第二十二話 トラウマ持ちの魔法少女
ファミレスというのはとても便利であると私は思っている。
ドリンクバーさえ注文しておけば、何時間居座っても飲み物飲み放題で暇が潰せる。
変な時間に起こされたせいで、午後になってやる事が無くなってしまった今の私にはもってこいの場所である。
ただ一点、文句があるとすれば、私を睨みつけている生意気な店員がいる事くらいである。
「何でバイト中までアンタのツラ見なくちゃなんないんだよ……」
今日、寝起きに美咲に言った事をアレンジして返された気がする。
「おいおい態度の悪ぃ店員だな?私はお客様だぞ?頭が高ぇなぁもっとひれ伏せよ」
まぁつまるところ、美咲がバイトしているファミレスに来て、美咲をからかって暇をつぶしてる真っ最中である。
「そう言うなら、せめてドリンクバー以外の物も注文しろよ……」
いや、とりあえず真っ先にドリンクバー注文しといただけで、一応他の物も注文するつもりだったんだけどなぁ……
「あの……美咲さん、どうすれば?」
よく見ると美咲の後ろに背が低めの同年代くらいの女の子が立っていた。
美咲と同じ制服着てるので同じバイトの子なんだろうけど……
「あ、ごめんね。それじゃあ、なっちゃんコイツから注文取ってみよう。大丈夫!コイツ口は死ぬほど悪いけど金だけは持ってるから」
ひでぇ紹介だな。
にしても……
「新人教育中?」
「ああ、うん。この子は金井夏美ちゃんっていって、今日からここで働く事になった新人バイトなんだよ。お昼のピークが終わって落ち着いた時間だからアタシについてもらって色々教えてるところ」
「えっと、金井です。よろしくお願いします……えっと?」
「あ~……私は大間裕美ね、まぁただの客だから覚えなくていいけど」
「あ、はい大間さんですね。今後ともお願いします」
けっこう礼儀正しい子だな。
「よし、じゃあ夏美ちゃん気に入ったから、ここに載ってるデザート全部注文するわ」
「ええっ!?」
あ、困惑してる。
「太るぞ裕美。あ、なっちゃん、さっきも言ったけど、コイツ金だけは腐るほど持ってるから普通にオーダー入れちゃっていいよ」
腐るほどはねぇよ。
まぁ、上納金と称して魔族全員から月1000円づつ徴収はしてるけどね。
この町や、その周辺にいる魔族は約1000人、それを3年前から続けているので……
いや、でも、何か不慮の事故とかあっても蘇生できるって特典があって月1000円は破格だと思うんだ。
「じゃあなっちゃん、まずはハンディを出して……」
美咲の言う通りに、注文を取るために夏美ちゃんは制服のポケットからハンディを出す。
「あっ!」
ハンディと一緒にポケットにしまっていた何かが、ハンディを出した勢いで床に落ちる。
私の足元まで転がってきたソレを、私は拾い上げ夏美ちゃんに返してあげようと……
「……ん!?」
「あっ!?」
私と美咲は同時に反応する。
ソレは魔法少女に変身するための石だった。
ってか何でそんなとこに変身アイテム入れてんだよ!?
たぶん、アノ狐に「大事な物だから肌身離さず持っていて」とか言われてたのを守ってはいたんだろうけど、もうちょっと別のとこしまっとけよ。
「なんだぁ~なっちゃんも魔法少女だったのかぁ……言ってくれればいいのに!」
いや、馬鹿だろ美咲?誰が初対面の相手に「私の名前は金井夏美です。魔法少女やってます」とか言えるんだよ?普通はドン引きされる案件だぞ。
「え……?あの……?何でそれを?」
混乱している夏美ちゃんに、美咲は自分の石をポケットから取り出して見せる。
「へへへ~……おそろい~」
変にニヤニヤしながら、美咲は夏美ちゃんに笑いかけている。
夏美ちゃんは夏美ちゃんで状況が整理できずに、目を丸くしている。
「裕美。なっちゃん魔法少女としてもアタシ達の後輩だったみたいよ」
「……え?『後輩』?」
「うん、アタシ達3年前から魔法少女やってるしね、断言できるよ!なっちゃんにとってアタシ達は100%魔法少女の先輩だよ」
そりゃあ、魔法少女になった順なら1番目と2番目なんだから当たり前だろ?何を先輩風吹かせてるんだコイツは?ってか何を勝手に『達』とか付けて、私の情報まで披露してるんだよ?いきなりすぎて止める間もなかったじゃんかよ。
「…………………」
目に見えてわかるレベルで、夏美ちゃんの顔がどんどん青くなっていく。
……あ、何か嫌な予感がするぞ。
「あの……私の魔法少女としての先輩は2人しかいないってキューブちゃんが……そのうちの一人は魔王って……」
キューブちゃん?……ああ、浮遊狐の名前そんな感じだったか?
にしても、まさか夏美ちゃんが3人目の魔法少女だったのかぁ……
って事は、私が理不尽にブチ切れてボコボコにした魔法少女かぁ……
超気まずいな……
いや、まだ『私か美咲のどっちかが魔王』って段階だろうから、ここは一つ美咲に罪を被ってもらえば……
「い……言われてみれば……大間さんの声……き……聞き覚えが…………」
はいバレた!
「あ……あの……ごめ……ごめんなさい……なまいき……なまいきな口きいて……ゆ……ゆるし……ゆるしてください」
夏美ちゃんは、完全に血の気の引いた真っ青な顔で、大粒の涙を流しながら震えながら土下座をしようと床に膝をつきだす。
「だ、大丈夫!大丈夫だから土下座はやめて!」
客が少ない時間でよかった……
「えっと、夏美ちゃん。左腕見せてもらっていいかな?」
私の言葉に無言でうなずくと、左腕をめくり私に見せる。
そこには何針も縫ったであろう傷痕がクッキリと残っていた。完治はしているが、それがどれだけ酷い傷だったのかはよくわかる。
「うわ!?コレは酷いだろ……」
のぞき込んだ美咲が私に非難の目を向ける。
ただ、その傷痕を見て、夏美ちゃんが3人目の魔法少女だと確信した。
「何をやったんだよ裕美……この傷痕とか見るに、回復魔法すら使わせてあげない状態でいたぶったのか?なっちゃん、後でアタシが回復魔法かけてあげるよ。アタシ回復魔法は得意なんだよ!傷痕もほとんど見えないレベルまで治せるから」
いや……たぶんコレは美咲がどうがんばっても回復魔法じゃ治せないと思う。
「あ……いえ、大丈夫です。気にしないでください」
夏美ちゃんもわかっているようで、やんわりと断る。
「治ってないのは左腕だけ?あとは大丈夫なの?」
美咲が色々心配して身体のあちこちをチェックしている。
「跡が残ってるのはそこくらいのハズだぞ、何度もぶん殴ってバッキバキに折った前歯も、千切り捨てた右腕もちゃんとあるだろ?」
その言葉を聞いた夏美ちゃんは、思い出したかのように自分の身体を両手で抱えて、膝から崩れ落ちて震えながら大粒の涙を再び流しだす。
「裕美……やりすぎだろ」
言われなくてもわかってるよ。
あの時はついカッとなっちゃったんだよ、まだ中学生のガキだったんだよ私も。
「えっと……夏美ちゃん。今更言うのも何だけど、あの時はやりすぎた。ほんとごめんね」
夏美ちゃんは何も言わずにただ泣き続けていた。
「アタシさぁ、朝会ったとき裕美に冗談で『魔法少女全員アンタの顔みたら泣き出すレベルだから』って言ったじゃん?」
そういや言ってたかもしれない。
「冗談で言ったつもりなのにマジだったってどんだけだよ!?」
返す言葉がないッス……




