第二十七話 浮遊狐と浮遊猫
『おや?第九個体ですか?アナタの方から連絡してくるとは、何かあったのですか?』
「随分と白々しいね第二個体。エフィをコチラの世界に来るよう誘導したのはキミだろう?」
私達が見守る中、浮遊狐と、エフィ曰く『浮遊猫』の通信が始まる。
私は、浮遊狐を通して通信を盗聴する形で傍受し、それをこの場にいる全員が聞けるように、念話の要領で全員と回線を繋げている。
結構複雑な術式らしく、普通ならこの状態を数分維持するだけで、魔力を使い切ってしまうらしいのだが、そこは有り余る私の魔力を有効利用している次第である。
「……やはりマオウ・サマは化物だね」
「……え?何でその状態を維持できるんですか?」
異世界人二人から同時に驚愕の声が漏れていたが、あえて無視した。
「まぁ裕美だしな……」
「常識は通じませんしね……」
「もう慣れたわよ……」
私をよく知る馬鹿三人はちょっと黙ろうか?
『言っている意味がわかりかねますね。私は人間災害についてを彼女に教えてあげただけですよ?そちらの世界に行ったのは彼女の意思であり、私の関与するところではありませんがね』
「白を切るつもりかい?ご丁寧にコチラの世界の空間座標まで教えておいて……それにエフィとは約5年も敵対関係だったんだろう?キミの事だ、それだけの期間があれば、彼女の内情だって理解していたハズだろう?人間災害の事を教えて煽れば、彼女がどういう行動をとるかくらいキミならわかっていただろう?」
『名推理ですね第九個体。状況証拠だけなので、このまま白を切り通してもよいのですが、アナタのなかではもう確信に至っているのでしょう?このまま話が長くなっても面倒臭いので素直に認めましょう。ええ、その通りですよ』
「相変わらず人を舐め腐ったような口調だね。どうせならコイツを始末してからコチラの世界に来ればよかったかもしれないね……」
エフィが誰に語るわけでもなくひとり言をつぶやく。
もちろん盗聴は一方通行なので、コチラでいくら騒いでも向こうにいる浮遊猫には聞こえない。
「認めるのが早くて助かるよ……ちなみに、何故そんな事をしたのか聞いてもいいかい?」
『……無能ばかりなんですよ、この世界の住人は。突然変異なエフィさん以外は、本当に魔法の才能が無い連中しかいないんです。私がいくら頑張ったところで、彼女を倒せる魔法少女なんて誕生しやしないんですよ。無能な馬鹿共をその気にさせるのも大変なんです。そんな事で私の貴重な時間を浪費されるくらいなら、標的であるエフィさんに勝手に自爆してもらう方がいいと思いませんか?』
「ワタクシなら……いずれ……女神様を倒せる力を……身につけられると……言ってくれていたのに……」
ステラちゃんが、うつむいたまま体を振るわせて、小声でつぶやく。
悲しんでいるのか、悔しんでいるのかはわからないが、ただ一つ言える事は、この浮遊猫は真正のクズだって事だな。
「私がマオウ・サマにやられる事も織り込み済み、というわけか……何から何までコイツの手の平の上で踊らされていたと思うと無性に腹が立つね」
冷静そうに喋っているエフィだが、その表情は完全にマジギレ状態になっていた。
「コチラの世界にステラという魔法少女が来ているんだ。エフィを倒すためにキミが送り込んだのではないのかい?」
『ああ、ステラさんと合流したのですか?まだ野垂れ死んでいなかった事に驚きましたね。彼女に会ったのなら、あの程度の魔力でエフィさんに勝てないのは理解できるでしょう?わかりますか?あんなゴミみたいな連中しかいないのですよ、コチラの世界は』
ゴミはてめぇだろが。
「……マジもんのクズだなコイツ」
今まで黙って話を聞いていた美咲がつぶやく。
美咲に同意するのは非常に遺憾であるが、まったくもって同意見だ。
『しかも、たちが悪いのは、そんなゴミ程度でも魔力を扱える才能がある連中のほとんどが、エフィさんの信者なんですよ。信仰対象に敵意を向けさせるよう仕向けるのが非常に大変なんです。この苦労がわかりますか?第九個体』
「それで嘘をついてまで魔法少女になるように仕向けてたんだね……そして、それすら億劫になって、元凶のエフィをコチラの世界に擦り付けた、というわけかい?僕の仕事を増やさないでほしかったんだけどね」
『申し訳ありませんね第九個体。私は5年ぶりの休暇を満喫いたしますので、後の事はよろしくお願いしますよ。なぁに、エフィさんには人間災害をけしかけて頂ければ、それで事は済みますから簡単ですよ』
……さてと、もういいかな?
私は目で浮遊狐に合図を送ると、ゆっくりと口を開く。
「面白ぇ話してるな。私も会話に参加してもいいか?」
『なっ!!?何者ですか!!?』
浮遊猫の驚いた声が頭に響く。
今までにない音量だなオイ。マジでビビッてんなコイツ。
「ナッ!?マサカ、ニ……人間災害カイ?」
オイ!?ちょっと待て!!セリフ棒読みすぎだろ浮遊狐!演技下手だなコイツ!大丈夫か?浮遊猫にバレてないか!?
『に……人間災害!?まさか!?この専用回線に介入してきたとでもいうのですか!?馬鹿な!?一体どうやって!!?魔術が規格外と言っても限度というものがあるでしょう!!?』
あ、コレ全然バレてねぇや。焦りすぎだろ浮遊猫。
まぁ、本来だったら絶対に誰も入ってこれない専用回線だもんな、そりゃあ焦るか。
私だって浮遊狐を一旦経由してなかったら、たぶん介入できなかっただろうしな。
「イッタイ何時カラ聞イテイタンダイ!?」
いや、お前もう喋るな。演技出来ねぇなら黙ってろよ。
「お前等がいつから喋ってたかなんて私にとってはどうでもいいんだよ。重要なのは、面倒事を私に押し付けて休暇を楽しむとかほざいた、その一文だよ」
『そ……それが何だと言うのですか?腹が立ちましたか?私を殺しますか?わざわざコチラの世界まで来て?私のようなちっぽけな疑似生命一匹を殺すためだけに世界を越えるなど、労力の無駄だと思いますがね?』
早口で捲し立てるように語りだす。
なんだオイ?逆ギレか?
「いいや、お前みたいなゴミ一匹殺す価値もねぇよ。私は今から、お前がいる世界をぶっ壊しに行く。ああ、人類は残しといてやるが、人工物等は全部ぶっ壊してやるよ……休暇、楽しめるといいな」
私はそれだけ言うと、マイクを切るようにして喋るのをやめる。
「……事後処理と報告書作成よろしく頼むよ」
浮遊狐がトドメの一言を放つ。
『ま……待ってください!?そんな事されたら、下手したら数十年・数百年単位で私は……』
何やら叫びだした浮遊猫の言葉を遮るようにして、通信を切る浮遊狐。
演技は下手くそだが、通信切るタイミングは完璧だな浮遊狐。
「実際、事後処理と報告書作成ってどれくらいの時間がかかるんですか?」
幸が疑問を投げかける。
「まず被害状況を詳細に報告しなくてはならないんだけど、それが世界規模なら、世界中を細部まで調べながら漏れなく見て回って報告書。そしてその世界が元の生活レベルになるまでの復興作業をコッソリとバックアップするんだけど、これも文化財が全てなくなってる状態だろうから途方もない時間がかかるだろうね。さらに、その復興にかかった労力・時間等を金額換算して算出したうえに、どのようにして復興していったかも含めて報告書にまとめて、その後は……」
「あ、ごめんなさい……もういいです」
浮遊狐の説明を途中で遮って、幸はギブアップ宣言をする。
とりあえず聞いてるだけで頭痛くなってくる内容だって事は理解できた。
「まぁその辺の諸々の事を全部一人でやらなくちゃならないんだ」
何それ?拷問?
ってか『一人』じゃなくて『一匹』だろ。
まぁともかく、そんな事は気にせずに、私はただ異世界で大暴れするだけの簡単なお仕事をしてくればいいだけだ。
「ともかくエフィ、ステラちゃん。私は本気で、お前等の世界を滅ぼしに行くけど後悔はないか?」
一応、一度話してはあるが、再度確認をとる。
「かまわないよ。無能な権力者が多かったから、あの世界は戦争が絶えなかったんだ。一度リセットして、本当に有能な者がのし上がり民を導けるようになれば、今よりも随分とマシな世界になるだろうしね」
「ワタクシもかまいません。あの世界には未練はありませんし、今を生きている人の無事が保証されるのでしたら、何も言う事はありません」
人を殺さないように世界中の建造物をぶっ壊すのか……意外と難しいな。
まぁうっかり殺っちゃったら蘇生魔法使えばいいか。
「保証に関しては安心してほしい。人間災害から被害を受けた人の衣・食・住は僕らの世界からバックアップされる事になっているんだ。貧民層の人からしたら、今までの生活レベルより上になるんじゃないかというくらいの保証があるんだ……まぁその辺は第二個体の仕事だから、彼を信じるしかないけれど、さすがに本国の命令には逆らえないだろうしね」
最後にちょっと不安になる一言を放つ浮遊狐。
たぶん大丈夫だろうと信じるしかないんだけど……
まぁともかく……
とりあえず、魔王として、いっちょ世界一つ滅ぼしてきますかぁ!




