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女神AIが勝手に依頼を受けてくるんだが!? 俺は田舎でのんびり暮らしたい  作者: 赤松勇輝


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4、大神官の巫女

 デバイスの位置情報を確認しながら、俺は浮遊原付にまたがりながらあくびを一つ。


 田んぼの畦道を通りながら、朝の風を受ける。四月と言ってもまだまだ中旬だ。四季の趣を色濃く残したこの田舎『アカツキ村』の気温では若干寒さを感じる。


『依頼を受けに行くんだから、シャキッとしてよね!』


 浮遊原付の荷台でアリスが明るい声で言った。


「……誰のせいで睡眠を邪魔されたと思ってるんだよ」


 あぁ、本当はまだ寝ている時間だったのに。アリスが勝手に依頼を受けたから、こんなに朝早くに出かける羽目になった。


 早いところ、依頼を終わらせて睡眠に戻ろう。早く終われば昼食後には一眠りできそうだ。


 もう一度あくびをしたところで、背後のアリスがため息を漏らす。


『もう、せっかく勇者っぽい服装に着せ替えたのに、本当に橙綺くんは締まらないわねぇ』

「……眠たいんだから締まるわけねえだろ」


 いつもはジャージで依頼を受けにいくのだが、髪型もアップバングにセットされ、冒険者らしい動きやすい服を着せられた。青いジャケットに黒いシャツ。白いズボンにブーツを履いてどこかの冒険者のようだ。


 ……まぁ、冒険者ではあるのだが、格好なんて動きやすくて、邪魔にならない機能的なものであればどうでもいい。


『ちゃんとすればちゃんと勇者のように見えるのに、もったいないわね』

「格好なんてどうだっていいだろ、別に。一文の得にもならないじゃねえか」

『無自覚すぎて逆に引いてしまうんですけど……』


 何を言いたいのかわからないアリスの言動は、いつものことだからあまり気にしない。


 そんなアリスも、俺の格好に合わせてか、黒い縁の広い先端の尖った帽子に、黒いワンピースを着て、魔女のような格好をしている。杖まで携帯している周到ぶりだ。


「……おっ、昨日のカカシじゃねえか」


 道を進んでいくと、昨日のバグっていた鳥型カカシが見えた。バグは消え去った様子で、空を優雅に旋回して田んぼを見守っている。


『流石は橙綺くん! バグ修正の力量も少しずつ上がってきているんじゃない?』


「そんなことねえよ」


 と適当に返事をして、それからアリスに尋ねる。


「つーか、どうして今回の依頼を勝手に引き受けた? お前のことだから何か裏があるんだろうけどさ」


 俺は面倒くさがりだ、というのは自分でも認識している。とはいえ、やらないといけないことは生きている以上どうしても出てきてしまう。そういう時は効率的に動くようにしている。


 アリスだって俺の性格は付き合いは短いが熟知している——だからこそ裏があると思ってしまう。


『ひ・み・つ。女神様はなんでも知っているけど、すべては教えないものなのよ』


 はぐらかされたぞ。こう言う時、アリスは答えてくれない。


「……そうかい」

『そんなことよりも、見えてきたわよ咲椰神社!』


 アリスが指をさした先には大きな鳥居が見えるが、境内は見えない。なぜなら、鳥居の奥は山になっているからだ。鳥居の奥にはおびただしい数の階段が目につき、俺は浮遊原付を思わずその場に停めた。


「……帰ってもいいか?」

『ここまできて帰るなんて、許さないわよ! それに、ほら神社の前で手を振っている子がいるわ。きっと、あの子が依頼人よ』


 確かに手を振っている少女がいる。上は白、下は赤の装束——巫女だろう。あぁ、これはもう後には引き返せない。


「くそぉ……」

『ため息なんてついてないで行くわよ。ふふっ、ますます面白くなってきたわ!』



 神社の前に到着すると、巫女がお辞儀をする。


「依頼を受けていただきありがとうございます。私は、この神社を管理している田所桃花たどころもかと申します」

「……新堂橙綺だ」


 あくびまじりに自己紹介をしてしまったためか、田所がキョトンとしたような表情をしている。生理現象だから仕方がない。


 それに、依頼を受けたのは俺ではないから、お礼を言われるような筋合いはない。ただの保護監督不行き届きの尻拭いだ——ということは責任は俺にあるわけで、面倒くさいがやるしかない。


 手っ取り早く終わらせて、家に帰って昼寝をしよう。


「……階段の奥から何か感じますか?」

「どうしてだ?」

「あの……新堂さんが真剣に見ているので」


 真剣に見ていたつもりはないが、田所の言う通り、あまり良くない雰囲気を階段を登った先から感じ取ってしまっている。


 ……コードの乱れを。


 ただまぁ、階段の先から感じる雰囲気程度のバグであればおそらく問題ないと思う。思うのだが、気が進まない。


 小さくため息をつくと、傍のアリスがくすくすと笑う。


『依頼のためには橙綺くん、頑張ってね』

「……うっせえな」


 俺はアリスに言ったのだが、アリスは俺にしか見えない。田所はキョトンとした表情で首を傾げた。


「えーと……どうかしましたか?」

「なんでもない、こっちの話だ。それより、田所……さん、依頼の話をしてくれ。神社に魔物が住み着いたとか書いてあったな」


 あまり、敬称をつけて人の名前を呼んだ経験が全くないから、危うく呼び捨てに仕掛けたが、なんとか堪える。


 俺の質問を受けて、田所の表情が少し曇ったように感じた。呼び捨てにしようとしたことが伝わったか?


「はい。新堂さんもお気付きだと思いますが、階段を登った先にあります神社の境内に魔物が現れてしまいまして、管理の者が襲われてしまうことがありました」


 違った。表情が曇ったのは、魔物に管理人が襲われたからだ。


 魔物というのも、バグによるものだ。負の感情などがバグとして姿形をもって顕現した危険な生物。


 田所は神妙な面持ちで続ける。


「早急に事態を解決したいのですが、いかんせん私達の一族には補助系統の異能力しか使用できません。そこで、前衛を張れる方を募集したのです」

「要するに、神社の境内に出現した魔物を、田所さんのサポートを借りて倒せばいいということだな」

「……はい」


 サポートというが、どの程度できるんだ?


 個人的なステータスを見るのは気がひけるが、俺には意識して見ようと思えば人や物の状態が見えてしまう。


 詳細には見るつもりはないが、ざっと確認すると、田所は【大神官】という異能を使えるようだ。


 アリスの権能の中で、治癒やバフをかける力を授かっているようだから、補助を任せるには申し分ないだろう。


 まぁ、アリスが勝手に受けるような依頼だから、何か裏がありそうだとは思うという警戒は怠らないようにしておくが。


 何はともあれ、最難関は階段だな。階段を見ながらため息を漏らしていると、田所がギュッと手を握った。


『橙綺くんがため息なんてつくから、怒らせちゃったんじゃないの』

「うるせえなぁ……」


 アリスに吐き捨てたものの、田所の口をキツく結んだ表情を見ていると、こいつの言うことも一理あるように思えてくる。


 俺がため息をついたことで傷つけたのなら、俺には謝る責任がある。頭の後ろをガシガシと書いた後で俺は言う。


「悪い、何か気に障ったか? 俺は階段を登るのが大変だと思っただけなんだが」

「……いえ、新堂さんのせいではありません」


 首を振る田所に安堵しつつも、彼女は手をギュッと結んだまま、ぽつりと語り出す。


「魔物のことを考えていたんです。咲椰神社は、百年前の日本の再構築以前から存在していたと記録があります」


 日本はアリスの手によって、崩壊する運命から回避されている。もちろん、その元となった日本を再構築しているのだから、モチーフは存在している。この神社は、百年前の改変以前から存在していたのか。


「ですが、ここ最近は異常現象が各地で発生しているといいます。その手がとうとう一族が守ってきた神社にも来てしまったと思いまして。……私の代で潰したくないんです」


 だから、田所は最初から少し不安げな表情をしていたのか。代々守ってきた神社の歴史が潰えてしまう可能性があるから。


 傍のアリスを見る。神社の崩壊を食い止めるために田所の出した依頼を受けたのか、という表情で見やる。


『さてなんのことでしょう?』


 アリスは肩をすくめるばかりだ。


「……ったく、しらばっくれんなよな」


 そう言いながら田所を見ると、目尻に涙が溜まっているように見える。


 俺にとっては、田所の事情なんて関係ない。アリスが勝手に受けた依頼を断れないから、尻拭いでやってきただけだ。


 勇者なんて大それた人間ではなく、ただのしがない冒険者だ。


 だから、なんとしてでも解決してやるという気持ちは湧いてこない。ただ、依頼を受けた責任を取らないといけない、という気持ちはある。


 ……仕方ないが、やるしかないか。


「境内には階段を登らないと到着できないか? 境内まで一気に瞬間移動なんてできないよな」

「えっ、あっ、はい」


 俺がいきなり質問したためか、田所は慌てた様子で答えたが、どうやら階段を登らないと境内には辿り着けないようだ。

 

 俺が肩を落としたからか、田所は慌てた様子で付け加えた。


「ごめんなさい。そのようなシステムは準備していないんです——というよりは、神社へのお参りを味わってもらいたいので、あえてしておりませんという方が正しいでしょう」


 なるほど、神社ならではの風流な情景を楽しんでもらおうという配慮か。そういうことは俺は嫌いじゃない。嫌いじゃないが……。


「ちなみに、階段は何段あるんだ?」

「千段です」

「……千段だと?」


 多少の段数なら我慢できそうかと思ったが、思いがけない田所の言葉に絶句している俺にアリスが俺の肩に手を乗せてきた。


『橙綺くん、頑張りましょう!』

「……はぁ、帰りてえ」


 笑顔で言われてもため息しか出てこない。

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