第二十六話 魔法少女スカウト営業マニュアル
「僕と契約して魔法少女になってくれないかな?」
「え?魔法少女!?マジもんで!?漫画やアニメでよくあるアノ魔法少女?」
目の前で行われている淫らな行為。
転移してみたら、いきなり犯罪行為を目撃してしまい若干焦る。
「これってアレでしょ?正体バレないように生活しながら、秘密組織か何かと戦うやつでしょ?うわぁ何かワクワクするなぁ……本当に現実でこんな事ってあるんだ?それでそれで?私は魔法少女に変身して何と戦えばいいの?」
何かちょっとその気になってる、見ず知らずな女子高生。あ、コレあかんやつだ。
「わ・た・し」
その気になってる女子高生の肩に手を置き、会話に参加し、魔法少女になって戦う相手が誰なのかを優しく教えてあげる。
もちろん印象を良くするための満面の笑みと、若干の威圧魔法も忘れずに纏っている。
「え……?あ……テレビで見た事ある……ま、魔王……様?」
おうよ、皆大好き魔王様だぞ。
「おいおいダメだろ糞狐。私にちょっかい出してきた魔法少女が何人、どうやって殺されたのかもしっかりと説明してやらないと詐欺行為になるぞ」
「こ……殺され……?」
途端に見ず知らずの女子高生の顔が青くなる。
「な……何なんだキミは!いきなり現れて!キミには説明しただろう!今回のターゲットはキミではなくて異世界から……」
あ~……うっせ~なぁ……
何やら叫びだしてる浮遊狐を無視して、私は見ず知らずな女子高生との会話を引き続き楽しむ。
「最初の奴は上半身吹き飛ばしたな。二人目は重力魔法で圧死させたな。三人目は両手両足をもいでダルマにして放置したら出血多量で死んでたな。四人目は拘束魔法で動けなくして、一本一本指折ってたら、いつのまに窒息死してたな。五人目は自分の体が腐り落ちていく幻覚を永久ループで見せ続けたら7ループ目で心が折れて舌噛んで自殺してたな。六人目は私を見た瞬間に泣きながら小便漏らして命乞いを……」
「いやあぁぁぁ!!無理!!魔法少女無理!!やらない!私魔法少女なんてやりたくない!!ってかまだ死にたくないっ!!」
説明途中で女子高生の心が折れた。
話の最後に「全員蘇生魔法で復活して今は普通に生活してるよ」と付け足すつもりだったのに、そこまで聞かずに逃げ出してしまった。
「あ~あ……行っちゃったよ。人の話は最後までちゃんと聞けって両親から教わらなかったのかねぇ?」
小さくなっていく女子高生の背中を眺めながら呟く。
「何で僕の邪魔をするんだいユミ!せっかく好反応だったのに!!それに標的はキミではなく、異世界から来たエフィという少女だって説明しただろう?キミは彼女を倒した気になっているかもしれないが、まだ生き延びている事が魔力反応でわかったんだ!キミにやられた傷が完治していない今が彼女を倒す絶好の機会なんだ!邪魔しないでくれないかい?」
いや、もう完治してるし。
しかも反魔法まで習得しちゃってるから、なり立ての魔法少女じゃ間違いなく返り討ちにあうだけだろ。
「ああ、そうそう。その辺諸々もうある程度は解決してるから。今回ちょっとお前に用事があって来たんだよ。少しツラ貸せ」
私はそう言うと、有無を言わさずに浮遊狐の頭を鷲掴みして転移魔法を使う。
「ほれ、とりあえず害獣一匹確保してきたぞ」
浮遊狐を連れて運動場へと戻った私は、すぐさま手に持った害獣を投げ捨てる。
「何でそう雑なんだキミは!?第一何なんだいこの状況は!?エフィも健在だし、それに……第二個体の魔法少女かい?何がどうなっているんだい!?」
一人……じゃないな、一匹状況が把握できずに混乱しまくる浮遊狐。
面白ぇうろたえっぷりだな。
「今のこの状況の説明は後でするとして……お前、エフィがコッチ来た時に『あっちの世界を担当してるヤツから情報が入った』とか言ってたよな?つまりお前は、こっちの世界にいながら、あっちの世界担当と通信が可能って事なのか?」
有無を言わさずに、一方的に浮遊狐に質問をする。
「……その通りだよ。僕達、各個体同士はどれだけ距離が離れていても魔力による回線がつながっているから、いつでも情報のやり取りが可能になっているんだ。例え時空が違っていてもその範囲だよ」
不満そうな表情を浮かべつつも、素直に答える浮遊狐。
「魔法による回線ね……じゃあ魔力があれば、お前等の会話を盗聴できるんだよな?」
「そうだね……ある程度、魔力技能が高ければ、僕を媒体にして魔力のチャンネルを合わせれば、それも可能だとは思うけれど……ユミ!キミは一体何を企んでいるんだい!?」
浮遊狐の目は、もう完全に不審者を見る目つきになっている。
「私の企みも後で教えてやるから、もう一つ質問に答えろ。お前等は魔法少女スカウトする時の説明に嘘も混ぜ込むのか?」
まぁコイツの場合は、この会話のやり取りを考えても、馬鹿正直に答えてる感じだから、嘘をつくような事はないのかもしれんけど……
浮遊狐は、嘘はつかないけれど、必要最低限の情報しか開示しないって感じかもな。
聞かれれば素直に答えるけれど、聞かれなければ不利になる情報は絶対に答えない感じだな。
そして、それは、あくまでもコイツの場合ってだけで、私が知りたいのは、そうじゃない個体もいるのかどうか?ってな事である。
普通に考えれば、契約書に嘘を混ぜ込めば、契約不履行になっても文句は言えない。
だからこそ、そんな事を平気で行うスカウトマンがいるのかどうかを確認したかったのだ。
「嘘を?普通はそんな事をする個体はいないハズだよ」
そりゃあ「自分は嘘つきです」って馬鹿正直に自白する嘘つきはいないわな。
「どうしてそんな質問をするんだい?一体何があったっていうんだい?」
混乱する浮遊狐。
「それにつきましてはワタクシの方から説明いたします」
ステラちゃんが一歩前に出て話し始める。
時折エフィも混ざりつつ、今までの事の経緯を浮遊狐に説明している。
私達は、浮遊狐を回収しに行く前に同じ話を聞いていたため、この時間は正直暇でしょうがなかった。
「確かにそれは第二個体の行動には疑問が残るね……」
どうやら長い話が終わったようだ。
「とりあえずは第二個体に通信するとして、当の第二個体の返答によっては、キミ達はどうするつもりなんだい?」
どんな答えだったとしても、今更何も変わらないだろ?とでも言いたげな発言だな。
「その辺に関しては、私に考えがあるからいいとして……エフィに一つ聞きたいんだけど、お前の教団はあっちの世界に必要だと思うか?」
浮遊狐の話は一旦置いといて、私はエフィへと質問をする。
「そうだね……ステラの話と私の経験を総合して考えるに、教団幹部連中が私を利用して、権力を得るための組織だったのだろうね。そんな組織は平和を理想とする世界には不必要だね」
まぁ自分が傀儡にされてたって気付いたら、そりゃあ腹も立つわな……ってか、ずっと組織内にいて、自分が傀儡になってるって気付いてなかったのかコイツ?
「ステラちゃんはどう思う?」
同じ質問をステラちゃんにもぶつけてみる。
「女神様と同意見です。例え教団が無くなっても、ワタクシが女神様をお慕いしている気持ちは変わりませんので」
ステラちゃんはもう完全にエフィに依存しちゃってるな……うん、正直ちょっと引くわ。
「ユミ……キミは一体何をしようとしているんだい……?」
嫌な予感しかしない、といった表情を浮かべている浮遊狐。
「何をって……私がやる事って言ったら一つだろうが……」
一旦言葉を切り、存分に溜めてから続きを口にする。
「……魔王としての仕事だ!」
 




