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第一話 歴史の外側にある一冊

俺は昔から、歴史が好きだった。


ただ年号を覚えるのが好きだったわけじゃない。


教科書に書かれた一行。


「○○の戦いが起きた」


その一文の裏側に、何千、何万人もの人間がいたことを想像するのが好きだった。


誰が笑って、誰が泣いて、誰が何を決断したのか。


歴史は、結果だけを見るものじゃない。


そこにいた人間を見るものだと思っていた。


中でも俺が一番好きな時代。


それが――戦国時代。


「やっぱり秀吉ってすごいよな……」


休日の昼。


俺は古本屋の片隅で、一冊の古びた本を眺めていた。


表紙には、かすれた文字でこう書かれている。


『日本歴史大全』


正直、怪しいタイトルだ。


でも、なぜか目が離せなかった。


「それが気になるのかい?」


声の方を見る。


白髪の老人が、カウンターの奥からこちらを見ていた。


「歴史書ですか?」


「ああ。ただ……少し変わった本でね」


「変わった?」


老人は小さく笑った。


「読む人によって、内容が変わると言われている」


「そんなことあるんですか?」


冗談だと思いながら、俺はページをめくった。


織田信長。


明智光秀。


徳川家康。


知っている名前が並んでいる。


そして――


手が止まった。


「……え?」


そこに書かれていた名前。


豊臣秀吉。


その下には、


1537年〜1619年


享年 八十二歳


と書かれていた。


「いやいやいや」


思わず声が出る。


「これ間違ってますよ」


老人が首を傾げる。


「ほう?」


「秀吉は1598年に亡くなってます。これは誤植ですね」


俺がそう言うと、老人は本を見つめた。


「歴史とは、不思議なものですよ」


「え?」


「誰かが歩けば、その先の道も変わる」


意味深な言葉だった。


でも俺は笑った。


「歴史は変わらないですよ」


そう言って、俺はその本を買った。


――この時の俺は知らなかった。


その本が、未来の歴史を書く本になることを。


その夜。


俺は本を読みながら眠りについた。


夢を見た。


燃える城。


怒号。


刀の音。


そして――


誰かの声。


「藤吉郎」


知らない名前。


なのに、なぜか懐かしい。


「お前は何を成す?」


目を開ける。


知らない天井。


木の梁。


土の匂い。


「……どこだ、ここ」


起き上がろうとする。


手を見る。


自分の手じゃない。


「……は?」


その時。


扉が開いた。


「藤吉郎様!」


その名前を聞いた瞬間。


心臓が跳ねた。


「……藤吉郎?」


頭の中に、ある人物が浮かぶ。


木下藤吉郎。


農民から成り上がり、天下人となった男。


俺は震える手で鏡を見る。


そこに映っていたのは――


若い男。


知らない顔。


だけど、知っている。


「嘘だろ……」


枕元を見る。


そこには、あの古本屋で買った本が置かれていた。


ページが勝手に開いている。


そこには、


豊臣秀吉


1537年〜1619年


享年 八十二歳


そして、その下に新しい文字が浮かび上がる。


第一章


木下藤吉郎


俺は息を呑んだ。


「……え」


「俺が秀吉……?」

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