

あやつにそれを持たせよ。そろそろ霊力が無くなるわ。」


そう言って、小町はユラリと姿を消した。






「と、言うわけじゃ。

話した通り、お主の霊気は質、量ともにとてもよい。

どうじゃ?

その水をぶつけるだけの弱っちぃ魔術より、

見るものを翻弄し、敵意を向けるものを騙す妖術を使わぬか?

そして、わらわを使ってはみんか?」


私にも素質が、在るんだ。

弱っちぃ、騙す、など聞き捨てならない言葉が聞こえたが、それ以上に

自分にも才能がある。

と言われたことが嬉しかった。

それにこの刀は私の手にピッタリと引っ付くように馴染む。


「やります。教えてください、妖術を。」

「あいわかった。まあ今回はわらわがやってやろう。

手本を見ておるがよい。」

「じゃあ、外に出るぞ。」


反撃の準備は整った。後は相手を倒すだけ!






メイドたちによる全方位からの一斉射撃。

だが俺たちはそこにはいない。

俺は重力魔法で石を浮かべ、メイドたちにぶつける。

エクリプスの様に弾丸を操り、高速で打ち出すことはできなくてもこのくらいはできる。


「重力魔法、使うことにしたんですか?」

「ああ、魔力量が500越えてるしな。まだ5分はもつ。」


使っている間はMPが1秒に1ずつ削れるこの魔法は、燃費は悪いがとても強力な魔法だ。

浮かべる石の数は関係しない。

メイドたちが見えない位置からの攻撃に目を丸くする。

俺の当てた石は小町の妖術で消されているらしい。


「魔剣じゃないか。」


すごく頼もしい。

大勢を相手にするときに、これ程嬉しい支援はない。


「フン、西洋の手品とは格が違うというものじゃ。」


隣で小町が自慢げに話す。

霊力は魔力とは違うらしく、吸い尽くしても気を失わないのだとか。


「幻のほかには何かないのか?

妖術って確か結界とかも貼れたよな、」

「うっ、そっ、それはあれであっての、得手不得手という・・・」


たじろぐ小町。


「ほかは苦手なのか?」

「それを極めたのじゃ!ほかがなくとも何とかなるわ!

ほれ、さっさとアメルを取り戻しに行かんか!」


だがそうだな、急ごう。


幻覚を見せられ、仲間同士を打ち合っているメイドたちを屋敷の玄関に残して、おれたちはクラッドのいるというホールへと足を進めた。


「罠があるかもしれませんよ?」


地面から少しだけ足を浮かせてハヅキが言う。


「いや、さすがに自宅には仕掛けないと思うぞ。」


もはやただのダンジョン感覚である。

特に何事もなく、2階を進む。

3階への廊下に、一人のメイドが立っていた。

身にまとう雰囲気が違う。何も持っていないように見えるが。




居た、やっぱり。

廊下に立っていたのは私を素手で倒したメイド。

さっきの集団の中にはいないので別に待っていると思っていた。


「またやられに来たのですね、二人まとめて叩き潰してあげます。」

「狭い廊下で二人で戦えるわけないじゃないですか。」

「それは残念でしたね。」


そういってこちらに素手で殴りかかってくる。

斬れちゃいますよ。

その拳に刀を当てる。

カン!

そんな音を立てて刀が弾かれた。土属性の魔法ですか。

よく見ると肘から下の腕がすべて石におおわれている。


しかしそれよりも気になったのが、

小町の幻覚が効いていない!?


(この幻覚は持ち主よりもレベルが高いものには聞かぬ。)


レベルがあるということは、この人はもともとメイドになるような職業ではなく戦闘系。


考えているうちに拳のラッシュ、刀で受けていく。

右のアッパーを避け、肩口に剣を突き立てるが防御魔法に阻まれる。

物理で押し込もうと考えて隙をうかがう。

しかしこれがレベルの違い。

スピード、力、共に不利な私は防御に徹する。

それに技術も確かだ。

たまに来るフェイントは、見切っていなければ頭を砕かれるようなものまである。

右足のローキックを後ろにステップして避け、右ストレートを刀で切り払おうとするも、左アッパーが飛んできて回避。

左、右、左、と私が受けた後に相手はくるりとターンして右足での回し蹴りを打ち込む。


それを待っていました!


昨日彼女が私にしたようにしゃがんで避けて左の軸足を蹴ろうと・・・。


なかった。

これが狙いだったのか、

左足でジャンプし、体をひねりながら左足をたたき落とす2連撃!

右足は私をしゃがませるためのおとり。

刀で受けても全体重を乗せた一撃は押し込まれる。


勝利を確信した笑みとともに左足が上からたたきこまれる、

ことはなかった。


「つれないな、二人まとめて相手してくれるんだろ?」




俺はしゃがんだハヅキの後ろから勢いよく3本ナイフを投げる。

さっき仲間に撃たれて倒れたメイドから頂戴したものだ。

重力魔法で急加速が加えられたそれはメイドの左足が落ちる前に彼女の腹にヒットする。

比較的大きなナイフはメイドごと後ろへ飛んでゆく。


「それにしても一人ぐらい逃げ出すやつがいると思ったんだが、」

「奴隷刻印、みなさん足に奴隷刻印がされています。」

「・・・なるほど。」


奴隷刻印の中には命令に背くと死なない程度に体に痛みが走るなんていうエグい刻印がある、それが国にとって危険であるとされて奴隷はこの国から消えた。

それが使われているのだろう。


いきなり頭の上にナイフを飛ばされ、不機嫌なハヅキをなだめつつ、テレパシーがあったのをいまさら思い出した。

動かない、というよりも動けなくなったメイドを残してホールへの扉を開いた。


「さあ、どこにいるんだ?」

「ひぃっ、」


ここまで来るとは思っていなかったのか、伯爵さんは部屋の隅でアメルに半分泣きかけでナイフを突き立てていた。


「く、来るなあ、どうなるかわかっているだろう!」


横では大きなマシンガンが置かれている。

中途半端な角度で止まっているそれを覗き込むと、可動部に排出された薬莢が詰まって動かなくなっていた。

使い慣れないやつを使うからだ。


「ハヅキ、」

「はい。」


ハヅキが刀を横に突き出す。

・・・横には何もない。


「あああああああああああああ!」


クラッドが叫び、アメルがこっちに逃げてきたのを見て、いったい何をやっているのかと聞くと、


「はらわたを抉り出される幻覚を見ています。」


そういってハヅキが何もない空間に突き出した刀をねじる。

サディスティックな笑みを浮かべるハヅキに引きつつも、尋常じゃない彼に会話を試みるが、


「ふごあぁあぁぁああああ!」


そういってクラッドは気絶した。

もういいや・・・

気絶するほどの恐怖を感じたんだ。

関わりたいとすら思わないだろう。


帰りざまに金庫をこじ開けて200枚ほど金貨を奪っていく。

まぁ、もしもの時はまたこの屋敷に乗り込んで奴隷のことをばらすぞとでも脅しをかけよう。

これでチャラだ。

時刻は25時。

100枚ほどハヅキに握らせた、山分けだ。




帰り道、アメルの仕事について話す。

無職だと生きていけない世界である。


「何とかいい仕事があればいいのですが、どこも人手は十分だと・・・。」


何かないものかと頭をひねっていると、ハヅキがぽんと手をたたいた。


「やってみます?結構にぎやかな職場がありますよ?」


そんなのあったっけ?






翌日、ギルドに新しい受付嬢が入り、冒険者たちから絶大な不評を買っていたカルマさんは

笑顔で裏方仕事に戻っていったという。

明日で九月ですか、時間が過ぎるのって早い。


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