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奴隷市場から始まる異世界冒険譚―第二部エルフ王国編  作者: たーけし
攻防

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26/62

第一戦線 森

夜明け。

森にはまだ白い霧が漂っていた。

高い枝の上で、シフォンが鼻をふんふんと鳴らす。

灰色の耳が忙しなく動く。

「……いました。」

ターケシが視線を上げる。

「何人だ。」

シフォンは目を閉じ、風を吸い込む。

「四人……。」

もう一度、鼻を鳴らした。

「……いえ。」

「五人です。」

さらに風向きが変わる。

シフォンの耳がぴくりと震えた。

「まだいます。」

「向こうにも。」

「いくつも……。」

フィリアが森の奥へ目を細める。

「分散してるのね。」

シフォンはゆっくり頷いた。

「五、六組……でしょうか。」

ターケシは小さく息を吐いた。

「威力偵察か。」

フィリアも頷く。

「敵さんも慎重ね。」

「ああ。」

ターケシは森の奥を見据えた。

「総攻撃じゃない。」

「まず俺たちの居場所を確かめに来た。」

少しだけ考え込む。

「こいつらを西へ引っ張り続ければ、本隊も動かざるを得なくなる。」

フィリアは静かに頷いた。

「敵拠点が手薄になる。」

「その時が勝負だ。」

シフォンが小さく拳を握る。

「時間を稼ぐんですね。」

「そうだ。」

ターケシは静かに答えた。

「今日の俺たちは勝つために戦うんじゃない。」

「勝てる戦場を作るために戦う。」

二人は力強く頷いた。

ターケシはしゃがみ込み、地面へ手を伸ばす。

「フィリア。」

「足跡を消してくれ。」

「任せて。」

フィリアは落ち葉を払い、折れた枝を元へ戻し、踏み荒らした土を均していく。

人が通った痕跡が、森へ溶けるように消えていった。

その横でターケシは反対方向へ歩き始める。

今度は隠さない。

はっきりと足跡を残していく。

シフォンが首を傾げた。

「ご主人様?」

「敵にはこっちを見つけてもらう。」

ターケシは足を止めない。

足跡は岩場へ続き、

倒木を渡り、

浅い流れを踏み、

再び土の上へ戻る。

その先には、視界の開けた川の浅瀬があった。

「ここだ。」

ターケシは足跡をそのまま浅瀬へ導く。

「足跡を追えば、必ずここへ出る。」

フィリアは周囲を見回した。

両岸には大岩と低木。

身を隠す場所はいくらでもある。

「伏兵には悪くない場所ね。」

「ああ。」

ターケシは頷く。

「開けた場所なら、高所から狙撃し草陰から急襲するこちらが有利だ。」

「退く場所も、隠れる場所も、森が味方してくれる。」

三人は川岸の茂みへ身を潜めた。

しばらくして。

ガサッ。

木々の奥から、武装した男たちが姿を現す。

五人。

短槍を持つ男。

弓兵。

盾持ち。

互いに周囲を警戒しながら、一歩ずつ前へ進む。

さらに奥には、別の班らしき人影が木々の間を横切った。

距離を保ちながら進んでいる。

ターケシは小さく呟く。

「やはり五人一組か。」

「互いに支援できる距離を保ってる。」

フィリアが呟く。

「悪くない動き。」

「でも、森では私たちに及ばない。」

先頭の兵士が足を止めた。

しゃがみ込み、地面を指さす。

「足跡だ!」

「西へ向かってる!」

五人は迷うことなく痕跡を追う。

岩場を越え、

倒木を渡り、

そして。

視界の開けた川の浅瀬へ踏み込んだ。

「渡ったぞ!」

水しぶきが静かな森へ響く。

その瞬間だった。

ターケシが低く呟く。

「――今だ。」

ターケシは大盾を構え、茂みから飛び出した。

轟音とともに先頭の槍兵へ体当たりを叩き込み、男は浅瀬へ吹き飛ぶ。

ほぼ同時。

ヒュンッ――。

フィリアの矢が最後尾の弓兵の肩を射抜いた。

「敵襲――!」

叫び声が響くより早く。

シフォンが灰色の尾を翻し、二本の短剣を構えて水面を駆ける。

三人の狙いは、殲滅ではない。

この五人を足止めし、さらに後続を西へ引き寄せること。

反撃は、静かに始まった。

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