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ハッピバースデーモン2

 

  「お待ちくださいゲード様。ここより先は王の御前、官位を持たぬ者は入れません」


  「なに?王がそう仰られたのか?」


  「はい、そのように聞いております」


  王は貴族だろが平民だろうが区別はするが差別はしない。だとすれば、貴族だけの話にしたいのだろうかと納得しノエルをここに待機させ、王が座る玉座に向かう。


  ゲードが中に入った瞬間、ノエルを近くから追い出し兵士達が扉を締めて出られないようにする。


  ―――罠を逃れる事はもうかなわない。


 





  「キミがノエルちゃん?」


  「はい?失礼ですが…貴方は?」


  部屋の扉の前にいては邪魔だと近くにある小さな庭園に場所を移し歩いていたノエルに珍妙な格好の男が声をかけた。


  「オレ?王国が呼んだ最強の助っ人…ユウタだよ!」


  「っ!これは大変失礼しました。勇者様であったとは。…何故こちらに?」


  「ん?王国最強の人間って誰って聞いたら皆んなキミの名前を出すからさ。ノエルちゃん強いんでしょ?」


  「……ええ。ゲード様にお役に立つために腕を上げて参りました。それが王国最強かと言われると私には分かりませんが」


  「ふぅん。ゲード様ねぇ。会った時ないけど、ゲードに対して皆んな悪口言ってるよ?悪い人なんじゃないの?脅されてるんでしょ、正直にいいなよ」


  「そんなことはありません!多少…口が悪く、誤解されやすい方ですが、心優しく慈悲深い方です!捨てられて…明日死ぬ私を拾ってここまでしてくれた方なんですから!」


  ユウタが何気無しに言った言葉に、ノエルは猛然と反論する。それを薄ら笑いしながら冷静に観察するユウタ。


  「へぇ、なるほどね。これは…手間がかかりそうだ」


  「手間?どういう…」


  「いや、なに。こういう事だよ。…神よ!我が宿命を為す力を!全ては大義の為に!神の為に!服従せよ!()()()!」


  怪しい光に包まれたノエルとユウタ。そして、天から降り注ぐ光にノエルが苦しみ始めた。


  「うぅぐ…ぅ!な、にを…」


  「いや、王国最強のオレを守ってくれる人が欲しくてさ。キミが適任かなって。すごいでしょ、絶対服従の能力。オレに逆らうことが出来なくなる神様からもらった絶対の力なんだぜ?」


  ユウタは楽しそうに笑う。それを見たノエルは瞬時に理解した。目の前の男はこの悪魔の力を何の躊躇もなしに使える人間だということを。


  人の意思を簡単にねじ曲げる外道の力。それを軽々と使う目の前の男がなんとも不気味だ。軽薄そうな態度には大人の重さを感じない、身体だけ大人の子供のように、善悪を考えてない気さえしてくる。


  いや、事実そうなのかもしれない。


  「わ、私の忠誠は…ゲード様…ただ一人!」


  歯を食いしばり、身に降りそそぐ光に耐える。こんな男に…絶対仕えたくは無い。優しく、厳しく、強いゲードとは全く違う、真逆の人間だ。


  しかし、降りそそぐ光は神の力。人ごときが耐えられるものでは無い。


  ―――もう、遅いのだ。


  「ぐっ!あ、ああぁ!やめて!消える…消えていく!記憶が…!待って!私だけの…ゲード様の記憶が!」


  頭を抱えて蹲るノエル。抜け落ちていく、何もかも。それはノエルを作っていた全て。


  「あ、あぁ!アアアァァァァァァア!」


  「煩いし…長いなぁ。姫様なんて一秒もかからなかったのに。王様もここまで粘らなかったよ?」


  苦しみもがくノエルを見ながらベンチに腰掛け、ゆっくりと待つ。これが終われば王国は己のものなのだから。ノエルの悲鳴すら心地よい。


  「嫌…やめて…」


  奴隷から解放されて身体を清めて頂いた時の記憶、初めて暖かな食事を頂いた時の記憶、病に倒れた時忙しい合間を縫って様子を見て看病してくれた記憶、学ぶ機会を得て文字を覚え事務作業を初めて手伝った時褒めてくれた記憶、剣の腕を認めれてゲード様から特性の剣を頂いた記憶。


  記憶、記憶、命を救ってくれた、機会を貰った、愛を―頂いた、記憶達。こんな、覚えの悪い私を使ってくださったゲードの全てが消えていく。


  「やめてよ…消さないで…命より…大事なものなの!」


  昔の記憶から順番に。


  「………私は…まだ…何も…」


  ノエルを作る全ての記憶が。


  「…返して……いないッ…のに…」


  最後に…朝、ゲードから聞いた気まぐれのお言葉すら闇に溶ける。


  「これから…なの…に……ゲード様…………って…誰?」







 

  「ふぅ、一仕事終えてオレは疲れたの王様」


  「そうか後で慰安の女を当てがおう。それで、勇者よゲードを捕らえて大罪人したのは良いが……これからどうするつもりなのだ?」


  「王様ぁ~!オレは勇者だよ?この国を救う最後の希望、もちのろん考えているに決まってんじゃん。オレはこう見えても頭いいんだよ?前の世界での模試ではさぁ結構上位だったし、検定だって色々ともってるんだぜ?こんなおバカな世界の奴らなんか思いもつかないことがポンポンよ。俺TUEEEEと内政SUGEEEが一緒にできる稀有な存在!オレ!わかる?」


  「そうなのか…それで勇者よ。それはどんな事だ?」


  「んーもう馬鹿だなぁ、この世界の人はそんなことも分からないんだもん。はぁ、やれやれ。教えてあげるよ。王国は民の不満が溜まっているんだろ?なら、それを解消をすればいいわけだ。戦争してもいいんだけど、今の俺まだ来たばっかでそこまで強くないから次の機会ってことで!今は適当な人に王国の負債をすべて被って貰ってガス抜きをするの!我ながら名案、天才だね」


  「なるほど…流石異世界の勇者。しかし、その先はどうするのだ?根本的な解決には…」


  王の具体的な質問に、機嫌を損ねて王様にキレる。その先など考えていないし、ただのその場しのぎ。それを分かっているから、指摘されて激高したのだ。


  「はぁ?うるせぇよ。低脳の癖に俺に口答えするのか?お、お、さ、ま!てめぇは黙って俺に従ってればいいんだよ」


  「………わかった。勇者、ユウタ殿の事だ。深いお考えがあるのだろう」


  「そうそう。オレは現代日本のいわば未来人。お前らみたいな過去の劣った人間とは違うの。黙って俺に従ってればいいんだよ。知能は猿と同じとかの世界にオレはいたくないからね。賢くならなきゃ」


  「………わかった。勇者の言う通りだ」


  あまりに愚かしい勇者の言葉。元のラオン王なら即刻首をはね飛ばしていただろう程の言葉使いと、狭い見識に、幼子のような狭量。完全に従っている王ですら、心の中に異世界人とはあの歳になるまで子供の精神状態でいれるのかと軽く驚いているくらいだ。


  しかし、勇者だ。勇者は国を救う。それは前提条件のようなものだ。神がこの者を遣わしたのは何かの理由があるのだろう。


  ―――この場合の救う、とは王の望んだ形と違うのではないかと思いながら。



 



  「さて!時間だ!ゲードくーん!頑張ってね!大丈夫!殺しはしないから!多分!死んだほうがマシだとは思うけど!ハハハッ!」


  「……………………」


  もはや身体に傷がない所が無いゲードは牢から引きずり出され、足に鉄球が繋がれ、両手を拘束された。抵抗など、もう出来ない。言葉を発する気力すらないのだから。


  「さて、()()()()()()()()()()()いい声で叫んでよ?」


  ゲードが連れていかれたのはこの王国で一番大きい闘技場。その大きさはユウタいわく、東京ドームみてぇ、と言わせるほど。王都に暮らす人の半分を収容できる広さなのだ。


  そこへ歩いてゲードは連れていかれた。その道すがらでも、王都者達は人垣を作り待ち構えている。


  「この悪魔!」


  「皆んな苦しんでいるのはお前のせいか!」


  「死んでしまえ!」


  「お前のせいで息子は死んだ!」


  「死ね!」「死ね!」「死ね!」「死ねッッ!」


  怨嗟の声が聞こえる…。質素倹約に務め王国の為に働いていた己が糾弾され、死ねと叫ばれる。


  「……なんと…愚か」


  民衆とはなんと愚かなものか、真偽が不確かな情報に踊らされ。真実を見誤る。その後ろで手を振っている豪華な服を着た貴族達がその真なる元凶だと言うのに。


  「……違うな」


  愚かなのは自分だ。こんな馬鹿どもの為に俺は身を粉にして働いていたのか。全ては無為。無意味。石が投げつけられ、頭にぶつかる。流れる血が目にかかり瞳を赤く染める。


  憎い、憎い憎い憎い。全てが憎い。何も知らに鬱憤を晴らすように罵倒する女達。愚かな正義感を発揮し己を糾弾する男達。雰囲気に釣られて石を投げつける子供達。


  顔など…もう覚えない。全員殺す。殺してやる。


  凄まじい怒りがゲードを支配する。いや、自分からその怒りを増幅させて忘れないように、風化しないようにする。


  でないと…正気など保っていられないから。


 


 


  闘技場は人で溢れかえっていた。かつてないほど、いや事実かつてない人が闘技場に集まっていた。王国の病理の元凶とされた大罪人の刑の執行。


  見に来る人、みんなほの暗い笑いを浮かべてその時を待っていた。不満を解消させる何かを、待っていたのだ。それは人のもっとも汚い部分、それを携えて。


  「みんな!よく来てくれた!オレは王国が召喚した勇者!ユウタ・ツカモト!この国を救うものだ!」

 

  「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


  「ハハハッ!ありがとう!ありがとう!さて!今回オレ早速この王国を救う活動を始めた!そして、王国を滅ぼす元凶を見つけ出した!それがこの男!地方領主であるゲードである!皆んなも知っているだろう!この男の悪行を!」


  それはゲードを領主の座から引きずり降ろそうとした貴族達がばらまいた真偽不明の情報。それを信じていた民衆は怒りに吠えた。


  「その男に罰を!」


  「獄刑を!」


  「苦しみを!」


  「「「「死を!」」」」


  「そうだ!この男は数々の悪行を無し、それは王国の屋台骨を揺るがすものにまでなった!」


  悪行とはなんだ?何一つ具体的な事を言わずに話を進めるユウタと感情に完全に支配された民衆。冷静に考えろ、俺がいくら悪人だとしてもこの強大な王国の屋台骨など揺るがない。俺以外の全てが悪人だから国が傾いているのだぞ?


  「だから!ここで誅を下す!だが!殺すのはダメだ!」


  「何故だ!殺せ!」


「そうだ!殺せ!殺せ!」


  「いいか!聞け!こいつは殺しても反省はしない!だから、生きて己が成した悪行を悔い改めさせるのだ!お前達、よく覚えておけ!殺しては、死ぬより辛いことを体験させられないだろ!」


  発想がサイコなのか命を大事にしているのか分からない理論。未知の勇者の考えに闘技場は静まり返る。


  「おぉ!流石は勇者!賢者の如きお考え!」


  王様が密かに仕込んだサクラが大声で叫ぶ。それにつられて民衆も勇者を讃え始める。


  「勇者万歳!万歳!」


  本音は、ただ単に少しでも長くヘイトをゲードに集めていたいから殺さないだけだろう。それとも…もしかしてユウタはまだ人を殺した事が無いのかもしれない。己の手で人を殺すことを恐れている…まぁ、どちらでもいい。


  殺すなら殺せ。死んだら悪霊となりこいつら全てを呪い殺す。生きていたら…この手で全員殺してやる。それだけの事。それだけ、それだけ…。


  赤く腫れた顔に濃い隈が目立つようになったゲード。その意識は怒りの激情で持ち堪えていた。


  「では、ゲードに罰を与える!これよりの生涯、片時も己がした悪行を忘れないように!その身体に刻みつける!」


  用意はもう出来ている。真っ赤に熱せられた鉄の文様は奴隷の紋章。歯を食いしばり、声を上げてなるものかと耐えようとする。


  「これだけじゃつまらない!痛覚強化の魔法を唱えよ!」


  痛覚強化の魔法。それは身体強化の感覚強化から派生したもの。主に拷問の時に使われる魔法で、感覚が数倍に引き上げられる。軽く触られるだけで激痛が走る代物だ。


  「では!焼印を入れよ!この男の身体に永遠に消えぬ罪の証拠を!」


  背中に押し付けられる熱せられた鉄。自分の肉を焼く匂いが、血が蒸発する感覚が、際限ない激痛がゲードを襲う。意識など本来ならば一瞬で失うもの、しかし隣に控える魔法士達がそれを許すわけがなく。


  「グァァァァァァァァァッ!」


  「見ろ!魚のようにピクピク震えているぞ!アハハハッ!」


  「獣の方がまだ品のいい声を出すぞ!ハハハッ!」


  「なんだあの身の捩り方!ガハハハッ!」


  「なんと見苦しいわ!あのくらい声を出さずに耐えなさい!ホホホホッ!」


  笑い声が、いくら己の悲鳴を大きくしても聞こえる。聞こえ続けける。心が更に摩耗していく。


  「よし!見よ!こんなに綺麗な焼印を刻んだぞ!こんなものでも、王国の民衆の苦しみには到底届かないけどな!」


  「…ハァ……ハァ…」


  息も絶え絶え。身体はもう限界だ。少し加減を間違えれば簡単に死ねる。


  しかし、それよりも遥かに心が痛い。民衆の言葉がゲードを更に追い詰める。怒りでなんとか堪えているのだ、()()()()()()()()()()()()


  何かが切れそうだった。大事な何か、人間でいるための本当に大事なものが。


 






  「さて、そろそろ最後だ!この男に相応しい、この場を締めるに相応しい者を用意した!」


  あれから数時間、なぜ生きているから不思議な位の攻め苦を味わい続けていた。そしてついに来た最後の時。


  「ゲードに従わされ続けた不遇の時!王国最強でありながら、脅され屈辱に震えたのはもはや昔!ノエル!出てこい」


  「はい…」


  目のハイライトが消えて、どこか少しやつれた様子のノエル。ゲードが送った剣を抜いてゆっくりと近づいてくる。


  「右腕を斬り落とせ」


  「……………」


  「聞こえなかったか?右腕を」


  「聞こえています。すぐに」


  ユウタの命令に抑揚を感じさせない声で返事をしてゲードの元へ向かう。


  「………お前は…俺のことが嫌いだったようだな…。一番の道化は俺か…そんなことも気が付かずに…」


  「……煩い…やめて…痛いから…貴方を見ると全部、全部痛い…から」


  「…俺は…お前を好いていた。お前がいるから誰に何を言われようと頑張れた。お前は……違うようだな」


  「貴方なんて……知らない。何も知ら…ない」


  全ての拷問より、この僅かな会話がゲードの心を破壊する。ぐしゃぐしゃになり、潰れて、砕けた。怒りが……これ以上…湧かない。代わりに湧き出てくるのは、哄笑。


  「ほら、お前ら斬りやすいように右腕を固定しろよ!」


  ユウタが近くにいた男達を呼び、ゲードを動けないように押さえつけれる。


  「ハッ……ハハハ……やめろよ。もう…いいだろ。やめてくれよ…ノエルにやらせるな。ノエルにだけは…」


  「だーめに決まってるでしょ!これが一番盛り上がる締め方なんだから。ほらほら、ノエル!やっちゃいな」


  「やめろッッ!!」


  ノエルから剣を向けられる。忠誠を誓っていたはずの、ノエルに。数年連れ添った1番信頼していた人間、ノエルに。


  ――愛していた、ノエルに。


  「……煩い…煩い…煩い!やめてよ…痛い…痛くて切なくて…胸が…苦しいから」


  これ以上はゲードの心は耐えられない。ブチブチと糸が少しづつ切れていくように、何かが消えかけるのだ。


  「おっ、なんだこいつ急に暴れ始めたぞ!なんだ、最初からこうすれば良かったんじゃん。その顔か見たかったんだ!ゲード!」


  心の底からの恐れ。それが顔に表れていた。それを見て、ユウタが手を叩き笑う。


  「ほら!ほら!やーれ!やーれ!ノエル!!」


  「はい……早く…終わらせます」


  「や、やめろぉぉぉぉ!」


  剣を大段上に構え、そして振り下ろした。


  「ガァァァァァァァァァッ!!」


  その悲鳴は喧騒に包まれる闘技場でも鮮明に聞こえた。


  皆は聞いたのだ、ある者の()()()()()()


  ゲードの心は完全にちぎれ、壊れてしまった。ノエルが好きだった男、善政を敷いていた男、()()()はもういない。


 


  びちゃびちゃっと、生々しい音を鳴らし、血が噴水のように溢れ出す。

 

  右腕が闘技場の中に転がり、血が際限なく溢れ出す。それは感覚を強化されたゲードに耐えられるものではなく、痛みに悶えるはずであった。

 

  「アハハハハッ!ヒィィッハッハッハッハ!ウァハハッハッハッハッ!ヌッハハハハハハハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!ハァーハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」


  しかし、ゲードは痛さなど感じ無いように笑った。ずっと、笑い続けた。狂ったように腹を捩り、頭を振り乱して。


  そして急に笑うのをやめ、血走った目をノエルを向け叫ぶ。


  「ノォォエェェルゥゥ!貴様だけは!許さぬ!必ず!殺してやる!必ずだッ!!」


  「………ッ…」


  血が吹き出る右腕を抑え、怒りではなく()()を目に宿し睨むゲード。


  それに気圧されるようにノエルはその場を立ち去る。ユウタの静止も聞かずに。


  「あーあ、行っちゃった。やっぱり耳が悪いのかな?命令がたまに届かないや。しっかし、君は気持ち悪いなぁ。馬鹿みたいに笑ったと思えば急に怒鳴り散らすなんてさぁ。痛くないの?血が、ほらドバドバって」


  軽薄そうなニヤケ面のユウタの顔を見る。当たり前だろう。何せ、もう()()()()()()()のだから。


  血走った目でずっとその顔を見続ける。その瞳は怒りを感じない黒い瞳。深い深淵を覗くようで見られるだけで怖気が走る。


  「な、なんだよ。いつまでもこっちを見てるんじゃない!気持ち悪い!後は終わりだ、お前はこれから王国の辺境に追放されてそこで暮らす!殺されないだけ感謝しろよ!」


  「…殺す勇気がないだけの間違いじゃないのか?」


  「そ、そんなわけないだろ!ほら!お前ら!連れて行け!」


  力なく連れていかれるゲードには溢れる怒りはもう感じない。しかし、瞬きもせずにこちらをずっと見続ける狂気をはらんだ瞳が不気味なのだ。


  「ッチ……なんだよ!つまらないな!泣いて!喚けよ!急に静かになりやがって!…睨みやがって!!気分が悪い!終わりだ!戻るぞ!ガス抜き、一応は成功だ!これで暫くは民衆は大人しくなるだろ!」


 

 

 




  「……ここが魔物の森の近く。という事は帝国が近いわけか」


  王国は西の大国、帝国は東の大国だ。ここは、王都から東に大きく離れた帝国との国境と魔物の森という凶悪な魔物が多数生息する地。


  「うはぁっ!何もねぇなぁ、ゲード様よぉ?どうすんだこれから、ギャハハハ!」


  王都からここまで送り届けた兵士達がゲードを馬鹿にしたように笑う。奴隷の印を刻まれ、右腕が無いゲードにはこれからを生きる術など皆無なのだから。


  しかしその質問に、ゲードは口角を上げる。首だけぐるりと後ろに振り向き狂気を更に増幅させた瞳を大きく見開きこう答えた。


  「決まっているだろ?王国をぶっ壊すんんだよォ!?」


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