見える?
容疑者A アメル
5時半にハヅキは戻ってきた。
しかしエクリプスはいくら待っても戻ってこない。
待ちくたびれたのでテレパシーで会話することにした。
その結果、
「申し訳ありません、主。」
どうやら道に迷ってゴミ捨て場の近くをうろついていたらしい。
しょんぼりとうなだれるエクリプスを慰めつつ、エクリプスの担当だった場所の聞き込みを後にしてアメルの家を調べることにした。
「それにしても、アメルさんは住込みじゃないんですね。」
他のメイドたちは屋敷の横にある寮が家のようだったのだが・・・。
「アメルでいいですよ。
まだ研修期間のようなものなので、3日後に合格かどうかが決まるんです。」
まだ正式に雇われていないらしい。
歩いていると、赤い屋根の家が見えてくる。
「ここが私の家です。」
特に何の変哲もない一軒家。
ハヅキもエクリプスも特に違和感は感じていないらしい。
ドアを開けてアメルが中に入る。
「っつ!」
後から続いて入り、何気なく上を見上げた俺の目に飛び込んできたのは、黒い・・・下着。
そういや早朝に雨が降ってたっけ。
「?どうかしまし・・・うわあぁぁぁ!ちょっ、タイム、タイム!」
ドアを開けた振動のせいか、玄関の天井で踏ん張っていたつっかえ棒が仕事を放棄し、下着もろとも落ちてくる。
視界が真っ黒になると同時に、アメルが俺たちを力いっぱい外へと押し出す。
後ろにいたハヅキとぶつかり、足がもつれる。
とっさにエクリプスが避けて、俺がハヅキに覆いかぶさる形で倒れこむ。
ドサァ!
「痛ってぇ・・・」
起き上がろうとして下についた手にポヨン、というさらさらした布と、その上からでもわかる柔らかい感触。
大きな双丘に手をついていた。
下を見ると真っ赤な顔をしたハヅキと目が合う。
やばい・・・。
「い、ひゃぁぁぁぁぁ!」
覚悟する前に左から頭を襲ってくる二次災害。
そのすさまじい衝撃に、俺の視界は再び真っ黒になった。
「なんかまだクラクラする・・・。」
独り言をつぶやきながらリビングに何か異常がないか探す。
もしもここでアイゼン邸のもの、重力魔法のように手を触れずとも何かを動かせる魔法道具が見つかりさえすればアメルはより犯人に近づく。
キッチンと隣接していて思ったよりも広いリビング。
棚に飾られた写真の中で、アメルと家族が笑っている。
棚の裏、床、食器棚の中など調べるが、出てきたのは紙くずと銅貨が1枚。
「生活感あふれてるな。」
そんな感想しか持たない。
寝室、玄関を調べているハヅキ、
バスルームを調べているエクリプスに合流しようとその場を後にする。
ふと、後ろに視線を感じた。
「特におかしなものはないですね。」
いまだに恥ずかしいのだろう。
視線を合わせようとしないハヅキと、先ほどからそわそわと落ち着きないエクリプスを連れて、アメルの家を出る。
時刻はもう七時、晩飯はどこで食おうか・・・?
そんなことを考えながら、ひとまずいつもにぎわっている露店町へ歩く。
ハヅキもいつもは母親が作るらしいのだが、王都に行っているため露店で食べるという。
肉まんもといカイゼル蒸しを食べつつ、屋台の中を歩く。
年中無休で夜闇の中でも明るい光を放ち続ける露店町は、たくさんの人々が行きかうこの町の名物だ。
「いつもここで食べてるんですか?」
食べているうちに立ち直ったのか、サカナの串焼きを食べつつハヅキが聞いてくる。
香ばしいタレのにおいが鼻孔をくすぐる。
「そうだな。安いし自分で作ろうにも調理器具を買うのに金がかかるからな。」
「それじゃあ栄養偏りますよ。」
港町なので海の幸を出している店も多い。
(さっきからどうしたんだ?)
テレパシーでいまだにそわそわしているエクリプスに語りかける。
先ほどから紅い瞳がチラチラと落ち着かない。
(いえ。どうやら先ほどから、後をつけられていたようです。)
なっ!
(そういうのは気づいたときに行ってくれ。どこにいる!?)
(気配のみなので詳しくはわかりませんが・・・左前方の屋根の影、でしょうか。)
気づかないふりをしてその場所を盗み見る。
・・・なにもいない。
(見失わないほどに近づいたら追いかけろ。)
(わかりました。)
再び気づかないふりをして歩く。
路地裏に入り、後ろをついてきたハヅキを抱き留める。
「えっ?ちょっと、レイジさん!?」
顔を赤くして驚くハヅキに耳打ちする。
「もう少ししたらエクリプスが俺たちをつけてきてるやつを追いかける。ついてきてくれ。」
「そういうのは時と場所をわきまえてエクリプスさんも見てますし・・・って、え!?」
そういう話じゃないんだが・・・。
その時!
(主、追いかけます!)
来たか!
(OK!)
ダン!
地面にヒビを走らせエクリプスが空へと飛びあがり、隣の家の屋根に着地する。
宙に舞いあがる砂煙、防御魔法で足場を築きあげて俺とハヅキも後を追う。
屋根に飛び乗ると、そこでは圧巻の戦いが繰り広げられていた。
エクリプスが金色の髪をなびかせながら、目にもとまらぬスピードで相手に突進する。
手に持つ槍はダブルセイバーと呼ばれる、柄の前後に刃の付いた槍。
掠るだけで屋根瓦が砕け散り、石片が当たりに飛び散る。
相手は急停止し、後ろに宙返りしてよける。
避けられたと分かったエクリプスは、後ろ手に飛び散った石片を掴み取って空中にいる相手に投擲する。
相手は体をそらし、すんでのところでそれを回避する。
「・・・すごい。」
隣でハヅキがつぶやく。
まったくだ。
「そこそこやりますね。
少しだけ、本気を出させてもらいます。」
エクリプスは縦にした槍を両手で持ち、左右にねじる。
槍が中心から二つに割れて2本の片手剣になる。
それを左手で片方を上に、右手で逆さに構えて相手に斬りかかる。
シャラン、
両手に持った刃がこすれあいながら相手を追い詰めていく。
クルクルと回りながら相手に斬撃、蹴り、舞い上がった石片を打ち出す。
しかし相手もさるもので、ひらひらと宙返りしながら次々に屋根を飛び移り、エクリプスの猛攻をかわす。
掠りもしない。
女性なのだろうか?
桃色の着物と桃色の長い髪をしている。
たまに露店街からの光が差し込む闇夜の中を、二人の戦士が躍る。
その洗練された動きは他人の干渉を受け付けない。
次々に戦いの場を移してゆく彼女らの舞を、俺とハヅキは追いかけるだけで精いっぱいだった。
その華麗な舞は突如終わりを告げる。
屋根が途切れ、俺たちは町はずれの公園まで移動させられていた。
着物の女性は公園の真ん中にたたずむ大きな桜の木に手を置き、立ったまま動かない。
俺はハッと気づき、屋根から飛び降りて、
今にもその女性へと飛び出そうとしているエクリプスをとめる。
(エクリプス、待ってくれ。)
驚いた様子でエクリプスはこちらを振り向いて、
(主、なぜです?)
と、聞いてくる。
(誰も倒せとは言っていないだろ。
それに向こうは一度も攻撃してこなかった。
敵対する気はないんじゃないか?)
(・・・わかりました。)
少し残念そうにエクリプスは、槍を手から消す。
本気を出せてうれしかったのだろうか?
エクリプスの戦闘能力の高さに驚きつつも、俺は桜の木の横にたたずむ20代の女性に話しかける。
「なんで俺たちの後をつけていた?」
桃色の着物をまとった女性は、金色の瞳で俺の顔をじろじろと眺め、にやりと笑って口を開いた。
「まずは自己紹介が必要だとは思わぬか、少年?
わらわの名は小町、幽霊じゃ。」
「俺はレイジだ。」
返事をしてから気づく。
小町ってアメルの話してた消えた幽霊じゃないか。
「ふむ、きちんと話ができてうれしい限りじゃ。
あのまま素通りされるか戦い続けるかになってしもうたときには、どうするか考えておらんかったでな。」
はっはっはっ、と笑う。
古臭いしゃべり方だ、彼女はいつから幽霊でいるのだろう?
「それで?なんで後をつけてたんだ。」
「おお、そうじゃったな。
忘れてしもうとったわ、ちと長くなるが、よいかの?」
竜人の攻撃を避ける腕前といい、聞きたいことは山ほどある。
「そうかそうか、あいわかった。
そうじゃったのう、200年ほど前だったか・・・」
「いやまてまて、そんなに前から始めないといけないのか?」
短く済ませてくれ。
年寄りの話は長いというが、さすがに200年前の話をする気にはならない。
「大丈夫じゃ、2・3分で済むわ。」
それと年寄りではない。
そういわれて頭をたたかれる。思考を読まれた?
「幽霊とは言っておるが、わらわは付喪神、立派な神じゃ。
まぁ、もはや地縛霊と変わらぬ存在ではあるが。
本体はここにある。」
そういって小町は桜の木をペシペシたたく。
「200年前か、物心ついた時からここに立っておっての、」
結局そこから始めるんですね。
つぶやいたハヅキを小町がたたく。
「それからはいろんなものが過ぎて行ったわ。
わらわが見える者もいれば見えない者もいた。
みな一様に通り過ぎてゆく。
それで貴様ら、アメルに会っておったの。」
そうですね。エクリプスが俺の変わりに返事をする。
「そうかそうか、いい娘じゃろう?
わらわが直々に遊んでやった娘じゃ。」
嬉しそうに小町が笑う。
「しかしのう、アメルは途中からわらわが見えなくなっての、近くにおるというに。
知らせることもできず、さみしそうに待つあやつを見るのは胸が痛んだ。
物を動かして知らせようにも、あやつは実際に見ないと何も信じぬ性分ゆえ、伝わることもなくの。」
「話の途中で悪いが、なんで見えなくなったんだ?」
理由が知りたい。
以前本で読んだことがあるが、「純粋な心」なんてものがなくなったから。
なんてことではあるまい。
「はははっ、「純粋な心」か、そんなものではないわ。
単純に霊力じゃ。
人は魔力とっは別にいくつか力を持っておっての。
霊力は鍛錬せねば年齢とともに衰えてゆくのじゃ。」
また心を読まれた。
「おお、話がそれた。
それでもやはり愛着というものがある。ずっと、彼女を見守っていたのじゃ。
ある日、アメルが就職先を探してきよった。
女中になるとな。
しかし女中というのはいつの時代でも危険な職業でのう、中途半端な主従の関係ゆえその館の主人に手を出される。などということがざらにある。
心配して見に行ってみたら案の定、という訳じゃ。」
チッ、あのデブ、人に手を出すなとか言っておいて。
ハヅキが結論を聞く。
「じゃあ館で本棚を倒したり、お皿を割ったりしたのは・・・」
「十中八九、わらわじゃな。」
桜の木の下で、小町が立ち上がる。
危険だと伝えたかったらしい。
「そういう訳じゃ。
わらわの代わりにアメルに伝えてくれればよいでの。」
小町の姿は、もう消えていた。
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「以上が、この度屋敷に起こっていた現象の全てでございます。ご主人様。」
カラスから聞いた事を、パルメが俺に話す。
こいつの職業は召喚士だ。
目立って強い召喚獣はいないものの、カラスやネズミなど情報収集能力は、ずば抜けている。
あの冒険者どもが、要らない情報をつかまないように探っておいて良かった。
あの女、竜人だったとは。
迷っている所を襲わなくて正解だった。
もしも襲っていたらミンチにされていただろう。
しかしアメルが原因か。
やはりあんなもの町で拾うんじゃなかった。
「原因の木と、アメルの処遇、彼らへの報酬はどういたしましょう?」
「燃やせ。アイツは・・・下の牢に放り込んでおけ。ガキどもへの報酬は出してやれ、やつらのお陰で解決できたのは事実だ。」
「かしこまりました。」
ちなみに、この世界で奴隷は犯罪です。




