番外編3 ~三人目の魔法少女~
将来の夢を聞かれた事はありますか?
小さい頃は何にでもなれると信じてました。
私はその頃ハマっていたアニメのキャラになりたいと思っていました。
そんな突拍子もない夢でも、大きくなればなれると信じて疑いもしませんでした。
周りの大人達は「きっとなれるよ」という無責任な言葉を放ちます。
そして大きくなるにつれ、『夢』を語ると『妄想』と吐き捨てられるようになりました。
それでも私は心のどこかでは諦めきれない部分がありました。
信じていればきっと……
その言葉が常に頭にはありました。
そして……夢が叶う瞬間というのは突然やってくるものだと理解しました。
私が中学生になった時、突然現れた魔物達に人類が敗北するという事件が起きました。
町にはたくさんの魔物が現れ、我が物顔で暴れ回るというアニメや漫画のような展開……
これが本当にアニメや漫画でしたら、魔物を退治する正義の味方が現れるハズだ!
真っ先にそういった展開を妄想しました。
この頃の私は、自分に特別な才能がないのは既に理解していました。
自分が物語の主人公になれると思えるほど子供ではありません。
ただ、私の憧れた存在である、いつか登場するであろう、その『物語の主人公』と友達になれればいいな、その適度の野望だけはありました。
事実は小説より奇なりとはよくいったものです。
ある日突然私の前に現れた狐のようなマスコットキャラ。
名前は長くて全部は覚えられませんでしたけど、私はキューブちゃんと呼んでいます。
キューブちゃんの話によると、魔王軍をどうにかしようとした一人目の魔法少女は力に溺れ、人類を裏切り、逆に魔王軍を率いて世界をこの様な状態に変えた張本人。
そして、この魔王・魔法少女を倒そうとした二人目の魔法少女は力及ばず魔王に敗北した。
私は三人目であり、二人目の魔王少女の犠牲により、三人目が力をつけるまでの間は魔王が動けないようにしたらしく、成長する時間が与えられた分魔王を倒せるチャンスなんだという事でした。
正直怖いという思いもありました。
でも、子供の頃夢に見ていた物語の主人公のポジションを得られる喜びの方が大きかったかもしれません。
そこから先はアニメの中のような展開でした。
私は普通に学校に通い、何か魔物が悪さをする事件が発生すれば、変身してその魔物を倒す。
私が魔法少女になった事は誰にも話しませんでした。
理由は、私の正体が魔物にバレて、私と関係のある人が人質に取られるなど、戦いに関係ない友人・家族が巻き込まれてしまうのを恐れたため……と自分に言い聞かせていました。
実際は親しい友人とかには喋ってもよかったのかもしれませんが、アニメや漫画と同じようなお約束を守る事で、より自分が物語の主人公になっている感じがして気持ちが良かったため、黙っていただけなのかもしれません。
そして今、一つ物語が進行しました。
ついに魔王軍幹部である、四天王の一角を崩す事ができたのです。
「すごいじゃないか!ついにナツミも魔王軍の幹部を倒せる実力になったということだね」
傍らで戦いを見守っていたキューブちゃんが嬉しそうに、私のもとに飛んで来る。
「えへへ……満身創痍ですけどね。何とか倒す事ができました」
傷だらけの顔ではありましたが、やってきたキューブちゃんに笑い返す。
「それでも素晴らしい成長だよ!この調子でいけば、近いうちに魔王だって倒せるくら……い……」
キューブちゃんの様子がおかしくなる。
私は咄嗟に後ろを振り返る。
「面白ぇ話してるな……私も混ぜてくれない?」
そこにはピンク色の髪とピンク色の衣装を身にまとった同年代くらいの女の子が立っていました。
私は、今までの癖でサーチ魔法を使い相手の魔力を把握しようと咄嗟に動いて……
「~~~~~っ!!?」
あまりに強大すぎる魔力に腰が抜けてしまい、座り込む。
感じた事ないです!こんなバカげている魔力量……
そんなバカげた魔力の待ち主は、凄まじい殺気と視線を私に向けて、一歩一歩こちらに近づいてくる。
この人は何でこんなに怒ってるんでしょうか?私は何かしましたか?
怖い……すごく怖いです!
何で……何でこんな……
「魔王!!」
キューブちゃんが叫ぶ。
え?魔王?この子が?じゃあ怒っているのは彼女の部下の四天王を倒してしまったからですか?
「約束が違うじゃないか!何でキミがこんな所にやってくるんだ!?」
キューブちゃんの叫びを無視するように、魔王は私に向かって手を伸ばし、開いていた手のひらをグッと閉じる。
「っっっ!!?」
身体が動かない!?声が出ない!!?呼吸も……
すぐに拘束魔法だと気付いたのですが、何故かどうやっても解呪できない!!?
「約束?そんなの知るか!私は今、最高にイラついてるんだよ」
「何に対して怒っているんだい!?キミの部下の四天王の一人を倒してしまった事かい?」
喋る事すらできずにいる私に代わってキューブちゃんが魔王に聞いてくれていました。
「はっ……!そんな奴の一人や二人殺されたところで別に何とも思わねぇよ!どうせすぐに蘇生できんだから」
「じゃあ何故!?」
魔王は倒れている四天王の一人と私を見ると一息ためて、私を指差し……
「コイツがやってる事ってのは全部、私がやりたかった事なんだよ!!学校通いつつコッソリ変身して魔物と戦い、幹部を死闘の末倒して、順当にパワーアップしていって……」
何を……この子は一体何を言ってるんですか?
「もうダメだ!もう見てられない!!我慢の限界なんだよ!私から全てを奪っていってるようでイラついてしょうがねぇんだよ!!」
何で?私は私なりに頑張っていただけなのですが、それがダメだったって事なんでしょうか?
「逆恨みも大概にしてくれないか!キミにもそのチャンスはあっただろう?僕の話も聞かずに飛んで行って前魔王を瞬殺してしまったのはキミ自身じゃないか!!」
「ああ、その通りだよ……あの時の自分がいたら、力ずくでも止めてやりたいところだけど、結局のところ過去はやり直せないんだよ!だからこそチャンスをモノにしてる奴がムカついてしょうがねぇんだよ!逆恨み?何が悪い!!」
彼女の言っている意味が全部はわかりませんが、たぶん彼女には話は通じませんし、私が許してもらえる事は絶対にないのでしょう……
「ほらほら、正義の魔法少女さん。目の前に悪い悪~い魔王がいるぞ。倒せるもんなら倒してみろっ!!」
「――――――っっッ!!」
顔に物凄い衝撃を受ける。
鼻からなのか、口からなのかはわかりませんが、血が垂れているのが見えました。
痛い……すごく痛いです。
「おいおい……まだ軽~く一発殴っただけだぞ、何涙ぐんでんだ?」
そう言うと、魔王は同じ個所を何度も殴ってくる。
防壁魔法を張っているハズなのですが、まるで効果がありません。
一発殴られるごとに、少しづつ歯が欠けているのがわかりました。
痛い……痛い……苦しい……
「つまんねぇな……ほら、拘束魔法解いてやるから少しは反撃してみろよ」
私が限界を迎えそうなタイミングで、魔王は拘束を解いてくれました。
「うわあぁぁぁぁ!!!」
ここで何とかしなければ本当に殺されてしまう。
私は無意識に叫び声を上げ、咄嗟に得意の雷槍を繰り出し魔王を攻撃しました。
渾身の一撃でした。
ただ、その渾身の一撃は魔王の肌に触れる事なく弾かれていました。
「何だソレ?馬鹿にしてんのか?」
魔王は一言つぶやくと、攻撃した私の右手の手首を掴むと、そのまま私を振り回すように地面に叩きつけてきました。
「っかは!!?」
受け身も取れずにそのまま背中から落ち、再び呼吸が上手くできなくなりました。
ただ魔王の攻撃はそこで止まる事はありませんでした。
私の右手を掴んだまま、倒れている私の右腕に足を落として……
「あああああああぁぁ~~っ!!!!?」
まるで大型トラックに踏みつぶされたと錯覚するほどの衝撃が右腕に走り、私は狂ったように叫び声をあげました。
「あはははは!わりぃな、腕取れちった」
私が見上げるそこには、私の二の腕から先を持った魔王がいました。
私は視線をゆっくりと右にむけると、そこにあるハズの私の右腕がなくなっていました。
「あ……ああ……」
言葉がでませんでした。
私は咄嗟に回復魔法をかけ、腕が再生しないかを試みましたが、ギリギリ出血が止まる程度で、それ以上の治療はできませんでした。
「はぁ~……だいぶスッキリしてきたから、もういいかな?最後にちょっと実験に付き合ってくんない?」
魔王はそう言うと、刀の様な形をした魔力の塊を作り出しました。
そして、右腕に回復魔法をかけている左腕を切りつけられました。
痛いという思いはありましたが、既に感覚がマヒしてしまっていて、何も言葉を放つ事ができませんでした。
「それじゃあ一旦さようなら。正義の魔法少女さん……」
その一言を放つと、魔王は私の方を指差し、その指を下に向けました。
とてつもなく重たい何かに踏みつぶされるような感覚を最後に、私の意識はそこで途切れました……
……………
………
…
ふと、左腕に痛みを感じ目を覚ましました。
咄嗟に右手を自分の口元にもっていく。
ある……
折られた歯も、千切られた右腕も……?
「どういう事だい!?キミの蘇生魔法は完璧なんじゃなかったのかい!?何で左腕の傷だけそのままなんだい!?」
キューブちゃんの怒鳴り声が聞こえました。
「反魔法の魔法を試してみたんだよ。本来は魔法を弾く防御用で使ってたんだけど、それで攻撃してその魔力を体内に残した場合、回復魔法を弾くかどうか試してみたんだよ」
「この子を実験台にしたっていうのかい!?そういう危険な事を試したいなら自分でやればいいじゃないか!」
「やだよ。自傷行為するほど私は馬鹿じゃないんでね」
何やら言い争っているようにも見えますが、魔王はキューブちゃんの言う事を適当に受け流しているように見えました。
「とりあえず今回の事でわかったのは、反魔法の効果は一回死んでも残るって事だな。結構しぶといんだな?まさか蘇生魔法でも治らないとは思わなかったわ」
そう言いながら魔王は、倒れている四天王の方に歩いていき、蹴り飛ばしました。
「ほら起きろ!」
次の瞬間、魔王に言われるがまま、苦労して倒した四天王が起き上がりました。
「そ……そんな……倒したハズなのに……?」
「さっき蹴った足で蘇生魔法をかけたんだ。本当にバカげた存在だよ……誰も使えないような大魔法を連発してるのに魔力量に何の影響も受けていない……」
いつの間にか、倒れている私の隣に来ていたキューブちゃんがぼやく……
「ほら……お前、名前何だっけ?まぁいいか。とりあえずあそこで倒れてる魔法少女を応急処置しといてやれ、私は帰るから」
そう言って魔王は、忽然と姿を消しました。
「今度は転移魔法かい?あの子はいったいどれだけの超高位魔法を身につければ気が済むというんだろう?」
魔王を魔法少女にしてしまった事を後悔している様な、そんな感情を込めた口調でキューブちゃんがつぶやいていました。
そして私が倒れている場所に近づいてくる四天王……
ああ、きっと私は復讐されるんだ……そんな考えが頭をかすめました。
「ウチの魔王様がすまない事をした。それと重ねてすまない……今は止血しかしてやる事ができない」
その言葉を聞いて、私は自然と涙が出てきました。
悔して……悲しくて……申し訳なくて……
「ごめんなさい……魔物は皆悪い人だと思って攻撃してしまって……それとキューブちゃん……ごめんなさい……私、もうこれ以上は戦う事ができそうにないです……」
「いいんだ……気にしなくていいんだよ」
私の懺悔に対して二人とも口をそろえて慰めてくれました。
私は物語の主人公ではなかったのだと思い知りました。
この物語は、悪い魔物達から世界を救う魔法少女の話ではなくて、強大な力を持った魔王の叙事詩だったのです。
それを今更ながら理解し、悔しくて、悲しくて……
涙は止まる事がありませんでした。
そして……
私を病院に連れて行ってくれた両親に「危険な遊びしててこんな傷つくったんだろ!!」と、しこたま怒られ、私の涙は止まる事がありませんでした。




